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日本集団災害医学会会誌  第6巻 第3号  要旨集

JADM abstract Vol.6 No.3 in english


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    1. 人企災害

      S.W.A. Gunn, MD, DSc(Hon), FRCSC   抄訳:鵜飼 卓

    2. 芸予地震の被害とその問題点 ―松山赤十字病院―

      岩崎 泰昌   竹吉  悟   渡部 禎純   白石 恒雄

    3. 2000年鳥取県西部地震における医療機関の被害と対応

      和藤 幸弘   中山 伸一   石原  晋   寺師  栄   Louise K. Comfort 


 1.人企災害


S.W.A. Gunn, MD, DSc(Hon), FRCSC

President, International Association for Humanitarian Medicine
Honorary Chair, Asia-Pacific Conferences on Disaster Medicine

抄訳:鵜飼 卓


要 旨
近年,災害をその予防,計画から対応,復旧・復興にいたるまで,より科学的に研究しようとするようになってきた。災害は一般に自然災害(natural disaster)と人為災害(man-made disaster),さらにその亜分類と混合型に分類される。自然災害については広範な研究がなされてきたが,人為災害はきわめて多種多彩であるため,分類整理するのが難しい。
筆者は,長年災害と緊急管理にかかわってきて,人為災害のカテゴリーのなかに人のあやまちによって生じるものとは明らかに異なる,より邪悪な,破滅的かつ無法でいまわしいタイプの災害があることに気づかされた。適切な言葉がないため,これを「人企災害(man-conceived disaster)」註)と呼ぶ。
チェルノブイリの事故は次世代にまでも遺伝子の欠損を生じさせたり,ボパールの事故では何千人もの死者や視力障害者,酸欠後遺症の人々を生み出したし,国家の安全や領土保全のためという大義名分の戦争もある。しかし,これらの悲惨な出来事をはるかに超える何か,すなわち,人があみだし,たくらみ,冷血かつ計画的に理屈付けして,最大の破壊的効果をねらって実行に移す災害がある。この野蛮な行動の例として,民族浄化,ジェノサイド,民族追放,多数失踪,死のキャンプ,その他の非人道的な犯罪をあげることができる。さらに,アフリカのMobutuやカリブのDuvalier,ヨーロッパのKarazicのような病的な独裁者によって遂行された,強いられた貧困化などもある。地理的な特異性はないことに注目すべきであるし,悲劇的なのはこれらの人物がわれわれと同じ職業を持つ医師だったことである。
Jaap Walkateは,いみじくも「“拷問”は病める社会の一症状である」と述べたが,冷たい合理性とゾッとするような精巧な用具を用いて拷問を実行に移すのは,たしかに病める人あるいは社会である。これはまさに「人為」というよりは「人がたくらむ」災害である。
拡大改訂版『災害医学と人道活動事典(Gunn)』には,人企災害について次のように記されている。
人企災害:通常の人為災害とは明らかに異なり,人企災害は,ジェノサイド(民族撲滅計画),死のキャンプ,民族浄化,強いられた失踪,貧困化,拷問,その他の人道に反する計画された犯罪で,冷血に計画され,邪悪な為政者や病的独裁者の庇護のもとに,無法に人権を蹂躙して実行され,最大限の死と破壊をもたらすもの。人為災害への対応は,科学的,人道的,管理的に行われるが,人企災害は国際法廷で対処されなければならない。

訳者註)「人企災害」という言葉は,“man-conceived disaster”という原著者の造語に対して訳者があてた造語である。
「くわだてる」というよりも,むしろ「たくらむ」という意味のほうがより原意に近い。


 2.芸予地震の被害とその問題点

―松山赤十字病院―



岩崎 泰昌1  竹吉  悟1  渡部 禎純2  白石 恒雄3

1松山赤十字病院救急部,2同事務部,3同病院長


要旨
 平成13年3月24日午後3時28分頃,安芸灘(瀬戸内海)を震源とするマグニチュード6.4の芸予地震が発生し,愛媛県松山市においては震度5強を記録した。当院は松山市の中心部に位置する病床数800床の総合病院で,救命救急センターは有していないが,災害拠点病院に指定されている。この地震で当院では,電話の不通,スプリンクラー配管の破裂による病棟の水害,高架水槽の破損,建物の内外壁の亀裂と建物間のコンクリート壁の破壊,煙突の崩壊などの被害が出た。その結果,病棟の一部が使用不能となり,入院患者約120名が別の病棟へ避難した。しかし被災による患者の来院は少なかったため,罹災後,院内に大きな混乱は認められなかった。幸いにも芸予地震での当院の人的被害はなかったが,今回の被災を通して大地震の際の被害と問題点が明らかになったので報告するとともに,今後の災害対策について考察した。

キーワード:地震,災害,通信,スプリンクラー,高架水槽

 


日本集団災害医学会鳥取県西部地震関連災害医療計画に関する特別委員会報告書<第一報>

3.2000年鳥取県西部地震における医療機関の被害と対応


和藤 幸弘1  中山 伸一2  石原  晋3

寺師  栄4  Louise K. Comfort 5

日本集団災害医学会鳥取県西部地震関連災害医療計画に関する特別委員会

1金沢医科大学救急医学,2神戸大学医学部災害救急医学,
3県立広島病院救命救急センター,4大阪府立千里救命救急センター,
5 Graduate School of Public International Affairs, University of Pittsburgh


要旨
 2000年鳥取県西部地震調査結果のうち医療機関の被害に関して報告する。医療機関の被害は病院で大きく,なかでも停電は重大な被害となった。2つの中規模公立病院では建物被害や水漏れ,停電などによって入院の継続が困難となり,入院患者全員を避難させ,他の医療施設に転院させた。大掛かりな救助は1件であり,救急隊の活動の多くはこれら138名の転院搬送に注がれた。比較的大きな地震で死者が発生せず,人的被害が軽微であった要因は,救助件数・傷病者数に地域の救急医療が圧倒されなかったこと,列車事故などが発生しなかったことなどが考えられた。


キーワード:地震,医療機関被害,鳥取県西部地震

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