日本集団災害医療研究会会誌  第3巻 第1号  要旨集

JADM abstract Vol.3 No.1 in english


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  1. 環境災害

    鵜飼  卓

  2. ジャマイカ国の災害と災害対策

    A. MacDonald

  3. わが国に起こっているガス災害の現状

    平林順一

  4. 神戸大学都市安全研究センターの建設と課題 −都市安全医学研究分野の概要−

    鎌江伊三夫 , 大星 直樹 , 片岡 邦夫

  5. 中小病院における災害救護訓練と活動マニュアル

    山口 孝治* , 大原  毅

  6. より現実的なトリアージ訓練を目指して
     −平成9年度緊急消防援助隊北海道東北ブロック合同訓練応急救護所設置・ドリアージ訓練での試みから−

    早川 達也  , 石田美由紀  , 松原 泉  , 秋田谷忠実  , 國安 信吉  , 遠藤 敏晴  , 越川 善裕

  7. 日本の大学病院における大量災害に対する準備の評価

    杉本 勝彦 , 有賀 徹 , 新藤 正輝

  8. 災害時レスキュー犬の現状

    浅井 康文 , 金子 正光 , 山本 保博 , 太田 宗夫 , 伊永 勉 , 渥美 公秀  
    坂根 宏治 , 大井 英臣 , 山本愛一郎 , 平川 智雄  

  9. 国際緊急援助隊医療チームのバングラデシュ人民共和国竜巻災害医療援助の評価

    浅利 靖 , 金田 正樹 , 浅井 康文 , 山崎 達枝 , 松阪 正訓 , 近藤 久禎 , 山本 保博  

  10. 防災関係機関による災害対応合同訓練

    榎木 浩 , 木田 正洋 , 浅井 勝美

  11. 新しい病院災害訓練の試み  −同時多数外傷患者に対する院内対応−

    大友 康裕 , 辺見 弘 , 本間 正人 , 井上 潤一 , 松島 俊介 , 塩崎 隆博  倉本 憲明

  12. インドネシア森林災害における国際緊急援助隊(JDR)医療専門家チームの役割

    國井 修 , 金川 修造 , 矢島 巌 , 久松 由東

  13. 放射線災害初期の治療

    衣笠  達也

  14. トリアージと搬送

    Ernest Yeoh

  15. 災害管理演習(HELP'97より)

    鵜飼 卓 , 青木 重憲

 

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1.環境災害


鵜飼  卓

兵庫県立西宮病院

要旨 急激な人口爆発と工業化が地球環境の悪化をもたらしているが,加えて地震,火山爆発,台風とサイクロン,洪水,地滑り,などの自然災害や地域紛争と難民,核事故,大規模な工場爆発,化学物質漏洩,森林破壊などが人の住む地球の環境を破壊し,その地域・社会をさらに災害に脆弱にしている。
人為的環境災害の最たるものは戦争・紛争である。対人地雷は安価なものは1個300円程度で制作されるが撤去には1個あたり10万円を要する。毎年2〜3万人が犠牲になるがその大半は農民や子供である。地球温暖化は海抜0m地域を地上から消滅させる可能性と砂漠化の促進,サイクロンや台風の増加を予測させる。温室効果ガス削減計画を議した温暖化防止京都会議において,先進国の温室効果ガス削減目標を定めた議定書を採択するに至った。この限りのある病み始めた地球に治療の手をさしのべ,環境災害という合併症から守るために,全ての人々がその生活様式を振り返り,地球環境保護に真剣に取り組む必要がある。

キーワード:大規模災害,環境汚染,生態系,紛争,対人地雷

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2.ジャマイカ国の災害と災害対策


A. MacDonald

Department of Surgery, University of the West Indies

要旨 ジャマイカはフロリダの南方600kmの西インド諸島に位置する。この島国にはハリケーンと地震災害が発生しやすい。最近の大きな災害は1988年12月のハリケーンギルバートであった。死者数は45名に過ぎなかったが,財産や基本的なインフラストラクチャーへの被害は甚大で,総額40億米ドルに達した。ハリケーンギルバートからの教訓を生かしてジャマイカは非常に優れた災害準備組織を構築することとなった。首相を議長とする国家災害委員会でがある。災害計画と管理を所管するのは災害準備緊急管理事務所(Office of Disaster Preparedness and Emergen cy Management, ODPEM)である。この官庁が緊急計画の作成と維持,国民防災意識の普及,そし て緊急対応の監視と調整との責任を持っている。国の組織は14の防災単位地域の委員会に分割されていて,それぞれに議長がいる。これらの各地域にはさらにゾーンあるいはコミュニティレベルの組織があり,災害時の初動を司る。我々の災害準備体制の主たる問題点は,十分な通信・輸送手段がないことと救援物資の備蓄が少ないことである。

(訳文責 鵜飼卓)

キーワード:ハリケーンギルバート,国家災害準備緊急管理事務所,防災体制,ジャマイカ

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3.わが国に起こっているガス災害の現状


平林順一

東京工業大学 草津白根火山観測所

要旨 日本ではこれまでしばしば火山ガスによる死亡事故が発生しているが,1977年7月12日には青森県八甲田山麓の窪地に溜まっていた火山性の二酸化炭素(CO2)によって訓練中の 自衛隊員3名が死亡し,9月15日には福島県安達太良山で,濃霧のため登山ルートを見失った登山客4名が硫化水素(H2S)によって死亡した。また11月23日には熊本県阿蘇山で観光客2名が二酸化イオウ(SO2)が原因で死亡した。このように1997年には異なるガス成分が原因となった災害が続いた。本報では,これらガス災害についての概説と調査結果,これまで日本で発生した火山ガス災害の現状,火山ガスの毒性,火山ガス災害の発生要因とその発生防止対策について述べた。

キーワード:火山ガス、災害

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4.神戸大学都市安全研究センターの建設と課題
 −都市安全医学研究分野の概要−


鎌江伊三夫 , 大星 直樹 , 片岡 邦夫

神戸大学都市安全研究センター

要旨 阪神淡路大震災で被災した神戸大学には,地震,水害のような自然災害に限らず都市ゆえに危険性が大きい疫学的あるいは人的被害に対する防災・安全に関する総合的研究を推進する拠点として,平成8年5月に都市安全研究センターが創設された。現在,@都市構成,A都市基盤,B都市地震,C都市安全医学,D都市行政産業基盤,E都市情報システムの6つの研究分野により構成されている。都市安全医学研究分野は平成9年7月より実質的な研究活動を開始し,@都市安全の医学的,公衆衛生医学的分析に関する研究,A都市安全の医療情報システムに関する研究,B医学・医療技術のリスクと評価に関する研究,Cリスク下での医学意思決定に関する研究を基本的研究テーマとして設定している。学際性は都市安全医学研究の重要なコンセプトであり,関連の研究室やWHO神戸センターなどとの国際的な共同研究も推進していく予定である。また,大学院教育により,医療政策,一般内科,災害医療,情報医療などに横断的に関連する問題解決のための実践および研究を遂行する能力を有する次世代の医師等を養成する。

キーワード:都市安全、災害医学、機器管理、医療情報、リスク分析

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5.中小病院における災害救護訓練と活動マニュアル


山口 孝治* , 大原  毅

横須賀共済病院

要旨 病院災害を伴った直下型地震災害の想定で、横須賀共済病院で災害活動マニュアルに基づいた災害救護訓練を行い,病院内救護について検討を行った。患者搬送には横須賀市消防局と市内ボランティアの協力が,模擬患者には総数65名のボランティアの協力が得られた。活動マニュアルの評価は予め決められた評価担当者が行った。地震発生後5分で、負傷者が病院に殺到したが,災害対策本部が設置されるまでトリアージを含めた初期治療は行われなかった。対策本部が設置されてからは,triageから始まり,患者搬送,治療,後方支援の依頼などある程度円滑に行われた。入念に準備されない救護訓練では,現在決定されている災害活動マニュアルは,災害対策本部などの中枢組織が完成されないと全く機能しないことが明かとなった。災害活動マニュアルの評価を目的の一つとした救護訓練は,有効な手段になりうると考えられた。

キーワード:災害救護訓練、災害救護マニュアル、災害対策本部、トリアージ

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6.より現実的なトリアージ訓練を目指して
 −平成9年度緊急消防援助隊北海道東北ブロック合同訓練応急救護所設置・ドリアージ訓練での試みから−


早川 達也*  , 石田美由紀*  , 松原  泉*  , 秋田谷忠実**  , 國安 信吉**  , 遠藤 敏晴**  , 越川 善裕*

*市立札幌病院救急救命センター  **札幌市消防局救急

要旨 平成9年度緊急消防援助隊北海道東北ブロック合同訓練における応急救護所設置及びトリアージ訓練に際し,救急隊員II課程研修生を主体とする模擬患者に迫真の演技とメーキャップを施して、現実の災害さながらの訓練を行った。
効果的な多数傷病者対応訓練を行うためには,現実的な想定を行う必要がある。指揮系統の確立をも目的とする場合は,発災乃至出動時から,医療機関の選定及び搬入までを含めたシミュレーションが必要である。しかし,現実に傷病者に対応する,個々の救急隊員,医師,看護婦らの多数傷病者対応経験が十分でない現状では,訓練においても実際に考えながらトリアージ,応急処置を行うことが必要である。こうした訓練を効果的に実施するためには,現実的な模擬環境の演出が必要となるが,これには模擬患者のメーキャップ,迫真の演技は効果的かつ必要な要素である。

キーワード:救急消防援助隊、トリアージ、応急救護所、訓練、模擬患者

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7.日本の大学病院における大量災害に対する準備の評価


杉本 勝彦* , 有賀 徹* , 新藤 正輝**

*昭和大学医学部救急医学教室  **北里大学医学部救急医学教室

要旨 日本における大学病院の災害準備を明らかにする目的で、全国の大学病院およびその関連施設に対してアンケート調査により検討を行った。対象となった大学病院およびその関連施設131であり、内87(67%)から回答を得た。日本の大学病院での災害対策が行われているのは47施設(54%)であったが、これらの施設を含めてもその準備内容は総じて十分ではないと自ら感じている施設が大半(78/87 : 90.0%)であった。各大学病院の災害経験の差やその背景で準備状況を比較してみると、災害経験のある施設では災害経験のない施設と比べると災害準備が行われている傾向が認められたが、その他の要因(国公立と私立との対比、病床数での対比)では明らかな違いは認められなかった。このアンケート調査の結果から、日本の大学病院における災害対策は不十分であることが明らかとなった。今後は、非災害時の救急医療業務などの診療体制と組み合わせた効率のよい新たな準備を早急に行う必要がある。

キーワード:災害準備、教育病院、救急医学

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8.災害時レスキュー犬の現状


浅井 康文* , 金子 正光* , 山本 保博** , 太田 宗夫*3 , 伊永  勉*4 , 渥美 公秀*5  
坂根 宏治
*6 , 大井 英臣*6 , 山本愛一郎*6 , 平川 智雄*7

*札幌医科大学・救急集中治療部  **日本医科大学救急医学講座  *3大阪府立千里救命救急センター  
*4日本災害救助ボランティアネットワーク  *5神戸大学文学部  *6国際協力事業団  *7外務省

要旨 スイス,ドイツのレスキュー犬施設を訪問する機会があったので,日本のレスキュー犬の現状と併せて検討した。スイスには15の災害NGO(非政府組織)があり,その中の1つにスイス災害救助犬協会が含まれている。どの種類の犬でも救助犬になれ,犬は各ハンドラーの所有である。犬の日常の飼育費や訓練費はあくまでハンドラー本人負担である。派遣規模としては3〜21頭までの構成が可能であり,海外派遣はすべて政府からの依頼に応じて実施される。
ドイツ政府の内務省に属するTHW(ドイツ災害救助団)は救助犬をもち,SEEBA(ドイツ海外災害救助団)とともに活躍している。またNGOであるドイツ赤十字では救助犬の研修を行う部門がある。
日本ではNGOの日本レスキュー犬協会が発足しているが,他のレスキュー犬組織との連携が必要である。日本において,独自にレスキュー犬組織を育てるとともに,スイスやドイツ政府のようにレスキュー犬を制度として認め,支援する必要がある。

キーワード:レスキュー犬、非政府組織、ボランティア、スイス災害救助犬協会、ドイツ災害救助団

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9.国際緊急援助隊医療チームのバングラデシュ人民共和国竜巻災害医療援助の評価


浅利 靖***    金田 正樹**3    浅井 康文**4    山崎 達枝**5 
松阪 正訓
**6    近藤 久禎**7    山本 保博**7

*国際災害研究会  **北里大学医学部救命救急医学  *3聖マリアンナ医科大学東横病院整形外科  
*4札幌医科大学医学部集中治療部  *5東京都職員共済組合青山病院  *6大阪府大東保健所  *7日本医科大学救急医学教室

要旨 1996年5月13日バングラデシュ人民共和国で発生した竜巻災害に対し派遣された国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)の医療活動を評価するため,被災地,および関係機関を訪問し調査を行った。JMTDRは災害後5日目から医療活動を開始した。病院で死亡した症例57例の80.7%がJMTDR診療開始前に死亡していた。活動開始時には,トタン板による外傷患者が多く創感染が多発し感染のコントロールを行った。同災害での病院死亡例中7.0%が感染により死亡したが、JMTDRの診療した病院では診療期間中,撤収後に感染による死亡例はみられなかった。被災民への面接調査では,創部に瘢痕形成は見られたが良好な治癒が認められた。JMTDRの医療活動は妥当性,有効性,効果という面で評価できた。また,現地の医師による患者のフォローができ,医療の継続性とういう点で問題はなかった。災害早期に医療を要する被災民への医療援助という目標は十分に達成されていた。

キーワード:評価、災害救助、バングラディシュ竜巻災害、国際緊急援助隊

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10.防災関係機関による災害対応合同訓練


榎木 浩 , 木田 正洋 , 浅井 勝美

横須賀市消防局指導課  

要旨 三浦半島地域において,自衛隊,警察,医師会,消防機関が参加し,電車の衝突脱線事故現場における負傷者の救出,救護,搬送訓練を実施した。この訓練は,想定された災害に対し,複数の機関がお互いに調整を図り,連携ある活動を行うものとした。実戦的で現実に即した訓練とするため,従来の合同訓練で行われがちであった綿密な訓練計画と事前調整を避け,現場救護所等の設営も現場到着後に行うこととし,さらに各機関の出動にも時間差を設けた。今回の訓練は,当消防局で現在検討中である大量負傷者活動要領,特に集団災害時のトリアージや現場救護活動,また災害現場での複数の機関による活動の調整について検証することができ,これらに含まれる問題点を抽出するためには効果的なものであった。

キーワード:防災関連機関、現場活動調整、トリアージ、災害対応合同訓練

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11.新しい病院災害訓練の試み
−同時多数外傷患者に対する院内対応−


大友 康裕 , 辺見 弘 , 本間 正人 , 井上 潤一 , 松島 俊介 , 塩崎 隆博 , 倉本 憲明  

国立病院東京災害医療センター

要旨 今回われわれは病名を一切隠し,必要な情報のみを提供し,各参加医療チームが独自の判断で緊急処置・投薬および必要最小限の検査を選択しつつ最終診断・治療方針決定に至るという設定の災害訓練を実施した。模擬患者(重症-中等症)は31名で,1名当たりの正味の診療時間は19.6±11.1(M±SD)分,総診療時間(各種検査時間を加えた)は67.2±26.4分であった。トリアージミスは3例(9.7%),放射線部門で不要な検査が27件(時間換算計3時間45分),診断・検査・処置・薬剤のミスに対してペナルティー時間を加算した計算上の診療時間は105.1±40.1分となり,7例(22.6%)で救命のための条件とした120分を超える結果となった。災害時トリアージの結果,重症外傷患者が同時に多数搬入された場合,種々の制約の中で,効率的に院内対応し妥当な診療結果を得るためには,今後多くの検討課題が残されている。

キーワード:病院災害訓練、院内対応、大量外傷患者

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12.インドネシア森林災害における国際緊急援助隊(JDR)医療専門家チームの役割


國井  修* , 金川 修造 , 矢島  巌** , 久松 由東*3

*国立国際医療センター国際医療協力局  **インドネシア環境管理センター  *3国立公衆衛生院地域環境衛生学部

要旨 Indonesiaで発生した森林火災に対し,日本政府は消防・医療の専門家からなる国際緊急援助隊専門家チームを派遣した。環境測定を行ったところ,大気中のPM10,CO濃度は,大気汚染基準(PSI)でそれぞれ,危険域(>300),極めて不健康域(200〜300)を示した。施設調査では,肺炎・喘息による外来・入院患者数が増加しており,健康影響調査では有症率99%,うち呼吸器症状が90%を占め,高齢者の重症度が高い傾向にあった。大気汚染のこれまでの疫学調査から推算すると,今回の煙害による被災地域での粗死亡率は約3倍,死亡数約10万人の増加が見込まれるが,化石燃料とバイオマスの燃焼ではPM10の内容,汚染物質の相互作用などが異なると考えられ,さらなる調査が必要である。今後,世界において頻発する可能性のある環境災害に対し,緊急援助のみならず災害予防の面で日本の役割は重要であり,日頃から国内外の環境専門機関と協力体制を築き,消防・気象・農業など多分野間協調を進める必要があろう。

キーワード:国際緊急援助隊、インドネシア、森林火災、大気汚染、健康影響

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13.放射線災害初期の治療


衣笠 達也

三菱神戸病院外科

要旨 わが国では現在,放射線は医療機関や工場での非破壊検査,原子力発電所や再処理施設等の広い範囲で利用されている。これらの場所で放射線事故が起こり付近の一般住民が被ばくや汚染等に巻き込まれる場合を狭義の放射線災害という。歴史的にはマーシャル群島事故やチェルノブイリ事故,ゴイアニア事故等がよく知られている。放射線災害が起こったとき,住民に対する対策の基本は@適切な情報の提供と,A避難や退避,移転等の防護対策,およびBヨウ素剤の投与や汚染検査,被ばく線量評価さらには除染等の被ばく,汚染に対する処置や放射線の健康影響への説明等の医療対策の3点に要約される。わが国の放射線災害時の一般住民に対する対策の計画は,実効性に関して,特に退避や避難等のdecision making,マスメディアとの協力,住民へのわかりやすい情報の提供に関する技術について未整備な点があることを指摘せねばならない。

キーワード:汚染、放射線災害例、緊急時計画

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14.トリアージと搬送


Ernest Yeoh

Accident & Emergency Unit , University Malaya , Malaysia

要旨 本論文は第3回日本集団災害研究会主催:災害医療セミナー(東京.1997.11)で行われた講演の和訳である。
「災害とは,極めて膨大な負荷がごくわずかな人員しかいない不十分な施設に対して科せられることを示す」したがって,災害が大きくなればなるほど,それに対する医療は困難を極めることになる。災害医療は,戦争災害によって発展・普及してきた事実がある。災害医療で最も重要であるとされる3T(Triage, Transportation, Treatment)はいずれも戦争災害の中で考案・改良され,今日のさまざまな災害の救援医療における必要性が認識されて,導入されてきている。今回の講演では,主に災害時の3Tにつき基本的な考え方と原則について述べる。

キーワード:災害、3T、戦争医学

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15.災害管理演習(HELP'97より)


鵜飼 卓* , 青木 重憲**

*兵庫県立西宮病院  **福岡徳洲会病院

要旨 この演習課題は,1997年7月ハワイ大学で行われたHELP’97(Health Emergencies in Large Populations)という国際赤十字委員会とハワイ大学共催のセミナーで使用されたテキストの一部を翻訳したものである。このセミナーは難民や国内被災民,自然災害による被災民など急に多数の避難民が生じた時の保健衛生や人道援助を行おうとする医療人のための3週間の研修セミナーで,本邦ではこのような教育に接する機会は皆無である。本稿はそのセミナーのごく一部のテキストの「タンザニアNgaraの難民キャンプの水不足問題」を国際赤十字委員会ピエル・ペラン博士とハワイ大学バークル教授の許可をいただいて翻訳したものである。読者諸賢は,このセミナーに出席したつもりで,設問まで来たら先を読み進まないでじっくりとご自分の考えをまとめ,自分なりの解答のメモを残してから次を読んでいっていただきたい。次号にも別の課題を紹介する予定である。

キーワード:難民、被災民、水不足、水資源、コストベネフィット

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