日本集団災害医療研究会 第3回学術集会 抄録 1/2  1997年 東京

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1,緊急消防援助隊合同訓練応急救護所設置及びトリアージ訓練に参加して

鈴木研一1)、三上剛人1)、石田美由紀1)、松原泉1)、
秋田谷忠実2)、國安信吉2)、遠藤敏晴2)、越川善裕3)

市立札幌病院救命救急センター1)
札幌市消防局警防部救急課2)、札幌市消防局救急救命士養成所3)

 

 多数傷病者発生時には、トリアージの実施など傷病者対応には通常の救急医療の実践とは異なった姿勢が求められる。実際に多数傷病者発生事例に際し、どの程度の対応が出来るのかを検証するために、本年7月30日に行なわれた平成9年度緊急消防援助隊北海道東北ブロック合同訓練における応急救護所設置及びトリアージ訓練に際し、実戦さながらの医療救護活動訓練を行なったので報告する。

 訓練の想定は、北海道石狩地方を震源とする地震発生に際し、緊急消防援助隊が出動し、出動した各道県隊及び医療機関が連携して救出救護活動等を行なう、というものであった。 トリアージ・タッグは救急隊員により災害現場で、模擬患者に貼付することとした。さらにそれぞれの災害現場から模擬患者の搬送されてくる応急救護所のトリアージ・ポストでは、医師により再度トリアージ・タッグを貼付することとした。

 68名の模擬患者を設定したが、これには救急隊員II課程研修生49名、有志の医学生5名らの参加を得た。模擬患者には、予め傷病名とトリアージ・カテゴリーのみを指定し、それぞれグループで病態等について学習を行ない、当日は迫真の演技とメーキャップを施し、訓練に臨んだ。尚、バイタル・サインについては身体の一部に貼付した。医療スタッフは、医師4名、看護婦4名が参加した。参加者には患者数等訓練の設定についての情報を与えず、その場で判断しながら訓練に参加できるように配慮した。

 発災乃至出動時からの展開、医療機関選定を含めた訓練が必要であるという課題は残したものの、模擬患者の迫真の演技により、災害現場及び応急救護所内は緊張感に包まれ、所謂展示型訓練の中で、可能な限り実戦的な訓練を行なうことが出来た。

 今回、この訓練に際し、回収したトリアージ・タッグの記載内容、参加者に実施したアンケートの内容を踏まえ考察を加えた。

 

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2,防災関係機関による合同訓練について

榎 木  浩1)、山口孝治2)

1)横須賀市消防局、2)横須賀共済病院 外科

 

 横須賀市では、阪神・淡路大震災をきっかけに「防災とボランティアの日」と位置付けられた1月17日に、地震等の大災害時の各防災関係機関の活動が効果的に行えるよう、各機関の相互の協力・連携を強化するための合同訓練を実施することとした。

 第2回目となる平成9年1月17日では、京浜急行電鉄(株)久里浜工場において、大規模地震発生により運行中の電車を巻き込んだ多数の負傷者の発生災害を想定とし、横須賀市消防局及び近隣消防機関、警察機関、自衛隊機関、横須賀市医師会等、15機関が参加した訓練を実施した。

 本訓練では、より実戦的な訓練とするため、事前の調整を極力避け、示された災害想定により現場に出場したそれぞれの防災機関が、現地調整所により、役割分担、協力体制を確認し、指揮調整訓練、救助訓練、救急訓練、交通規制訓練等を行い、今後の実災害において何が必要なのかを検証することを目的とした。

 訓練の結果から、相互の災害対応能力の把握、指揮系統の明確化など、事前に検討し調整を行わなければならない課題も多く抽出された。

 また救急訓練には、多数負傷者発生時におけるトリアージを含めた応急救護所の活動が行われ、訓練とはいえ、救急隊員がはじめて災害現場で医師、看護士、看護婦等との活動を行い、負傷者の整理、流れなど災害現場の混乱を再現できたとともに、困難さを痛感させられることとなった。

 そこで、今回の合同訓練の概要を報告し、訓練のあり方等について考察を行ったので報告する。

 

 

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3,中小病院における災害救護訓練と活動マニュアル

山口孝治1)、大原 毅1)、山崎達枝2)

横須賀共済病院1)、都立青山病院2)

 

「背景及び目的」
災害対策における1)災害時活動マニュアルと2)防災訓練とは災害準備には欠かす事のできない重要な準備項目である。わが国では、手順が予め準備された防災訓練が行われ、その為に、実際の災害時には有効ではない災害マニュアルも、災害訓練時には活動マニュアルが機能的であると判断が下されることがある。今回、地方中小病院で行われた防災訓練で活動マニュアルがどの程度機能するかを、検討したので報告する。「方法」病院災害が伴った直下型地震災害の想定で、横須賀共済病院での災害活動マニュアルに基づいた防災訓練を行い、病院内救護について検討を行った。患者搬送には市内volunteerと市消防局の協力が、模擬患者には総数65名のvolunteerの協力が得られた。活動マニュアルの評価は予め決められた評価担当者が行った。

「結果」
地震発生後5分で、負傷者が病院に殺到したが、災害対策本部が設置されるまでtriageを含めた初期治療は行われなかった。病院外volunteerが救護援助に参加したがauthorizationや適切な指示は最後まで行われなかった。災害本部が設置されてからは、triageから始まり、患者搬送、治療、後方支援の依頼などある程度円滑に行われた印象があった。入念に準備されない防災訓練では、現在決定されている活動マニュアルでは、災害対策本部などの中枢組織が完成されないと全く機能しない事が明かとなった。

「結論」
災害活動マニュアルは、指揮命令系統だけの規定でなく、対策本部が立ち上がる以前の混乱した災害急性期に、各病院職員が夫々の判断で機能できる内容に改める必要がある。活動マニュアルをより実際的にする為には、活動マニュアルの再三の客観的な評価が必要である。その為には活動マニュアルの評価を目的の一つとした防災訓練は、有効な手段になりうると考えられた。

 

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4,新しい災害訓練の取り組みについて

本間正人、辺見 弘、大友康裕、井上潤一、加藤 宏、原口義座1)
友保洋三1)倉本憲明2)、藤本幸宏2)、小島廸子2)、和田弘夫3)、小原千秋3)

国立病院東京災害医療センター救命救急センター
同臨床研究部1)、放射線科2)、臨床検査部3)

 

 昨年までの災害訓練ではトリアージと患者搬送訓練が主体であったが、今年は災害時に予測される中等症(黄色、赤)以上の被災患者(外傷+疾患の急性増悪)で30-40名がほぼ同時に来院した場合を想定した実戦的な訓練を行ったので報告する。

<訓練目的>
受傷後2時間以内で根本的処置、または手術ができない場合は致命的となる外傷を対象として必要最小限の緊急処置・血液検査・画像診断、緊急薬剤投与・診断をつけて根本的な処置、手術に至る時間を算定し、災害時の緊急医療救護について検討した。<訓練方法>9月1日に実施された東京都立川市合同災害訓練の一貫として行った。模擬傷病者は東京都庁衛生局の職員30-40人が担当し模擬傷病者には傷病名、状態等を簡単に教えて演技の参考とした。現場および当院でのトリアージ後、8班の医療班(当院4班、AMDA4班)が初期治療を担当した。受傷状況、症状、既往歴などの医療情報を提示し特徴的肉眼所見はカラー写真にて提示した。医療班は必要な血液検査、画像所見を自らの判断で指示し、指示された項目に関し事前に用意した所見を提供した。医療班はそれを基に必要な薬剤、処置、治療、手術、搬送先を判断しカルテに記載した。

<評価>
医療開始から搬送終了までの時間に加え、要した緊急画像診断、緊急処置、緊急検査などを時間換算し、さらに診断ミス、治療ミス、検査・処置・薬剤の抜け、優先順位の誤り、搬送先の誤りなどは致命度に応じて時間加算とし120分以内を救命の目安とした。

<結語>
従来のトリアージと患者搬送訓練を主体とした災害訓練は形式化する傾向にあったが、内容を発展・工夫することでより新鮮かつ実戦的な災害シュミレーションが可能であった。

 

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5,災害時トリアージ後の院内対応の問題点

大友康裕1)、辺見弘1)、本間正人1)、井上潤一1)、加藤 宏1)、松島俊介1)、塩崎1)、
原口義座2)、友保洋三2)、倉本憲明3)、藤本幸宏4)、小島廸子4)、和田弘夫5)、小原千秋5)

国立病院東京災害医療センター
救命救急センター1)、臨床研究部2)、放射線科3)、診療放射線技師4)、臨床検査科5)

 

 災害時多数の患者を受け入れる病院において、現有する人員・医薬品・資器材で最大限の患者を救命するための考え方・手法としてトリアージが重要であることは広く知られている。しかしながら、トリアージ後の病院内での対応に関しては、「現有資源から最大の効果を」と言う観点からは、十分な検討がなされていないのが現状である。

 既に診断の分かっている模擬患者を使用し、トリアージ後、患者は決められたコースを流れるように搬送されるといった災害訓練では、実践に即した病院内での対応を検討することは不可能である。今回われわれは、病名を一切隠し、診断・適切な治療の選択に至るために必要な情報(受傷機転、症状、バイタルサイン)を提供し、各医療チームが、必要最小限の画像診断・検査および緊急処置を選択しつつ、最終診断・治療に至るという設定の災害訓練を施行した。31名の重症から中等症(緊急手術7例で必要、緊急透析3例で必要、ICU管理10名程度で必要)の模擬患者に対して、8医療チーム(医師・看護婦・事務員など合計約36名)で、院内トリアージ・初療から最終診断・治療に至るまでを受け持った。

31例中 院内トリアージミス 4
診断ミス; 重大 3, 中等 7, 軽度 1
検査脱落; 不可欠 2, 必要 15
処置ミス; 重要欠落 5, 軽度欠落 9, 不必要 4
薬剤ミス; 重要欠落 1, 軽度欠落 3, 不必要 0   
正味搬送時間(分)19.6
±11.1 (M±SD), 5〜46  (min〜max)
総診療時間(分) 67.2
±26.4 (M±SD), 25〜136 (min〜max)

ペナルティー加味後の診療時間 105.1±40.1 (M±SD), 35〜206 (min〜max)であり、最終診断・治療までに120分以内が、救命のための条件と仮定すると、31名中平均で105.1分であり、時間的に余裕が無く、7名が救命できなかったことになる。このことから、災害時の院内での検査・治療のdecision makingは、普段より外傷治療の経験のある医師があたるべきであると考えられる。以下に、今後検討を要すると思われるポイントを列記した。

1.緊急手術の術前検査(ECG, 胸部レ線)は必須か?
2.診断ミスはある程度やむを得ないか?
頭部外傷に合併する頚椎損傷、腹腔内出血を伴う大動脈損傷
3.緊急開腹術の術式は、平常救急時と変わるか?
腹部実質臓器損傷
4.緊急手術・処置の適応は、平常救急時と変わるか?
腎動脈閉塞症例、腸管損傷およびその疑いの患者、
心筋梗塞に対するPTCA

 

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6,日本医科大学付属千葉北総病院における災害訓練・災害医療セミナーについて

近藤久禎2、益子邦洋1、工廣紀斗司1、森田良平1
横田裕行2、二宮宣文2、島田靖2、山本保博2

日本医科大学付属千葉北総病院救命救急部1、日本医科大学救急医学教室2

 

背景)
 日本医科大学付属千葉北総病院は千葉県の基幹災害医療センターに認定された。そして災害対策について総合的な企画立案する組織として災害対策委員会および災害対策委員会事務局を設置し、「日本医科大学付属千葉北総病院災害対策5カ年計画」を立案し、これに基づいて災害対策事業を開始した。今回、その第一歩として、災害訓練・災害医療セミナーを実施したので報告する。

方法)
 平成9年9月に南関東大震災を想定した災害訓練、その後、病院職員・近隣地域を対象とした災害医療セミナーを実施した。

結果)
 災害訓練においては看護学生45名を模擬患者として行った。訓練は災害時の被災者受入を中心としたものだった。災害医療セミナーは災害訓練参加者を主な対象に行い、災害医療についての講義に加え、実際に行った災害訓練の反省会も兼ねたディスカッション形式のものを行った。評価方法は、災害訓練は審判員による客観的評価、参加者へのアンケートによる主観的評価を組み合わせ行った。災害医療セミナーは参加者全員へのアンケートを行い、成果を評価した。

考察)
 災害訓練においては、院内被災状況の把握、受け入れ体制の確立、救急隊によるトリアージについての評価ができ、問題点が浮かび上がってきたところが良い点と言える。しかし、地域や医師会と連携した訓練が出来たとは言えず、課題が残った。災害医療セミナーについては、訓練の反省会をメインとしたところが参加者の意識を向上させるのに役に立ったと思われる。今後は救急隊、医師会、地域のボランティア、他の災害拠点病院を対象とした災害医療セミナーを実施していく方針である。

 

 

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7,多数傷病者発生事故3件の経験

池添実華、一柳裕司、明石浩嗣、西倉哲司、大津谷耕一 
林靖之、寺田浩明、塩野茂、向仲真蔵、甲斐達朗、太田宗夫

大阪府立千里救命救急センター

 

 当救命救急センター周辺の北摂地区では、現場に出動した救急隊長あるいは救急救命士が患者の状態を直接医療機関に報告する形式をとっていることが多い。これは、単一又は少数の患者搬送に際しては消防本部を介する時間的損失が省けるという利点がある。
 しかし、多数傷病者発生の場合は搬送病院の選定や搬送順序に問題が生じた。これには次の2つの理由が考えられた。1)現行の方法による複数の情報伝達経路の存在。2)トリアージオフィサーの不在。今回、高速道路における多数傷病者事故発生時に、ドクターカーが出動した際にわかったことであるが、事故状況や患者の状態などの情報を消防本部で一括管理し、かつ各医療機関でどの程度の重症度の患者を何名受け入れ可能かを把握して連絡することが望ましい。
 また、現場に複数の救急隊が出動している場合、現時点では各救急隊間の連絡を担う役割の明確な取り決めはないため、現場でも情報掌握がほとんどされていなかった。このため現場へ出動したドクターカー医師もトリアージオフィサーとして十分には機能することができなかった。
 多数傷病者発生の際は、現行の方法にとらわれない情報伝達経路の確立、ならびにトリアージオフィサーと医療機関との確実な相互伝達方法が必要である。

 

 

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8,大規模災害初期における患者後方搬送について

−阪神・淡路大震災での経験から−

○中山伸一、松田均、石井 昇、森田須美春*

神戸大学医学部災害・救急医学、第2内科*

 

(はじめに)
大規模災害発生時には被災地の医療機関に多数の患者が殺到するので、患者後方搬送が不可欠となる。阪神・淡路大震災時、われわれは挫滅症候群患者を中心に、被災地の当病院からの後方搬送をはかったが、その状況をretrospective に検討し、考察を加える。

(方法)
地震発生から7日間に当院に入院した外傷患者130例のうち、15日以内に後方搬送した38例を対象に、病名、転送日、転送先、その決定にいたる経緯、搬送手段などについて検討した。

(結果)
受傷部位の内訳は頭部8例、四肢7例、脊椎5例、骨盤腰部4例、腹部1例、多発外傷13例で、このうち23例が挫滅症候群を合併していた。転送は震災発生後3日目(1/19)3例、4日目1例、5日目8例、6日目1例、7日目10例、8日目3例、9日目5例、10日目3例、11日目1例、14日目3例に行われ、転送先は、神戸市内24例、兵庫県内10例、兵庫県外4例で、搬送手段は全例消防局の救急車を使用した。転院の交渉は、24例は一対一の病院間で行ったが、神戸市内への転送例24例中の14例は、大阪市立大学附属病院と六甲アイランド病院が中心となったコーディネートのもとに、六甲アイランド病院を中継地点として、大阪や奈良、和歌山、三重などへ、船舶ないし重傷者はヘリコプターで転送された。搬送例の最終的な転帰は37例が生存し、死亡は1例にとどまった。

(考察)
震災で受傷した外傷患者38例を後方搬送し、37例を救命しえた。後方の病院との一対一交渉だけでなく、空海の輸送に適した病院を中継した搬送が良好な結果につながったと考える。しかしながら初期搬送の遅れは否定できず、情報の交換や搬送手段の確保の重要性が認識された。被災地の医療機関は自己完結を目指すのではなく、後方搬送を視野にいれた初期治療の展開を心掛け、一方、後方病院は、前線の病院に積極的にコンタクトを図るとともに搬送手段や添乗医師の確保まで含めた患者受入に努めるべきである。そして、何よりこの間を取り持つ有機的なコーディネーションこそ効果的な後方搬送には不可欠であり、その意味から情報のネットワークづくり、災害拠点病院などへの設備投資や広域の訓練などが今後の課題と考える。

 

 

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9,災害時の洋上からの患者後送について

-海上自衛隊の現状-

塩崎隆博

国立病院東京災害医療センター(海上自衛隊医官)

 

 阪神淡路大震災では、陸路からの救助活動が困難を極め、海路からの救助が有効であったことはよく知られている。しかし、我が国には十分な医療機能をもった船がなかったので、船舶による広範な医療活動はなかった。そのため、災害に対する支援のあり方をめぐり、多目的病院船、災害救助船の必要性に対する論議が行われるようになってきた。今回、病院船、準病院船(病院機能併設船)について述べ、海上自衛隊における艦船を用いた災害医療の現状について報告する。

現在、現役病院船としては、米国2隻、ロシア4隻、中国2隻の計8隻がある。米海軍病院船マーシーを例にみると、トン数69,000トン、病床数1000床、手術室12室の本格的病院であり、災害救助や人道的作戦に使用されているが、接岸可能な港湾の制限や高い維持費等が問題となっている。準病院船は、他の目的の艦船に病院機能を付加したものであるが、代表的な例に、災害救助用物資の輸送や被災民の診察を任務として防災庁により建造されたイタリア海軍揚陸艦サン・ジョルジョ(7,700トン)があり、実績を上げている。

各国船舶の現状等から考察した災害医療支援船舶が具備すべき要件は、1)高次医療機能を有する、2)ヘリ、上陸艇等の搬送手段を有する、3)通信機能を有するがあり、また我が国においては大型過ぎないことも重要である。海上自衛隊が現在保有する艦艇において、これらの要件を最も満たしている艦艇は8,000トン級補給艦3艦である。これら補給艦は、ヘリの離着艦が可能であり、診察室、手術室、X線検査設備等、有床診療所としての機能も有し、地方自治体等との災害救助訓練も実施しているが、大量傷者への対処能力は未だ不十分である。

10年3月就役予定の8,000トン級輸送艦おおすみは、医療機能、搬送手段のいずれも補給艦を上回っており、今後は本艦による災害医療のあり方について検討の必要があるが、海上自衛隊の災害時の患者後送に対する役割はますます増してくるものと思われる。

 

 

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10,災害時患者搬送用へリポートの適正な設置の必要性について

滝口雅博

弘前大学医学部附属病院救急部

 

 阪神・淡路大震災の前に、1993年7月12日に発生した北海道南西洋地震で、奥尻島では死者202名、行方不明28名、負傷者323名という大きな被害があったが、島内で治療困難と判定された重症者は、災害発生後14時間以内に全員陸上白衛隊のヘリコプターを使用して北海道に搬送されていた。

 一方、阪神・淡路大震災においては、死者5、500人、41、000人の負傷者を出した災害にしては、震災後2ヵ月間にヘリコプターで後方病院に搬送された患者数が214名と少なく、かつ、災害直後の使用がすくなかった事から、災害時のヘリコプターによる患者搬送体制の必要性が大きく取り上げられた。

そして、これを受けて政府は、その後、各県1機の防災ヘリコプターの配備を行っている。この2つの災害時のヘリコプターによる患者搬送の対応の差は、通常患者搬送手段の一つにヘリコプターが使用されているか否かに起因するものと考えられるが、もう一つの要因として、災害時に患者搬送に使用可能なヘリポートが存在するかどうかという事が挙げら机る。阪神・淡路大震災後に患者を後方送ったヘリポートのうち、1カ所から10人以上の患者を送りだしたヘリポートは使用されたヘリポート29カ所のうち6カ所で、そこから合計177人(82.7%)の患者が送り出されていた。そして、このヘリポートと悪者を送った病院の位置を地図上に示すと1カ所のヘリポートを近くの1ー2の病院が使用したに過ぎない。

このことは、神戸市の様な人口密度の高い地域で発生した災害時に、ヘリコプターを使用して患者搬送を行う為には、患者が多く収容される病院の直近にヘリポートが存在することが必要条件になるものと考えられる。今回の阪神・淡路大震災後には・車で患者搬送を行うことは不可能に近かった。此の事は、ヘリポートヘの患者搬送も困難であった事であり、今後、人口密集地に災害用ヘリポートを設定する場合には、病院直近に恩着搬送のためのヘリポートを設置することを真剣に考えることが必要であると思われる。

阪神・淡路大震災後、厚生省が指導している・災害拠点病院にヘリポートの設置を求めていることは非常に重要なことであり・特に大都会の災害拠点病院には、ヘリポートの設置は欠かすことの出来ない条件であると考える。さらに、先に述べた北海道南西洋地震の場合のヘリコプターの有効な使用は、通常からの使用がいかに重要であるかを如実に示しているものであろう。

 

 

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11,災害初動時の指揮命令系統の構築について

-阪神・淡路大震災時の大学病院での経験から-

石井 昇、中山伸一、松田 均

神戸大学医学部災害・救急医学

 

災害は予期せぬときに起こるのが通常であり、災害医療のキーポイントの一つは、災害初動期の災害現場から医療機関に至る迅速かつ適切な医療活動の展開である。その活動効果を最大限に発揮するためには、限られた人的、物的資源を如何に有効に活用するかに係っている。したがって、それらの指揮命令系統が災害発生後可及的速やかに構築されなければ、効率的な医療活動へとつながらない。そこで、阪神・淡路大震災時の大学病院での医療活動経験から災害初動期の指揮命令系統の構築について検討したので報告する。

【結果】1995年1月17日の阪神・淡路大震災において、当大学病院での災害医療対応の指揮命令系統は、救急部を中心として比較的速やかに構築された。その結果、災書初期期の医療活動は比較的混乱なく、整然かつ適切に行われえたと考えている。それらがスムーズになされた要因は、以下のようなことが関係したと考えられた。(1)震度7の地域から少しはずれたことが関連し、比較的病院の建物そのものの損傷は少なかったこと、(2)院内の被災状況の把握と情報伝達が比較的速やかに行えたこと、(3)教育・研究・診療機関であることから十分な人的医療資源をもっていたこと、(4)救急部が中心となり各専門診療科との協調の基に日常的な救急医療を行っていたこと。(5)病院内の研修医のほぼ全員が救急部をローテーションしていたこと、(6)病院内の諸事情を熟知していた人材に恵まれたことなどである。

【結語】災害初動期の指揮命令系統の構築に当たって重要なことは、(1)被災状況の把握と情報収集に基づいた医療能力の評価。(2)災害発生前の準備、すなわち病院災害対策マニュアルの作成と訓練の実施、(3)病院職員に対する災害医学教育などである。

 

 

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12,静岡県における防災対策 -SPECTの紹介

小川弘子

静岡県総務部地震対策課緊急防災支援室

阪神・淡路大震災を契機に、静岡県が進めてきた地震対策の見直しが行われ、初動態勢の確立を図るため、平成8年4月1日に静岡県緊急防災支援室(SIIZUOKA PREFECTURAL EMERGENCY COORDINATION TEAM :SPECT)が発足した。大規模地震等の発生時、県内9カ所の県行政センターに設置される災害対策支部に派遣され、支部長を補佐し、被害情報の収集・伝達や災害応急対策に係る連絡調整等を支援する組織である。

(図1)そのために、災害応急対策を迅速かつ的確に行えるよう専門的知識を有する各分野の職員及び外部組織からの要員で構成されている。(図2)昨年度のSPECTの活動は、室員の防災資質を向上させるため、イメーシトレーニング、図上訓練、防災機器取扱い訓練や動員・派遣訓練等を行うとともに、県下74市町村の初動態勢等を調査し、市町村ごとの課題を整理した。

本年度は市町村に対し、ソフト面を中心に初動態勢の充実強化を働きかけるとともに、県支部との連携を更に強化し、訓練等の充実も図っている。SPECTは・県支部において防災対策の専門家としてコーディネーター的な立場にあるため、看護婦として直接焚書医療現場には携わらない。しかし、県支部・市町村の地域性に合う初動態勢の確立に向け、看護の知識と経験を生かしながら、その効果的な活用方法について、昨年度の資料を基に調査・研究を深め、県支部・市町村の救出・救護体制の充実強化が図れるよう活動していきたいと考えている。

 

 

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13,地域防災計画における災害医療について

金田正樹1)、越智元郎2)、二宮宣文3)、山口孝治3)、山崎達枝3)

聖マリアンナ医科大東横病院 整形外科1)
愛媛大学 救急医学2)、国際災害研究会3)

「目的」
・阪神淡路大震災後、各都道府県は地域防災計画の見直しを迫られ、ほとんどの自治体は平成8年までに防災計画を修正した。今回われわれはこの防災計画における災害医療の役割(特に地震災害)について検討したので報告する。

「方法と結果」
・各都道府県に地域防災計画の送付を依頼したところ、47都道府県中33、12政令都市中8都市から計画書が送られた。この計画書の中から防災計画における災害医療の占める位置と内容などについて検討した。
・全ての地域防災計画は1.総則、2.災害予防計画、3.災害応急対策計画、4.復旧・復興計画の4章からなり、災害医療計画は第3章の災害応急対策計画の中に位置していた。その内容はほとんどが同じで医療計画の項目を並べただけで他の通信やライフラインなどの復旧計画から見ると内容が乏しかった。また大災害時には人命救助を最優先し、災害医療を重点的にすすめると宣言している計画は皆無であった。県レベルにおいては目を引くような独自な計画は見当らなかったが、都市レベルになるとかなり繊細な計画をたてている所が見られた。しかし災害時には最前線で負傷者の治療にあたるわれわれにとっては解りにくい計画書もあり、よりシンプルさが必要と思われた。

「結論」
・各都道府県の災害医療計画のハードな面は確立されつつあるが、今後はソフトな面としての医療関係者、医療支援者への研修や訓練が重要課題と思われる。


14,病院における診療機器等の早期復旧手法に関する研究

○河口 豊、岡西 靖

○国立医療・病院管理研究所 施設計画研究部、横浜国立大学

目的/大規模災害直後の混乱期の3日間くらいは災害地内の病院は個別に対応する必要がある.本報告はその際の応急医療活動を支える方策として、診療機器等の早期復旧のあり方を検討することを目的としたものである.

方法/阪神・淡路大震災の被災地内に位置する病院を主とし、周辺の病院も加え自記式調査を行った.41病院を対象とし、14病院から回答を得た.調査項目は(1)震災時の病院の状況、(2)ライフライン被害、(3)災害時に必要な診療機器の被害、(4)必要な診療機器等の応急処置である.

結果/(1)診療部門・病棟部門各々約3割が大きな被害を受けた.応急医療活動の場は外来待合い・玄関ホール・救急関係諸室の他に待合室や透析室・講堂などであった.(2)ライフラインは電気がほとんど当日中に復帰し、水道は最短で1日、最長で31日であった.ガスは最も復旧が遅れた.(3)応急医療活動に必要と思われる例示した診療機器について、 152件が何らかの原因で稼働しなかった.原因を複数回答で見ると、機器そのものの被害が約3/4ともっとも多く、次いでライフライン断絶にもよる機器停止が約4割と続いた.C損傷した機器の病院職員による応急処置は記録のあった71件中23件である.うち、18件が復旧し、診療に使用された.4件は修理しきれなかったり、ライフラインの影響で機能しなかった.処置されなかった機器38件の原因は、専門家がいなかった(17)、部品がなかった(15)、道具がなかった(11)であった.その他にメ−カ−による復旧が一部ある.結論/機能停止に対して、設置方法の改善とともに、日常的に設備・機器への理解と共に、担当職員や他の複数職員が取り扱えるよう訓練が必要である.

なお、本研究は平成8年度厚生科学研究「医療機関における震災後の診療機器等の復旧手法に関する研究」の一部である.

 

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15,災害時に於けるレスキュー犬の現状

浅井康文、金子正光、山本保博1)、太田宗夫2)、
伊永 勉3)、鈴木 靖4)、坂根宏治5)、山本愛一郎5)

札幌医科大学医学部・救急集中治療部、日本医科大学・救急医学講座1)、千里救命救急センター2)、
日本災害救援ボランティアネットワーク3)、北海道消防学校4)、国際協力事業団5)

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災に、スイス・レスキュー犬協会はいち早く救助犬を連れて神戸に駆け付けてくれたことは記憶に新しい(犬12匹、通訳を含む20数名、Swiss Air使用)。しかし、その受け入れ体制については賛否両論があったことも事実である。

現在では、フランスやアメリカのレスキュー犬の規模が大きく有名となっているが、スイスはいわゆるレスキュー犬の老舗である。運営母体はあくまで犬の所有者(ハンドラー)自身であり民間組織である。現在スイス国内に300人のハンドラーと12の支部があり、犬の訓練は各支部で行なっている。元々犬が人の為に役立つことはよく知られていた。30年前までは警察犬が遭難捜索に当たっていたが、捜査に向かないことが判り、10頭の犬から新たに訓練を始めたのがきっかけとなり、1971年にREDOG(Swiss Disaster Dog Association)が結成された。

スイスでは阪神・淡路大震災のように派遣した場合、政府がその経費を負担し、隊員の給与も協会に支給される。しかしハンドラーの日常の飼育費や訓練はあくまで本人負担であり、個人の愛犬家という理解である。スイスでは、どの種類の犬も救助犬になれる。

レスキュー犬になる資格は、3年間の訓練(犬とハンドラーともに)を受け、昼と夜の試験に合格しなければならない。現在は50頭が海外捜索の資格を持ち、76回出動の実績がある。捜索のみを行ない、犬と人の3日分の食事があればよい。国内捜索用には65頭が登録されており、内30頭は化学物資の捜索を担当している。現在世界レスキュー犬協会設立されているが、各国とも先陣争いの傾向がある。

今回は、演者らが現地調査をし得た、スイス、ドイツの救助犬の実態と、北海道(北海道ボランティアドッグの会、日本S.R.Dアカデミー)、日本レスキュー協会など、日本の現状を含めて報告する。

 

 

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16,バングラデシュ人民共和国、災害救援省の役割と活動内容について

○松阪正訓、金田正樹、浅井康文、山崎達枝、浅利靖、近藤久禎、二宮宣文、
上原鳴夫、仲佐保、小井土雄一、島田靖、安田直史、鵜飼卓、山本保博

国際災害研究会

 

 バングラデシュ人民共和国は世界でも最も災害の起こりやすい地域の一つである。これは人々の多くが脆弱で、自然現象による災害が発生したときの抵抗力が非常に弱い地域であると言われている。過去200年間に60回以上に及ぶ大きなサイクロンと高潮が発生してきた。1991年にはサイクロンによって10万人を越える犠牲者が発生した。ところが1994年のサイクロンでは犠牲者は数十人にとどまった。これは災害対策としてハイテクを駆使した予報や多数のサイクロンシュレッターの建設などが効果を発揮したと思われる。このように常に災害の危険にさらされている同国には災害救援省がある。今回はバングラデシュ人民共和国、災害救援省の組織、システム、平時の活動内容、災害時の活動内容、役割、災害時の医療活動などについて調査したので報告する。

 

 

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17,防災訓練におけるアマチュア無線の活用

沼田 恭一1)、山口孝治2)

1) 横須賀共済病院 中央放射線科、2)同 外科

 災害時の救援活動では情報の収集が重要になり、被災者を受け入れる病院としては、院内の被害状況はもとより、地域の人的被害状況・行政機関・他の医療機関の体制など病院外の情報、さらに医薬品の救援や医療スタッフの応援など、被災地以外との情報交換も重要になる。 横須賀共済病院アマチュア無線クラブは、開局以来専ら趣味としての活動をしてきたが、95年1月17日の阪神淡路大震災で一般アマチュア局が活躍したのを知り、広域災害時に非常通信手段としての活用を検討してきた。 我々は過去数回、横須賀市内局との非常通信訓練で交信可能範囲の把握を行い、特に96年9月1日の院内防災訓練では、同時に行われていた神奈川県・横須賀市合同防災訓練現場の横須賀市アマチュア無線局非常通信連絡実行協議会(以下協議会)との間で、病院側の受け入れ体制の報告、ヘリコプターの要請、災害現場の状況報告などの交信を行った。また97年1月19日には、協議会と協力し、横須賀市医師会の災害訓練で、電話が不通になった状況を想定し、医師会館に設けられた医療対策本部内にアマチュア無線局を設置し、市内4ヶ所の応急救護所・3ヶ所の病院・消防本部・自衛隊との交信を行い、情報収集、伝文の送信、救急車の手配などの訓練を行った。  災害時の情報収集手段は、携帯電話・衛星通信などいくつか準備しておく事が望ましく、そのひとつにシンプルで操作が簡単なアマチュア無線は有効な手段である。 今回は、防災訓練でのアマチュア無線の活用と、今後の課題・展望について報告する。

 

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18,災害時の緊急救援を想定したインターネットを利用した画像中継の試み

沢田寛、鎌田裕十朗、山本秀樹、中野知治、菅波茂(*1)
河原研二(*2)田中康伸、谷合国夫(*3)、飛岡宏(*4)、水田満(*5)
小宮正巳(*6)、鹿嶋小緒里、北川文夫、浅山泰祐、大西荘一(*7)

*1 AMDAアジア医師連絡協議会、*2 岡山大学歯学部、*3 NHK岡山放送局
*4 飛岡内科医院、*5 プログレッシブネットワークス(株)
*6 NTT東京、*7 岡山理科大学総合情報学部 数理情報学科

インターネットを用いた画像伝送の技術は近年飛躍的な進歩を遂げ、インターネットそのものの普及とともに容易かつ身近なものとなった。災害時救援の際にこの技術が応用できれば、前線と後方の緊密な連携、情報の共有に際し極めて有用である。今回我々は1997年8月31日茨城県守谷町で行われる茨城県総合防災訓練に参加し、プログレッシブネットワーク社のリアルビデオを用いた訓練の模様の生中継を行う。この経験を踏まえ、デモンストレーションを交えて報告する予定である。

(詳しくはhttp://www.harenet.or.jp/netv/BOSAI/以下を参照してください。)

 

 

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19,仮想災害情報に対するインターネットを利用した通信実験の試み

坂野晶司(1)、越智元郎(2)、田中盛重(3)、
白川洋一(2)、早川達也(4)、築島 健(5)、金子正光(1)

札幌医科大学医学部救急集中治療部(1)、愛媛大学医学部救急医学(2)、愛媛大学医学部計算機センター(3)
市立札幌病院救命救急センター(4)北海道大学医学部精神神経科(5)

 

 災害時に医療機関相互が情報交換することの重要性については既に第二回の本会で述べた。情報伝達経路を複線化することによりより有効な情報伝達が可能になると思われるが、インターネットはその検索性・蓄積性・非同期性から有効な通信手段となる可能性がある。

今回我々は本邦有数のネットワーク組織であるEML(救急災害医療メーリングリスト)で仮想災害通信実験を行った。北海道・札幌市北部で震度6強の地震が発生し人的被害が発生したとの想定でEMLに発災情報を流し、その後札幌市内の3医療機関からの現状レポートと応援依頼をEMLに流し、約300名の各受信者への伝達状況や伝達における問題点などを考察した。

電子メールによる通信は守秘性の面では有用であったがトラヒック集中時に著明な伝達の遅延を認めた。これは、受信者の増加に伴い、学術系ネットのSINETと商用ネットとの接続部分であるNSPIXPでの輻輳がメール遅配の原因と考えられた。また、災害時には実際に治療を担当する医師は直接に情報発信に与かることは困難なため、メールの扱いなどに精通した情報ボランティアの導入とこれらを含めたさらに大規模な通信実験・訓練が必要と考えられた。

 

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20,放射線災害時の汚染対策と医療

衣笠達也

三菱神戸病院 外科

問題の所在:過去に起こったさまざまな放射線災害に共通してみられる、被ばくの最も大きな問題は汚染である。

汚染の経路:放射性核種は通常、管理されているが、爆発や火災等さまざまな理由でコントロールされなくなり、環境中に流出して災害をおこすことがある。流出した放射性核種による汚染の経路を以下に列記する。1)流出した放射性核種が大気中に粒子として浮遊した後、地上に落下してきて植物、動物、建屋等の環境が汚染される。2)さらに地表面、水系が汚染される。3)人の身体表面や衣服等に放射性核種が付着して汚染する。4)呼吸による吸入、経口摂取、皮膚や創傷部からの吸収などにより、放射性核種が体内に入り、体内汚染がおこる。

汚染対策:汚染に対して次のような対策が必要となる。1)予防的対策:屋内退避、避難、移転、安定ヨウ素剤の投与など。2)汚染の評価:地域および環境の汚染の程度の評価・個人の汚染程度の評価3)除染:環境の除染、個人の除染医療の果す役割:放射線災害における、汚染に対する医療の果す役割は、安定ヨウ素剤の投与などの予防的側面と、個人に対する汚染評価や除染といった診断、治療的側面がある。

集団の汚染評価と除染:放射線災害時のわが国の緊急時医療計画では地域の住民を対象とした汚染評価と除染が重要な位置を占めている。1人の住民の評価、除染等に約9人のスタッフが必要となり、仮に3000人の住民を4〜5時間で評価、除染をするとしたら、私どもの大まかな試算では、少なくともおよそ300人のスタッフがその作業のために必要となる。さらに、緊急時医療の対象となる住民の数が増えれば、当然スタッフの数も多く必要とされる。災害時これらの人数が確保されねばならない。現在の緊急時医療計画ではこの点に関しては殆ど議論はされていない。

 

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21,国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)のバングラデシュ人民共和国
竜巻災害医療援助の評価

○浅利靖、浅井康文、金田正樹、山崎達枝、松阪正訓、近藤久禎、二宮宣文、
新藤正輝、杉本勝彦、甲斐達朗、山口孝治、大友康裕、鵜飼卓、山本保博

国際災害研究会

 

 平成8年5月13日午後5時30分頃バングラデシュで発生した竜巻は、首都ダッカ北西約100kmのタンガイル県のゴパルプールなどの6都とジャマルプール県のマダルカンジなど3郡に被害をもたらした。被害状況は、同国災害救援省によると負傷者35691名、死亡者525名、被災者84100名、損害家屋32601軒であった。

 日本国政府は、バングラデシュ共和国政府からの要請に基づき5月16日国際緊急援助を行うことを決定した。これを受け国際協力事業団では5月17日から5月30日まで国際緊急援助隊医療チーム(以下JMTDR)16名を派遣した。同チームは、タンガイル総合病院敷地内に設営した仮設テント内やタンガイル県バシャイル郡ミリクプール村を巡回診療し、のべ955名の負傷者の治療を行った。

 同チームの活動内容、問診表からの成果の分析は国際協力事業団からの報告者に詳細が記載されている。国際災害研究会では、災害医療研究の一環として、災害後に災害援助の評価(妥当性、有効性、効果、影響力、継続性、問題点などについての効果的検討)を行いより有効な災害援助の在り方を研究している。

 今回はバングラデシュ災害医療援助から約1年半経過した段階で、JMTDRによる災害医療援助の評価を目的とし調査団を派遣した。今回の調査内容は、1)派遣の時期、期間について。被災者側から見て発生後5日目からの活動開始、活動期間、さらに後続隊が必要であったかなど。 2)派遣の場所 3)JMTDRの医療の質はどうであったか?人数、医療機材、携行薬品などについて。4)撤収後の問題点など。以上について調査検討することにより今回の竜巻災害医療援助の評価を行い、さらなる効果的な災害援助の在り方を検討したい。

 

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22,国際緊急援助隊医療チームのバングラデシュ人民共和国竜巻災害医療援助の評価

〜災害現場での看護実践とその評価〜

山崎達枝、京極多歌子、前本由紀

国際災害研究会

 

 看護とは「一人ひとりの患者に対し、良い看護を実現することである」これは国が違っていても万国同じであると考えられるが、看護教育・役割・実践等は国によって相違があるように思われる。例えば、わが国の、保健婦・助産婦・看護婦法では、看護婦の役割には療養上の世話・診療上の介助とある。従って小(創)縫合のような外科的治療や血管内注射を行うことは認められていない。しかし、医師の助手的な役割を看護婦の実践として求めている国もある。

 平成8年5月13日バングラディシュ人民共和国タンガイル県において発生した竜巻災害に、国際緊急援助隊より医療班16名のうち、看護婦(士)7名が5月18日〜30日の2週間派遣された。国際協力事業団からの報告書によると「のべ955名の負傷者の治療を行い、その負傷者の多くが竜巻で飛んできたトタン板、その他の物体が身体に当たったことによる創傷等の外傷、治療は損傷部位の消毒や腐敗部位の除去、消毒後の縫合等の外科的治療であった」ということである。

 現地では日本人メンバーによる日本の医療形態を中心に行われたようである。そこで被災国での看護婦の役割から看護の救護ニーズを満たすことができたのか疑問な点である。今回の調査では、現地の看護婦によるアンケートを基に、今後海外での医療援助(看護)を行うときに、更に派遣された被災国でより効果的に活躍できる看護婦を目指し、災害看護研修の向上に役立てたいと考える。

 

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23,阪神・淡路大震災における被災地病院看護婦のストレス

―兵庫県下の基幹6病院と激震地区の中小病院の比較―

寺師 榮1)、高橋章子2)、長尾喜代治3)
岩切昌4)、広常秀人5)、太田宗夫1)

大阪府立千里救命救急センター1)、大阪大学医学部保健学科2)
寝屋川サナトリウム3)、大阪教育大学発達人間学4)、大阪市総合医療センター5)

 

 阪神・淡路大震災による被災地の兵庫県下基幹6病院における看護婦1805名の心身のストレスについて、被災による精神的変調を表す指標としてIES(Impact of Events Scale、小西聖子改訂版)を使用して、激震地区の3病院(A群)とその周辺地区の3病院(B群)を比較し、第24回救急医学会で報告した。

 即ち、病院の構造的機能的な被災状況を分析すると当然ながらA群がB群よりもダメージを受けており、また、その病院に勤めている看護婦達の身体的不調や精神的変調も有為にA群が高かった。今回@上記基幹6病院1805名の分析を進めた結果、これらの病院においては看護婦個人の環境については「住居の変化」、「近親者の疎開」、「近親者の死」を経験した者が経験しなかった者に比べてIESスコアが有意に高かった。病院の看護業務については「通常より多数または重症の外来患者を扱った」、「通常行うことのない医療行為」、「遺体搬送」や「患者の病状悪化」、「患者・家族からの非難」などを経験した者は経験しなかった者に比べてIESスコアが有意に高かった。これらの結果から被災病院での看護業務が個人に対して精神的に強い影響を及ぼしていることが示唆された。Aさらに前記以外の激震地区17中小病院の看護婦720名についても同じ調査を行うとともに、その病院の「所在地」、「規模」、「個人の環境」、「看護業務内容」、などと「IESスコア」との関係を見た。

 その結果、中小病院では個人の環境である「住居の変化」、「近親者の疎開」、「近親者の死」の3項目については基幹病院と同じくIESスコアに有意差を認めた。しかし、上記の看護業務内容についてはIESスコアとに有為差が無く、基幹病院看護婦とは異なる結果を得た。一方、中小病院看護婦の看護業務の拡大や量における負担はA群とB群の中間に位置していたにもかかわらず、IESスコアはA群の看護婦のスコアと同値であった。中小病院においては人的、物的資源が絶対的に少ないことや組織的活動ができなかったために一人当たりの業務負担が大きかったなど、大病院とは質の異なる状況因子がストレスに関与していることが示唆された。

 

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