本間 正人,井上 潤一,大友 康裕,辺見 弘
要旨 都道府県の能力を超えるような大災害やNBC災害等の特殊災害の際に,迅速に対応できる医療チームが存在すれば「災害時における避け得る死」を減らすことができる。米国では国家災害医療システムのもと災害派遣医療チーム(DMAT)が自然災害のみならず,人的災害にも派遣され活躍した。本研究では,DMATを「災害の急性期(48時間以内)に派遣できる機動性を持った,トレーニングを受けた,医療チームである」と定義し,本邦においてDMATを構築する上で,解決すべき諸問題について有識者の協力を得て検討した。事前計画や法整備,移動交通手段の確保,派遣者の身分・補償,派遣者の教育と資格認定制度,災害現場での医療の特殊性の理解,災害現場でのメディカルコントロール,災害拠点病院の機能の見直し,緊急消防援助隊との連携,精神医療の必要性がDMATを構築する上での課題としてあげられた。
―第一報 精神障害者の場合―
原 真紀子,後藤 義朗,佐藤 武大,林 和幸,岡田 淳司,松添 慎吾
要旨 本報告は,有珠山噴火避難時における精神障害者の避難状況の実態調査である。方法は,虻田町在住者83名(うち40名は施設入所者)を対象とするアンケート調査。結果は,・情報伝達が不十分・情報や地域での孤立化防止のため,相談・連絡相手の確保が必要・災害初期から内服薬の確保,体調の相談。特に,心のケア班が避難所に出向き,ストレス軽減のため活動・避難場所の住環境整備が基本的に不十分・被災者の体調変化としては,一般住民と同様の不眠,不安,焦燥感の増強。また,将来に対する提言は,・情報連絡システムの構築,避難所の環境改善・避難生活の長期化に伴う生活の質の向上を図る必要。
阪神淡路大震災時との比較では,今回人的災害,PTSDも認めない。対象者はパニックも起こさず,原疾患の増悪もなかった。なお,早期には原疾患を増悪させない対応,慢性期には生活再建における支援が一般住民以上に必要と考えられた。
石井 昇,甲斐 達朗,和藤 幸弘,吉本 和弘
要旨 平成13年7月21日に開催された兵庫県明石市民夏まつりの花火大会の花火打ち上げ終了直後に,JR朝霧駅から花火会場に通ずる歩道橋(幅6m,長さ106m,階段幅3m)上において,群衆雑踏事故が生じ,多数の死傷者(死者11名,負傷者247名)が発生した。本集団災害時の救急医療対応等の問題点と課題を含めて,近年増加傾向にある屋外イベント等での群衆雑踏事故発生時の救急医療対応のあり方ついて報告する。
要旨 諏訪湖は周囲が約16kmで,諏訪市,岡谷市,下諏訪町に囲まれており約134,000人の人口を有する観光地である。諏訪赤十字病院は1999年8月に諏訪湖岸に移転新築し9月に開院した。病院は道路を隔て諏訪湖に接しているが,新築の際に病院と隣接し諏訪湖に流入する中門川に船着場が設置された。大規模災害時に陸上交通手段が絶たれた場合に,諏訪湖を利用した水上輸送による患者搬送や,諏訪湖での水難事故に際し災害現場での救護救助活動を行う可能性がある。そのため,病院内に救急艇連絡会を設立し賛助金を集めモーターボートを購入し水上救助活動の導入を試みた。操船や救護救助の知識や技術を習得し訓練活動を行うとともに,地域社会との協力や連携により諏訪湖での水難救助訓練や諏訪湖での様々なイベントの救護活動に参加した。今後は水上救助活動を地域社会の中でシステムとして構築していく必要がある。
箱崎 幸也,岡本美佐子,林 美千代,中川 克也,仲間智恵子,赤沼 雅彦,桑原 紀之,白浜 龍興
要旨 阪神・淡路大震災では,自衛隊の災害派遣出動の遅れが指摘された。自衛隊における初動医療での問題点は,要請の遅れによる医療救援開始の遅延やヘリコプターでの患者搬送が殆ど実施されなかったことである。要請主義による法的規制や,常日頃からの地方自治体と自衛隊との合同防災訓練の未実施が最も大きな要因と考えられた。
平成7年11月に「新防衛大綱」が制定され,自衛隊の任務には「我が国の防衛」に加え「大規模災害等の事態への対応」や「国際貢献」が新たな役割となった。さらに防衛庁防災業務計画の修正にて,自衛隊の自主派遣の判断基準が明確化され,知事との連絡不能時には市町村長が直接防衛庁長官等に連絡が可能となった。災害派遣を命じられた部隊等の権限についても,自衛隊用緊急車両の通行確保,警戒区域の設定等が適応され,自衛隊の災害派遣活動がより容易となった。
大規模災害時には,自衛隊の役割は今後ますます大きくなると思われる。地方自治体は常日頃から自衛隊への要請手順や連絡方法を明確にしておき,自衛隊をも包括した実践的な防災計画を作成しなければならない。防災計画による医療救援体制の構築にて,実践的な合同防災訓練を多機関共同で行う必要がある。体制構築には,地方自治体・自衛隊関係者だけでなく,地域の災害医療関係者の理解と協力が不可欠である。
―麻酔科医としてICRC(赤十字国際委員会)戦傷外科病院にてスーダン紛争犠牲者救援活動に従事して―
石川 清,田中みつき,伊藤 明子,酒井登茂子,赤塚あさ子,鈴木 伸行,佐藤 公治
要旨 2000年10月から3ヶ月間,ケニア,ロキチョキオの赤十字国際委員会(ICRC)ロピディン戦傷外科病院にて麻酔科医として救援活動に従事した。麻酔科医の業務は術中麻酔管理,周術期管理,現地スタッフの教育・管理等であった。治療方針等には治療の一貫性を保つために一定の基準があり,限られた薬剤,限られた医療機器の下で施行しなければならなかった。戦傷外科病院の目的は,完璧な医療ではなく,基本的な医療をできる限り多くの患者に提供することであり,これは日本の災害医療に通ずるものであると思われた。有意義な救援活動を行うためには十分な語学力を持ち,事前に戦傷外科の基本を全て理解するなど十分準備した上で望む必要がある。さらに活動は決して楽ではなくストレスの多い毎日であることも十分心しておくべきである。