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平成15年十勝沖地震の現地調査委員会報告

浅井康文、伊藤 靖、奈良 理、丹野克俊☆、鈴木 靖☆☆

札幌医科大学医学部高度救命救急センター、救急集中治療部
☆市立函館病院・救命救急センター、
☆☆北海道消防学校

平成15年十勝沖地震の現地調査を行ったので報告する
 平成15年9月26日午前4時50分頃、北海道釧路沖を震源(深さ42km)とするマグニチュード(M)8.0の地震があった。日本集団災害医学会評価委員会では、太田宗夫理事長のご許可を得て、「平成15年十勝沖地震の現地調査委員会」を9月27日に設置し,平成15年10月3日−4日に現地調査を行ったので報告する.今回の被災者は本州においても若干名負傷者がおり,また道内においては広く分布しているため,震源地に近い太平洋岸に位置する消防本部,病院等を対象とした.
視察:北海道石油製油所原油タンク(苫小牧、出光タンク),
訪問および情報収集:鵡川消防署,静内消防署,豊頃消防署,日高東部消防組合消防本部(浦河町),釧路市消防本部,十勝支庁(保健所含む)(浦河町),えりも町国民健康保険診療所,帯広厚生病院(救命救急センター),市立釧路総合病院(救命救急センター)

日本集団災害医学会 平成15年十勝沖地震,台風10号災害の現地調査

平成15年10月3日,4日

1.平成15年台風10号,十勝沖地震災害

平成15年8月9日,台風10号が北海道日高地方に豪雨をもたらし,河川の決壊等による被害をもたらした.また平成15年9月26日,十勝沖にてマグニチュード8.0の地震が発生し,北海道日高地方,十勝地方,釧路地方に被害をもたらした.以上2つの災害に関して,日高地方,十勝地方,釧路地方の被害状況を現地調査した.

2.構成員

調査:浅井康文(札幌医科大学高度救命救急センター,学会理事,調査・評価委員長)
    伊藤 靖(北海道消防学校,札幌医科大学高度救命救急センター,学会評議員)
    丹野克俊(市立函館病院 救命救急センター,調査・評価委員)

調整:奈良 理(札幌医科大学高度救命救急センター)
    鈴木 靖(北海道消防学校,学会評議員)

3.現地調査行程および被害概要

【10月3日(金)】

07:00 札幌出発

08:00 苫小牧東部視察(出光興産,原油タンク火災)

タンク火災は鎮火,タンク油抜き取り作業中.原油火災に伴う油煙被害に関しては調査段階.

苫小牧市の、出光石油の石油タンク爆発

09:00 胆振東部消防組合消防署 鵡川支署訪問(十勝沖地震)

 <地震関連の救急出動>

9月26日 朝)転倒し大腿骨骨折1例
9月26日 夕)朝に転倒して受傷,夕になり痛みが増したための救急要請
腰の打撲1例,転倒し肋骨骨折1例
その他救急出動ではないが,管内で軽症7名が医療機関受診

朝の救急出動は家族の強い希望により,往復1時間を要する苫小牧市立病院への搬送を行なった.夕の症例は地元医療機関でX線撮影ができないとの理由により苫小牧への搬送を行なった.鵡川消防支署では救急自動車は1台であり,また発災直後は消防団員,消防職員ともに広報活動,点検活動などで人手が取られ,町外への救急搬送の是非に関して今後の検討課題とした.実際に今回の搬送では,行きは高規格道路を使用できたが,帰りは通行止めのため一般道を使用せざるを得なかった.余震などにより,町外へ出た緊急車両が帰署できない危険性も考えられる.地震後すぐに消防車車庫のシャッターを開放したが,もう少し遅いと開かなくなるところだった.管内の他出張署では車庫内の車両が地震により移動し柱・壁との衝突したことにより使用不能となった.港湾施設,道路,家屋などの被害は液状化現象,陥没,倒壊を認めたが,これによる人災は認めなかった.町内の灯油ホームタンクの転倒を多く認めたが,これに伴う火災は認めなかった.苫小牧東部,出光興産原油タンク火災の油煙の影響は風向きの関係から10月2日に始めて異臭を感じた程度であった.今回の地震,過去の記録でも地震に伴う津波の被害記録はなかった.今回は津波災害に対し消防が広報活動を行ない,自主的に住民避難行なわれた.

09:30 鵡川出発

10:30 日高中部消防組合消防署(静内)訪問(台風10号,十勝沖地震被害状況調査)

<台風10号の被害>

台風10号の被害に関しては,管内の厚別川が決壊し,死者5名,行方不明者1名の人的被害が発生した.被害の詳細は日高支庁のまとめ参照

<地震災害> 

平成15年9月26日 4時50分 地震発生,静内地方は震度6弱,自主登庁,4時56分,津波警報発令.5時22分,潮位観測開始,5時25分 災害速報.6時08分 余震.管内の救急搬送は3件(テレビが足に落下して骨折,腰部打撲,馬に噛まれる)で管内の医療機関で完結し,転院搬送もなかった.町内の医療機関(町立病院と静仁会静内病院)で受診患者は分散され,混乱は無かった.公営住宅の住民で地震により閉まった防火扉が開けられないと通報してきたが,電話での説明で脱出できた.この件に関して後日防災訓練を行うことになった.

灯油タンクの倒壊は40件ほどあったが,火災等の発生はなかった.津波による人的な被害は無かった.

・被害状況

人的被害
  負傷者(重傷14人,軽傷74人)
住家被害
  全壊2棟,半壊4棟,一部破損112棟
その他
  ブロック塀等102箇所(墓石)
  灯油タンク油漏れ 81件

<静内中札内線での大規模土砂崩れ>

10月1日9時30分頃,道道静内中札内線(静内町静内ダム堤体から約2キロメートル上流側)において,大規模な土砂崩れが発生(延長約50メートル,厚さ約3メートル).この道路は生活道ではなかったため,工事関係者,地震の橋梁点検のための職員,きのこ採りの住民23人が孤立していたが,23人全員の安全を確認.道警ヘリ,開発局ヘリにより救出,搬送となった.

12:00 浦河町到着

13:00 日高東部消防組合消防署(浦河)訪問(地震被害調査)

<地震災害>

 平成15年9月26日 4時50分,浦河地方は震度6弱 M8.0,4時56分 津波警報発令,5時15分 災害対策本部設置,5時22分 潮位観測開始,5時25分 海岸地域に避難勧告発令,浦河町は自主避難,6時08分 震度6弱 M7.0,9時00分 津波注意報切り替え,18:30分 津波注意報解除.人的被害は重傷3名(腰椎骨折2名,胸椎骨折1名),軽傷67名,内入院となったのは7名であった.町外からの訪問者1名を除く全ての症例が管内の医療機関に収容された.救急車の出動・搬送は8件で高規格救急車1台,救急車1台,指揮車で対応.輻輳により対応困難な状況ではなかった.管外への搬送依頼が日赤病院からあったが消防では対応しなかった.住宅被害は,全壊6戸,半壊8戸,一部破損306戸であり,これに伴う負傷者は発生していない.灯油ホームタンクの倒壊は多数認めたが,これによる火災の発生は無かった・自主避難は最大時253名,水道断水は最大6,368世帯(全世帯の87%)で自衛隊や町の給水車により給水を行なった.10月2日時点で多くは復旧していた.停電,電話不通などのライフラインの被害は10月2日の時点で復旧.浦河小学校校舎の被害や港湾関係の被害,日本赤十字社浦河病院の被害などを認めたが,これによる人災等は発生していない.浦河地方は過去にも地震,津波の被害が多発しており,日常からこれらに対する防災意識が高く,今回も地震のエネルギーに比し,人災の発生は少なかった.

13:30 北海道日高支庁(浦河)訪問(台風10号被害状況調査,十勝沖地震調査)  

<台風10号関連>

気象概要

オホーツク海上の低気圧から伸びる寒冷前線により,日高地方では8月7日夕方から雨が降り出し,その後,台風10号の接近により9日夕方から再び雨が降り出し,22時から23時に平取町東部付近で1時間に90ミリの猛烈な雨を観測した.8月7日夕方から10日朝までの降り始めからの総降水量は,平取町旭で390ミリ,日高町で368ミリ,新冠町新和で334ミリ(9日24時より障害のため欠測)の大雨となった.

被害状況

記録的な大雨により,日高管内では西部地域を中心に死者5名,行方不明者1名の人的被害が発生し日高町(沙流川流域)の行方不明者の捜索が10月4日まで続けられた.住宅被害は全壊18棟,半壊13棟,一部破損19棟,床上浸水が118棟,また孤立集落は最大事に3町6地区(146世帯422人)となったが,8月16日までに解消された.ライフラインについては,停電,電話不通については8月14日までに復旧している.水道については全戸通水したが,一部濁りが生じた場合に濾過等により全処理を要している.JR日高線は10月3日まで不通.(静内―様似間)

人的被害詳細

門別町厚賀地区(状況)

10日0時46分,厚別川の赤無橋手前200−300mでワゴン車(5名乗車)が立ち往生との携帯電話による通報.その後,車が川に流される.10日4時過,2名をボートで救助(男性1名,女性1名).3名が行方不明13日14時頃,捜索活動中に男性1名負傷(重症).19日15時50分頃,行方不明者1名を遺体で発見20日9時00分頃,行方不明者1名を遺体で発見21日9時42分頃,行方不明者1名を遺体で発見

新冠町美宇地区(状況)

10日0時頃,1世帯7名が住宅2階に取り残され,うち6名は自力脱出(1名軽症)したが,1名が行方不明12日9時46分,行方不明者1名を遺体で発見

日高町富岡地区(状況)

10日4時57分,9日23時頃から道路補修工事箇所巡回に出た建設会社社員2名が戻らないとの通報.26日14時55分,行方不明者1名を遺体で発見.

以上,死者5名,行方不明者1名,重傷1名,軽傷1名

<台風10号被害に係る保健活動>

15:00 えりも町役場訪問(地震被害調査)

えりも町では百人浜で最大4メートルの津波が観測されるも,人的被害等は認められなかった.

19:30 JA北海道厚生連 帯広厚生病院 救命救急センター訪問(地震被害調査) 

帯広宿泊 

【10月4日(土)】

09:00 帯広出発

11:00 東十勝消防事務組合豊頃消防署 訪問

町内被害域の訪問

<地震の経過および被害概要>

4時50分 地震発生,豊頃町は震度6弱4時57分 太平洋沿岸に津波警報発令(2メートル予想)
5時10分 災害対策本部設置5時17分 大津地区(180世帯400人)に避難勧告
5時22分 津波第一波到着(205cm)6時05分 津波第二波到着(60cm)
6時08分 余震発生(震度4)6時21分 町内全域で上下水道断水および停電
6時26分 津波第三波到着(206cm),第四波(最大258cm),以下第9波まで観測
8時30分 国道38号線(幕別町明けの−浦幌町)通行止め

国道336号線(浦幌町吉野−豊頃町長節)通行止め
道道旅来豊頃停車場線 通行止め 道道帯広浦幌線 通行止め
町道旅来長節線 通行止め 町道農野牛北一線 通行止め

・被害者状況

  人的被害

行方不明2,重傷1名,軽傷53名(転倒,飛散ガラス等による負傷)
内救急車搬送8名(町内医療機関2名,町外医療機関への搬送6名)
救急車は一台であるが,輻輳による問題は無かった.
行方不明者   大津海岸,十勝川河口付近の釣り人2名が行方不明
10月2日まで捜索するも発見できず.津波に浚われたと考えられている.

  住家被害   

全壊1棟,一部破壊1棟  
港湾被害,道路の崩壊,下水道等の被害,液状化現象に伴う浄化槽等の被害昼食

14:00 釧路市消防本部 訪問

<地震概要>

出動事案

釧路市内の医療機関に地震関連で受診したのは243名,内,入院15名

釧路市消防本部では過去の災害の経験から,市内を河川により3区域に分け,それぞれの消防署が異なった周波数で交信し,独立して行動できるようにしている.(橋などの被害により,それぞれの地域が分断されることを想定している)釧路空港の空港ビル,管制塔の天井落下の被害があったが,発災時間が幸いして人災には結びつかなかった.(落下した天井板は2cm程度の厚さがあり,天井も高いことから,下に人が居た場合は相当のけが人の発生が予想された)JR札幌発-釧路行き深夜列車「まりも」が音別町直別で脱線し,重症1名が発生した.

その他,道路,港湾関係の被害は認めたが,人災は少なかった.

市立釧路病院救命救急センター訪問

朝,玄関でトリアージを行ったが,混乱はなかった.重傷者の発生は無かった.

帰路

【結果】各消防署・本部において通常の救急業務を越える出動はなかった.一消防署において消防車車庫のシャッターの開閉が不能になったが震災直後に開放したため影響はなかった.搬送帰路において高速道路が使用できなくなり帰署が遅くなった例があった.病院受入状況に問題はなかった.浦河赤十字病院では断水の影響から透析を含む医療用水の確保に苦労したというが透析患者等への影響はなかった.救護班を編成したが17時20分に待機解除となった.建物の基礎部分にダメージを受け補修工事が必要となった.帯広厚生病院では耐震設計の新病棟にはほとんど影響がなかったが,旧病棟では壁にひびがはいり,医局の本棚が倒れ書籍が散乱するなどして一時医師が部屋からすぐには出られなくなった.なお広域災害・救急医療情報システムは,9月26日から12月1日まで警戒運用となった.

【考察】平成15年十勝沖地震は,最終的に行方不明者2名,重傷70名,軽傷779名,全壊家屋104棟,半壊345棟,病院被災2箇所(青森県),水道断水16,006と道庁から報告されているものの,今回調査範囲からは深刻な状況はなかった.比較的地震の多い地域であり,今までの震災経験から落ち着いた活動となったようである.浦河赤十字病院が日赤として独自に早期から医療チームを待機させたが,災害拠点病院でもある両救命救急センターからの医療チームは編成されなかった.今回の災害規模は結果として救護斑活動を必要とするものではなかったが,深刻な被害が出た場合に早期に救護班の派遣が可能かどうか今後検証する必要があると考えられた.これには日本版DMAT構想の本格運用についても議論すべきと考える. 今回の9月26日の十勝沖地震は、8月9日の台風10号(死者5名、行方不明者1名)と、ほぼ同じ地域がダブルパンチを受けた結果、住民に深い心の傷を負わせた。 以上、平成15年十勝沖地震,台風10号災害の現地調査を報告した。今回の調査は、伊藤 靖が日本集団災害医学会会誌に報告予定である(浅井康文)

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