森脇 寛 ,杉本 勝彦 ,菅原 浩幸 ,大貫 麻輝江 ,竹内 あい ,有賀 徹
要旨 【目的】昨今のmass gatheringの増加や地震の多い国土条件など,わが国における集団災害に対する取り組みの重要性はますます高まっている。そこで,病院医療という観点で災害医療への評価を試みた。【方法と対象】1999年以降に財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価(Ver.3.1)を受審した施設を対象とし,集団災害に関連する項目の結果を解析した。【結果】中小規模一般病院(グループA),大規模一般病院(同B),中小規模精神病院(同PA),大規模精神病院(同PB),長期療養病院(同L)について個別にみると,自院での災害発生時のマニュアルの完備率はそれぞれ78%,93%,77%,75%,79%であり,地域での大規模災害発生時のマニュアルの完備率は36%,67%,34%,67%(Lは設問なし)であった。食糧の備蓄率は62%,73%,68%,92%,66%であった。【考案】今回対象となった病院は,自主的に審査を受け組織的な病院医療の実践に意欲的な施設といえる。それでも,防災対策は不十分なままであることが判明した。今後,災害医療を組織的に計画し進めることが急務である。
石井 昇 ,中山 伸一 ,中村 雅彦 ,大森 裕 ,松山 重成 ,前田 裕仁 ,中尾 博之 ,岡田 直己 ,高橋 晃
要旨 世界のスポーツイベントとしては,最大規模といわれている「2002FIFAワールドカップ」が2002年5月31日から日韓合同によりアジアで初めて開催され,6月30日ブラジルが優勝し幕を閉じた。神戸会場における救急・災害医療体制の構築の経緯,その計画と実際について述べる。神戸の救急・災害体制は,神戸市消防局による消防特別警備体制の準備に始まり,医事救急専門部会を設置し,地域の救急医や災害医療専門家らの助言を汲み入れて,警察を含めた関係機関の連携協力体制が構築された。神戸では3試合(予選リーグ2試合と決勝トーナメント1試合)が行われたが,大きな災害や事故発生もなく,無事に終えることができた。1試合当たりの平均観客数は35,770人,傷病者発生数は35人,そのうち外傷6人で,季節的に熱中症関連疾患が多くを占めた。今回の経験で得た多くのノウハウと教訓を今後の集団災害対応に生かすべく,今後とも努力していきたい。
森村 尚登 ,勝見 敦 ,小井土雄一 ,杉本 勝彦 ,布施 明 ,浅井 康文 ,石井 昇 ,
石原 哲 ,杉山 貢 ,吉岡 敏治,藤井 千穂 ,辺見 弘 ,山本 保博
要旨 第5回日本集団災害医学会における「2002年サッカーワールドカップ開催に向けた集団災害医療体制の全国的ネットワーク確立の提案」を契機に,厚生労働省厚生科学研究“Mass gatheringにおける集団災害ガイドライン作成とその評価”研究班が発足,以後大会開催中,集団災害医療・救急医療ネットワーク確立に向けてガイドライン・モデルプランの作成,セミナー開催による問題意識の共有化,ユニフォーム作成などの活動を開催地域担当者とともに実施してきた。今回,メーリングリストによる大会中傷病者データモニタリングについて報告する。108回のメーリングリストの交信結果および各地域自治体集計から,大会開催中傷病者総数は1,661人であった。1試合当たりの傷病者発生数は観客1,000人当たり1.2人であった。本システムによって各地域が情報をおおむねリアルタイムに把握でき,また大会関連傷病者データを集計することができた。
白子 隆志
要旨 2002年9月から約3ヶ月間,ケニア・ロキチョキオの赤十字国際委員会(ICRC)ロピディン戦傷外科病院で外科医として勤務した。外科医は一人で約200名の入院患者を受け持ち,毎日約20件の手術を行った。スーダンから空輸される傷病者は,銃弾・爆弾・地雷による四肢外傷が最も多く,頭頚部・胸部・腹部外傷,産科・その他一般外科救急症例など多岐に及んだ。外科医は汚染創に対し徹底的なdebridementを行い,ICRCプロトコールに従って抗破傷風薬・抗生剤を投与し,delayed primary closureを基本とした。戦傷外科においては,医療機器・薬剤不足,診断検査方法の制約があり,専門診療での対応は困難である。また,医療経済・人的資源・治療結果の効率を重視した標準化治療が必要であり,救急・一般外科の広い経験が要求されるため,スタッフ育成には病院全体での研修協力体制が不可欠であると考えられた。
越智 文雄 竹島 茂人 箱崎 幸也 桑原 紀之 山田 省一 白濱 龍興
要旨 【訓練の目的】実践的かつ効果的な大量傷病者治療収容訓練を行い,病院の災害対処能力を検証し強化する。
【手段】傷病の原因,傷病者数,傷病者の到着時刻など訓練のシナリオを事前に知らせない「原因不明多数傷病者発生」事案想定の訓練を行った。【評価方法】各部署に評価者を配置する一方,各患者にも評価者をつけて,訓練参加者の行動を評価チャートにより評価した。【結果】訓練の概要を職員に知らせないことにより,指揮命令と情報伝達が円滑に行われているかを評価することができた。各部門は示された状況に速やかに対応し,指揮命令は良好であったが,各部門間での情報の共有化に課題を残した。大量傷病者受け入れチームは効率的に災害患者の治療を行うことができたが,ゾーニングが不十分であり,除染要領には技術的課題を残した。【結論】シナリオを事前に知らせない「原因不明多数傷病者発生」事案訓練は,病院の災害対処訓練として有用である。