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日本集団災害医学会会誌  第6巻 第2号  要旨集

JADM abstract Vol.6 No.2 in english


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    1. 生物剤テロ対処

      箱崎 幸也  中川 克也  作田 英成  高橋  央


    2. 米国同時多発テロ ―世界貿易センタービル医療現場報告―

      小林 直之

    3. アンケート調査に基づく敦賀湾における核事故を想定した広域医療対応力の分析

      小城 崇弘  柳沢振一郎  鎌江伊三夫

    4. 自衛隊の災害派遣(医療支援)に関するアンケート調査結果   −災害拠点病院について−

      桑原 紀之  赤沼 雅彦  箱崎 幸也
      山田 憲彦  白濱 龍興

    5. 化学工場爆発事故発生時の看護者の行動    −周辺地域病院の看護職アンケート調査から−

      矢嶋 和江  板垣喜代子

    6. 災害医療における皮膚科医の役割

      堀内 義仁

    7. 有珠山噴火避難時の医療ネットワーク

      宮崎  悦  後藤 義朗

    8. 噴火避難時の医療状況の評価   ―2000年有珠山―

      後藤 義朗  宮崎  悦

    9. YOSAKOIソーラン祭り会場テロにおける救急医療対応

      丹野 克俊  吉田 正志  栗本 義彦  長谷  守
      奈良  理  伊藤  靖  浅井 康文

    10. 伊豆七島近海の群発地震および火山災害に対する現地医療の変化と対応

      井上  仁    大島  武   伊賀  徹  新井  薫
      永田三保子  高澤 環志  田辺 康宏

    11. 鳥取県西部地震における岡山県基幹災害医療センターの対応と問題点

      石井 史子  若林 隆信  清水 孝市  本郷 基弘

    12. 日本橋郵便局異臭事故の活動報告

      加藤 義則  竹内 栄一  白谷 祐二  行岡 哲男

    13. 群馬県内で起こった化学工場爆発による災害

      饗場 庄一  宮澤  功  平形  昇  福田 秀樹
      新井 則彦  大橋 憲一  岡部 隆弘

    14. 広域集団災害における負傷者消息安否情報システム導入の試み

      桜井 立良  松本  功  藤木 義雄  笹内 信行
      横瀬 喜彦  高橋 精一  原田 裕子  森田 倫史

    15. 新島近海地震における医療救護活動   ―医療救護班における薬剤師の役割―

      宮永 幸実

    16. 米空軍重症患者空輸チーム(CCATT)   養成コースへの参加報告

      松島 俊介  花田 隆造

 

 


1.生物剤テロ対処


箱崎 幸也1  中川 克也1  作田 英成2  高橋  央3

1自衛隊阪神病院,2陸上自衛隊部隊医学実験隊,3国立感染症研究所


 2001年9月米国本土での同時多発テロ以降,全世界で生物剤テロ脅威が現実となっている。多くの細菌・ウイルスが生物剤テロで利用可能であるが,とくに天然痘ウイルス・炭疽菌は致死率が高く,エアロゾル状態で安定,大量生産が可能などで最も恐れられている。多くの生物剤テロは秘匿的攻撃となると考えられ,最初の兆候は感染症患者であり,その症状は多彩で潜伏期間もさまざまである。生物剤曝露の認識は,常に遅れがちとなるため初期対応の困難さを常に念頭に置かなければならない。ワクチン療法は将来的にも生物剤脅威に対して最も効果的な予防手段であり,ワクチンの国家的備蓄が緊要である。秘匿的テロ攻撃への対策では,集団発生を正確・迅速に把握できるサーベイランスシステムの整備が最も重要である。本邦では現行の感染症新法をテロ対処可能なかたちとするのが,最も現実的で効果的と思われる。各医師会・保健所,さらには消防・警察・自衛隊をも含んだ多機関共同の包括的な地域社会対応が,大規模災害時と同様に生物剤テロ対処にも不可欠である。さらには国・県レベルでの早期介入が,患者救命に寄与し各種テロをも未然に防ぐと考えられる。

 


 2.米国同時多発テロ ―世界貿易センタービル医療現場報告―


 小林 直之
AMDA(アジア医師連絡協議会)

要旨 2001年9月11日に米国で同時多発テロにより世界貿易センタービルおよび国防総省が破壊された。11月11日の時点において,前者における邦人を含む行方不明者3,748名,死亡者556名といわれるが,現地での被災者の救援状況,外傷の詳細について日本ではあまり知られていない。今回,医療状況の調査および今後の支援の必要性を判断するため,世界貿易センタービルの被災現場および周辺救急医療施設をAMDA医療支援チームの一員として9月21日から24日まで視察した。被災現場では24時間体制で行方不明者約6,000名の捜索活動が行われていた。受傷者の内訳は,ガス,アスベストを含む塵灰による眼球・呼吸器刺激,熱傷,切創,挫傷,頭部打撲,骨折,crush syndromeなどであったが,トリアージを含めた初期治療は十分に行われたと考えられた。今後は被災者およびその家族,さらに救援にあたった消防隊員,警官らに対する長期的精神ケアが重要と思われた。

 


3.アンケート調査に基づく敦賀湾における核事故を想定した 
広域医療対応力の分析


 小城 崇弘  柳沢振一郎  鎌江伊三夫

神戸大学都市安全研究センター都市安全医学研究分野

要旨 敦賀湾における核事故を想定した医療対応力に関して,北陸・東海・近畿の一部の医療機関にアンケート調査を実施した。その結果,ヨウ素製剤の備蓄・重症熱傷や骨髄抑制の治療などの急性期治療は,限定された人数なら対応可能であるが,大規模事故にて多数の被曝者が出た場合は対応が困難であることが推定された。広域避難に対しては転送手段・受け入れネットワークに課題がある。NBC災害や大規模災害に対する災害対応マニュアルを含めた準備態勢にも問題点が見受けられた。個々の施設や自治体の対応の限界を超えた問題が多く,行政や関連学会の補助が必要と考えられるなど,今後の課題が示唆された。

 


4.自衛隊の災害派遣(医療支援)に関するアンケート調査結果

−災害拠点病院について−


桑原 紀之1  赤沼 雅彦1  箱崎 幸也2
 山田 憲彦3  白濱 龍興1

1自衛隊中央病院,2自衛隊阪神病院,
3防衛庁航空幕僚監部主席衛生官付(現在;防衛庁統合幕僚会議事務局第4幕僚室)

要旨 平成8年以来,自衛隊の災害派遣(医療支援)に関し小冊子を作成して配布し,全国の地方自治体と医療機関などに多年度にわたってアンケート調査を行った。今回,同一アンケートを全国520災害拠点病院に実施した。[結果]@返信率:自治体に比べ60%と低率で,基幹災害医療センターでも70%であった。A要請の必要性:自衛隊衛生部門も含め要請の必要性は認知されているが,その手続きは「知らない」が61%と高率であった。B自衛隊衛生への期待度:自治体と同様95%と高く,項目も類似した。C地域防災訓練:自治体と大きな差があり,「全く参加した事がない」が28%であった。D今後の自衛隊との連携:その必要性は自治体の95%に比べて40%と低く,「どちらとも言えない」が23%と高かった。[結論]災害拠点病院は平成8年度に行った医療機関と同様のアンケート結果であった。自衛隊に対する認識差が拠点病院間で著しかった。

 


5.化学工場爆発事故発生時の看護者の行動

−周辺地域病院の看護職アンケート調査から−


 矢嶋 和江1  板垣喜代子2

1 群馬パース看護短期大学
2医療法人群馬会赤城高原ホスピタル

要旨 近年,都市化と道路網の整備による宅地化が進行し,花火工場や化学工場などの周辺にも人々の生活が営まれているようになった。こうした新興住宅地に発生する工場爆発事故はここ数年増加しており,多くの住民が巻き込まれる都市型災害の一つといえる。地域の病院施設の災害対策は,こうした災害にどのような対応ができるのか,G県に発生した爆発事故を例に,被災者が搬入された病院4施設の看護部に焦点を当て,事故発生時に看護職はどのような行動をとったのかアンケート調査を実施した。その結果,3つの施設の看護管理者は多死傷者の発生を予測し,うち2施設は現場で指揮をしている。また,勤務中の看護職員には緊急対応の必要性を考慮した動きがみられ,緊急時の役割行動に対する意識の高さがうかがえた。勤務外の婦長・主任やスタッフでは,事故の情報収集以外に非常時体制に関わる積極的な行動,病院に連絡する,応援に駆けつけるといった看護職としての役割意識に基づく行動をとったのはきわめて少数であった。今回の体験から,緊急時の連絡体制や災害マニュアルなどの確立,地域・病院間ネットワークの必要性などの意見が多くあげられ,看護職員の災害マニュアルなどに関する周知度が薄いことがわかった。今後,増加する都市型災害に対応すべく自院の災害マニュアルの周知化を図り,防災訓練などへの積極的参加とともに,災害救護活動に対する関心を高めることが必要ではないかと考える。

 


6.災害医療における皮膚科医の役割


 堀内 義仁

国立病院東京災害医療センター

要旨 ここでは,震災などの災害時に皮膚科医はどのように対応すべきか,できるのかを考えてみた。災害の急性期における小外傷の処置,創の細菌感染症の治療は,皮膚科医が対応すべき分野である。海外の災害に対しての緊急医療チームに参加すれば一般医師として,皮膚科医としての活躍の場がある。慢性期においては,アトピー性皮膚炎などの慢性疾患の増悪に対応する必要があり,そのためには,日頃から抗生剤や外用剤の備蓄を行っておく必要がある。このほか近年国内で起きた,あるいは今後起こる可能性のある種々の災害のなかにも,皮膚科医が専門の立場から関与しなくてはならないものが多い。皮膚科医は災害医療全体のなかでの自分たちの位置づけを理解し,日常からこれに十分に備えておくべきである。

 



 7.有珠山噴火避難時の医療ネットワーク


 宮崎  悦1  後藤 義朗2

1 とうや協会診療所
2 洞爺協会病院     

要旨 2000年3月29日,洞爺協会病院は有珠山噴火(3月31日)に先立ち患者,職員の全員避難を決断し,無事避難を敢行しえた。患者の約半数は退院となり,残りは近隣の病院に転院となった。この経験より病院連携の重要性を痛感するとともに,緊急災害時における避難行程や,転院先の病院(受け手側)での受け入れ体制においてさまざまな問題点が浮き彫りになった。また,各避難所での医療体制にも今後改善すべき点が明らかになった。有珠山の噴火後,三宅島の噴火,鳥取県西部地震など災害が相次いでいる。火山・地震列島である日本で医療に携わる者は,救急専門以外でも自然災害を想定した準備体制を整えておくことが必須と考え,われわれの経験を報告する。

 


 8.噴火避難時の医療状況の評価―2000年有珠山―


 後藤 義朗1  宮崎  悦2

1 洞爺協会病院     
2 とうや協会診療所

要 旨 23年ぶりに有珠山噴火(2000年3月31日)。迅速な避難指示により,壮瞥町,虻田町の住民は噴火前に無事避難終了。壮瞥町の1診療所,洞爺湖温泉町から1病院が避難したが,後者は入院患者141名を近隣の病院(伊達日赤病院64名,洞爺温泉32名,羊蹄グリーン20名)に自主搬送した。噴火当日は,虻田本町の1病院,3診療所が避難。本町住民も状況の変化で避難所を転々とした。全避難所は16ヵ所から倍増したため,救護班による支援体制の早期確立は困難であったが,徐々に整備された。5月に地元医療機関も再開でき,徐々に落ち着きもみせた。
災害報告書は,これまで公的機関や救護班によるものだけで,避難した病医院と避難住民を受け入れた病医院の立場からの報告はない。そこで,地元の医療機関を対象にし,アンケート調査を行った。当時の医療体制を時間的推移で調査し,救護班と地元医療機関との連携,医療上の問題点に検討を加えた。

キーワード:噴火災害,避難状況,救護班,避難所


 9.YOSAKOIソーラン祭り会場テロにおける救急医療対


 丹野 克俊  吉田 正志  栗本 義彦  長谷  守
 奈良  理  伊藤  靖  浅井 康文

札幌医科大学医学部附属病院救急集中治療部

要旨 [目的]祭りの観客らを無作為に狙ったと思われる爆発事故が発生した。今回この事件を通してトリアージ,医療体制について文献的考察を加えて検討した。[経過]10名が原因不明の爆発により負傷した。先着救急隊が傷病者を確認し,うち1名がショックのため当部へ搬送となった。搬入時,心タンポナーデを認め,心ドレナージを施行したが心停止をきたした。処置室内で開胸したが出血のコントロールがつかず,手術室で人工心肺下に止血術を施行した。術後経過は順調であり,第36病日に独歩退院した。[考察]今回の症例では,多数傷病者発生にもかかわらず傷病者数の把握とトリアージによる重症者の選別,応急処置,および病院搬送が適切に行われたために救命できたものと考えられる。近年,不特定多数を狙ったテロ行為が多発する傾向にあり,災害医療施設では適切な院内対応を行うことが必要と考えられた。

 

 

 10.伊豆七島近海の群発地震および火山災害に対する現地医療の変と対応


 井上  仁1  大島  武1  伊賀  徹1  新井  薫2
 永田三保子3  高澤 環志3  田辺 康宏4

1都立府中病院救命救急センター,2三宅村中央診療所,3新島村本村診療所,4神津島村診療所

要旨 2000年夏の伊豆七島近海の群発地震,火山災害に対する現地医療の実態を調査した。人口3,855人を有する三宅島では6月26日の緊急火山情報に即応し,特別養護老人ホーム入所者の避難と医療救護班の派遣が行われた。8月の自主避難や9月4日の全島民島外避難のために,診療所では大量の診療情報提供書作成を要した。その後は残留防災関係者の健康相談を実施した。神津島では地震災害に関連した外傷が20例あったが,即死1例を除き重症例はなかった。特別養護老人ホームへの陸路が寸断され,海路で往診した。新島では7月15日の地震頻発で275人が島内避難した。1ヵ月後に避難解除されたが,陸路寸断のため日本赤十字社医療班が派遣された。災害により発生した傷病者の緊急搬送はほとんどなく,高齢者や透析患者のヘリコプター搬送が三宅島で36人,神津島で5人,新島で2人あった。本災害では傷病者の同時大量発生はなく,避難に際して災害弱者の円滑な後方搬送が重要であった。

 



 11.鳥取県西部地震における岡山県基幹災害医療センターの対応と問題点


 石井 史子  若林 隆信  清水 孝市  本郷 基弘

総合病院岡山赤十字病院

要旨 平成12年10月6日の鳥取県西部地震において,岡山県の基幹災害医療センターである岡山赤十字病院の対応を報告し,問題点について考察を加える。13時30分に震度6強の地震発生。35分岡山赤十字病院に災害対策本部設置,医療救護班第1班出動待機命令。40分岡山県下災害拠点6病院へ有線電話で連絡するも不通。14時40分医療救護班第1班出動。14時50分岡山県災害対策本部設置。有線電話は依然不通。16時45分鳥取県から「被害は小さい」との連絡が岡山県に入る。岡山赤十字病院医療救護班待機解除。17時10分岡山赤十字病院災害対策本部解散。問題点として,@情報の集積と活用,A複数の通信手段の確保,B初動時の意志の統一と上部組織からの指示がないと動けない,といったことが考えられた。対応として岡山県は11月30日に会議を開催し,集団災害発生時の初動体制についての統一見解を得て,NTT回線が不通となった場合の情報伝達手段を増設した。

 


12.日本橋郵便局異臭事故の活動報告


 加藤 義則1  竹内 栄一1  白谷 祐二1  行岡 哲男2

1東京消防庁
2東京医科大学救急医学

要旨 2000年9月11日8時50分頃,日本橋郵便局で異臭事故により45名の傷病者が発生した。消防機関は消防隊,救急隊など40隊を出場させ,医師6名(2名はドクターカーの医師)に協力要請した。現場活動は,全般の指揮は消防機関が行い,現場救護所でのトリアージおよび処置は医師と救急救命士が担当し,消防機関と医師とのパイプ役をドクターカーに乗務する救急救命士が担当した。救急隊が傷病者を医療機関へ搬送するまでの時間は,平均17.7分であった。[考察]多数傷病者が発生している現場では,消防機関が活動全般の指揮を,救急医療面の指揮は医師が担当し,連携・調整を図って活動することが望ましいと考えられた。そのためには,双方を結ぶパイプ役が必要であり,その役は救急救命士が適任であると思われた。



 13.群馬県内で起こった化学工場爆発による災害


 饗場 庄一1  宮澤  功2  平形  昇2  福田 秀樹2
 新井 則彦3  大橋 憲一3  岡部 隆弘4

1前橋赤十字病院外科/群馬県消防学校救急科,2群馬県消防防災課,
3群馬県防災航空隊,4太田地区消防本部

要旨 平成12年6月10日(土)18時08分頃,日進化工群馬工場で爆発事故が発生した。爆発の原因は,劇物であるヒドロキシルアミンをタンク内で再蒸留中,なんらかの原因で爆発して火災になったといわれている。この工場は群馬県南東部の尾島町にあり,利根川の堤防から北に2km足らず,国道17号線のバイパスである上武国道と国道354号線が立体交差する間に位置している。ヒドロキシルアミンは半導体の洗浄に使用されており,現在でもわが国では唯一の製造工場であったといわれている。爆発・火災事故の発生で4名が死亡,重軽傷者が58名,建物の被害は全焼が4棟,全半壊が18棟,一部損壊が286棟などの被害が起こった。この事故を経験してはじめて町のなかに危険物を扱う工場の存在を認識したわけであり,劇物・毒物の扱い基準,報告制度,取締り方法などが問われる結果となった。これと類似した事故が,米国でも1999年2月に報告されている。

 


 14.広域集団災害における負傷者消息安否情報システム導入の試み


 桜井 立良1  松本  功1  藤木 義雄1  笹内 信行2
横瀬 喜彦2  高橋 精一2  原田 裕子2  森田 倫史3

1(社)奈良県病院協会,2(医)拓生会奈良公園中央病院,3奈良県健康福祉局

要旨 災害現場での医療活動で重要な事項は災害医療の“Three T”[Triage(選別)],[Treatment(応急処置)],[Transportation(搬送)]であり,従来の訓練は,この“Three T”を中心として行われてきている。われわれ病院協会のメンバーは,広域集団災害医療の経験により,消息安否情報の問い合わせが医療現場の混乱を加速しうる現実を実感しているため,医療機関より発信する消息安否情報の伝達が重要であると考えた。そこでわれわれは,広域集団災害時の総合的な医療活動においては,災害現場での基本的医療活動の“Three T”に消息の英訳としてのTidingsを加えた災害医療の“Four T”を提唱し,その負傷者の消息安否情報の伝達をいかに効率的に行うかの訓練を積み重ね,その問題点を浮き彫りにしておく必要があると考えた。そこで,平成12年度近畿府県合同防災訓練において行ったそのTidingsの訓練の概要を述べるとともに,運用上の問題点について若干の考察を加えた。

 


15.新島近海地震における医療救護活動

 ―医療救護班における薬剤師の役割


 宮永 幸実

大森赤十字病院薬剤部

要旨 2000年7月15日午前10時31分,新島近海を震源にマグニチュード6.3の地震が発生した。この新島近海地震により新島村若郷地区住民が孤立化したため,2000年8月27日〜12月26日の122日間,日本赤十字社は本社ならびに東京都支部管轄病院を中心に,第2ブロック各病院単位の医療救護班(医師・看護婦・薬剤師)を派遣した。本活動は,現地医療機関の代替活動であり,発災直後の活動とは異なる。本活動に参加した薬剤師は,延べ1,469名の処方箋の調剤(延べ 1,133処方24,931剤)を行った。さらに,服薬指導は心のケアとしても有用であり,長引く地震活動や不十分な医療環境による住民の精神的不安の軽減に貢献した。現地診療所内の薬品(335品目)在庫管理,ならびに医師への医薬品情報提供は,円滑な診療に必須であった。本活動は,医療救護班における薬剤師の職能を生かしたものであり,薬剤師の救護班での役割の重要性が提示された活動であった。

 


16.米空軍重症患者空輸チーム(CCATT)養成コースへの参加報告


 松島 俊介1  花田 隆造2

1自衛隊岐阜病院
2航空自衛隊航空医学実験隊

要旨 平成12年9月,わが国ではじめて,航空自衛隊医官2名が米空軍重症患者空輸チーム(CCATT)の養成コースへ参加した。CCATTは固定翼航空機を用いた重症患者の長距離空輸を主な任務とし,空輸中にもモニタリングおよび治療を行い,最終的医療施設まで搬送を行う米空軍の医療チームである。CCATT養成コースは主として,@Aerospace Physiology:航空生理学の講義,低圧チャンバー訓練,AClinical Training:テキストによる基礎的な集中治療の講義,飛行生理学,熱傷管理,症例の航空医学的な問題,主な使用薬剤の薬理学,症例検討など,BOperational Training:使用航空機の概要,搬送法,装備品の習熟,シミュレーショントレーニングなど,の3つから構成されていた。固定翼航空機を用いた重症患者の長距離搬送には救急医学,集中治療学の知識に加え,航空生理学,航空機に関する知識および搬送器材の習熟が必要であることを認識した。

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