日本集団災害医学会会誌 

 第4巻 第2号  要旨集 2000年3月

JADM abstract Vol.4 No.2 in english


Return JADM top page

  1. 兵庫県震災対策国際総合検証会議への報告

    アーネスト・A・プレット−・ジュニア

  2. 阪神・淡路大震災での避難所医療における災害医療用語と報道用語

    久保山一敏 , 丸川征四郎 , 吉永 和正 , 切田 学 , 大家 宗彦 , 細原 勝士

  3. 国際的災害医療援助活動におけるTelemedicineの役割について

    新地浩一 , 種田明生 , 竹村俊哉 ,請川 洋 ,渡邊千之 ,芦田 廣 , 白濱龍興

  4. 神奈川県の災害医療の研修について

    加賀 雅恵 , 杉本 勝彦 , 山口 孝治 , 金田 正樹

  5. ニカラグア共和国ハリケーン災害救援 ―国際緊急援助隊における看護活動の概要と課題―

矢嶋 和江

  1. 看護基礎教育における災害救護訓練の効果  ―参加した学生のアンケートより―

    小原真理子

  2. パプア・ニューギニア国津波災害における医療活動の自己評価

小井土雄一 ,  浅利 靖 , 中村 建 , 山本 基 ,今野 孝雄 , 大塚 恵
金澤 豊 , 荒井 尚之 , 西村 満治 , 古屋 年章 , 秋山 純一

  1. パプアニューギニア国津波災害における災害看護について

大塚 恵 ,  浅利 靖 , 金澤 豊 , 山本 基 , 今野 孝雄 , 小井土雄一

 

 

INDEX


1. 兵庫県震災対策国際総合検証会議への報告


アーネスト・A・プレット−・ジュニア

ピッツバーグ大学医学部サファー研究所助教授

要旨 阪神淡路大震災は,兵庫県に大きな損害を与えたが,同時に,より高度な救急災害医療基盤を築く絶好の機会を与えたとも言える。復興と救急災害医療対応強化のプロセスは着々と進行しているようであるが,筆者は兵庫県当局が現在押し進めている諸策を強力に継続されることを希望する。そしてコミュニティレベルでの「草の根」の努力が災害に強い町づくりに生かされていくことを期待する。また,救急隊員,救急救命士,医師,看護婦,その他の医療関係職員の増員や研修,医療資機材,および災害管理計画についてもさらなる努力によってより充実した災害対応体制が構築されることを望むものである。

INDEX


2.阪神・淡路大震災での避難所医療における災害医療用語と報道用語


久保山一敏 , 丸川征四郎 , 吉永 和正
切田  学 , 大家 宗彦 , 細原 勝士

兵庫医科大学救急部 , 救急災害医学

要旨 阪神・淡路大震災後の避難所医療に関わる3用語,“被災者・避難所・救護所”について,用語集と新聞紙上で,日本語・英語両面から調査した。“被災者”とその類語は,学術用語として定義付けされつつあった。“避難所”とその類語も,一部が学術用語として定義付けされつつあった。しかし,わが国の実状を反映しながら,日本語として成熟した用語はまだなかった。“救護所”を意味する学術用語は見出せなかった。これら3語は,行政の現場や日本語の報道では,ほぼ統一して使用されていた。いっぽう英字紙上での英語訳では,“被災者”が12種,“避難所”が30種の類語が用いられており,多様で不統一であった。“救護所”は記事が少なく,1紙上で2種のみが用いられていた。これらの3語は,避難所医療を論じるにあたっては基礎となる単語である。報道との整合性を保ちながら,災害医療専門用語として概念・用法・英語訳の統一を図ることが,早急に必要である。

キーワード:阪神淡路大震災、災害医学用語、報道用語

INDEX


3.国際的災害医療援助活動におけるTelemedicineの役割について


新地浩一  種田明生*  竹村俊哉*2  請川 洋*
渡邊千之*  芦田 廣*3  白濱龍興*

陸上自衛隊衛生学校教育部・戦傷病救急医学教室 *自衛隊中央病院
*2海上自衛隊・練習艦隊 *3防衛医学研究センター・情報システム研究部門

要旨 Telemedicineは,国際緊急医療援助活動に代表されるような極めて遠距離の現場からも,専門医療へのアクセスを可能にする。ここでは,著者らの参加した1998年11月のホンジュラスでの国際緊急医療援助活動,ゴラン高原における国連平和維持活動(PKO)および海上自衛隊の遠洋航海におけるTelemedicineの例を紹介する。ホンジュラスでのTelemedicineの試行は,我が国における実践的な国際的災害救助活動における最初の成功例である。災害医療におけるTelemedicineは,通信にMobile環境のパソコンを使用するという点において,固定した施設・機材・通信路を用いる古典的なTelemedicineのシステムと異なる側面を持つ。そこでは通信手段の確保が重要であり,その点で,災害対処に大きな変革をもたらすことが予想される衛星通信についても考察した。Telemedicineと衛星通信は,今後の災害医療に重要な影響をもたらす可能性を秘めている。近い将来,日本の災害医療体制に是非とも導入することが望ましいシステムである。

キーワード:テレメディシン,ホンジュラス,自衛隊,災害医療,国際医療協力

INDEX


4.神奈川県の災害医療の研修について


加賀 雅恵  杉本 勝彦*  山口 孝治*2  金田 正樹*3

神奈川県衛生部 医療整備課 富士見駐在事務所
* 昭和大学救急医学
** 横須賀共済病院
*** 聖マリアンナ医科大学東横病院


要旨 神奈川県が平成9年度より,医療従事者に対して実施した,災害医療研修会の内容と受講者に対して実施したアンケ−ト結果について検討報告する。
 基礎研修は,災害医療の概要とトリア−ジの基礎知識の取得を目的に実施し,3年間で延べ12回開催し,1500人を超える受講者があった。災害医療そのものの情報不足と研修機会の少なさがあり,大きな期待が寄せられた。ここで得たアンケ−ト結果を元に,トリア−ジの実技訓練や病院防災マニュアル作成の手引きに関する研修など新たな研修を実施している。その結果,大規模な地震を想定した病院内の防災訓練の実施,災害医療拠点病院間での勉強会の発足など成果が得られている。

キーワード:災害医療,トリアージ

INDEX


5.ニカラグア共和国ハリケーン災害救援

―国際緊急援助隊における看護活動の概要と課題―


矢嶋 和江

群馬パース看護短期大学専任講師

要旨 ニカラグア共和国に派遣されたのが,災害発生後2週間という時期であったこともあり,災害に直接関連する医療ニーズは低かった。また,保健衛生活動に関しては,行政指導や保健衛生教育等が比較的,行き届いており看護活動としての介在する場面は少なかった。コレラなどの感染症の新たな発生増加と言った危惧もなかったが,被災者の中に若い母親が多く,彼女達のストレスに対する精神的ケアーニーズは高いと思われた。災害看護は救急看護にのみ視点をおく傾向があるが,国際救援の場にあっても心的障害に対するニーズは高く,派遣される看護婦が学習を深めておく必要性を強く感じた。現地に派遣されていて,任国事情や現地語にも堪能な青年海外協力隊隊員の協力は,緊急援助隊の活動にとって非常に大きな力となった。緊急援助活動に伴う携行医療資機材や医療廃棄物の問題について若干の考察を加えた。

キーワード:国際緊急援助隊JDR,災害看護,トリアージ,心的外傷,災害サイクル,災害時精神ケア,災害医療

INDEX


6.看護基礎教育における災害救護訓練の効果

―参加した学生のアンケートより―


小原真理子

日本赤十字武蔵野短期大学助教授

要旨 昨年10月,本学の2年生87名が授業の一環で,日本赤十字社主催の大地震災害救護訓練に参加し,応急救護ボランティアと傷病者の役割双方を体験した。参加の目的は,「訓練を通し,授業で学んだ知識の具現化として災害救護活動の理解を深める」である。看護基礎教育における訓練参加の効果について明らかにするために,訓練終了後,学生を対象に参加の満足度,学び,意見等についてアンケート調査を実施した。結果は,学生の満足度は高く,そして体験を通し救護活動におけるチームワーク,指示命令,救護ボランティアの重要性,救護訓練のあり方等の学びが確認できた。そして,救護訓練の有効性の要因について,1)応急救護ボランティアと傷病者双方を体験した,2)医療救護班と応急救護ボランティアの連携を見た,3)傷病者のメーキャップと迫真の演技による臨場感あふれる救護場面が展開されたこと等が考察された。今後も参加への学生の動機づけを促進したい。

キーワード:看護基礎教育,災害救援訓練,赤十字,模擬患者,応急救援ボランティア

INDEX


7.パプア・ニューギニア国津波災害における医療活動の自己評価


小井土雄一* 浅利  靖*2 中村  建*3 山本  基*4
今野 孝雄*5 大塚  恵*6 金澤  豊*7 荒井 尚之*8
西村 満治*9 古屋 年章*10 秋山 純一*10

* 日本医科大学高度救命救急センター,*2 北里大学医学部救命救急医学,*3 外務省経済協力局国際緊急援助室,*4 久我山病院,*5 我孫子聖仁会病院,*6 聖マリアンナ医科大学東横病院,*7 長浜赤十字病院,*8 第一臨床検査センター, *9 東アジア測量設計,*10国際協力事業団

要旨 1998年7月17日にパプア・ニューギニア国(PNG)に発災した津波災害に対して,国際緊急援助隊医療チーム(JDR医療チーム)が派遣され医療活動を行った。JDR医療チームは7月22日すなわち発災後6日目に現地入りした。現地といっても今回の活動拠点ウエワク病院は被災地からは150kmほど離れており,後方病院としての役割を担っていた。院内で現地スタッフと協力し傷病者の診療を9日間行った。89症例の津波による傷病者は1例を除いて外傷症例であった。災害サイクルにおけるPhase 1ということで,救急医療を要する症例を想定していたが,全例全身状態は安定しており,重症の頭部,胸部,腹部外傷は認められなかった。症例の約3/4が骨折患者であり,特に下肢の骨折が多かった。日本チームが参加した手術は26件。看護士(婦)の手術介助は38件,看護士麻酔実施・介助が18件であった。手術は大腿骨骨折観血的整復術,デブリドメント等であった。phase 1の後期ということで,創感染が多く見受けられた。また,海水を飲み込んで誤嚥性肺炎を合併している症例も認められた。しかし,被災地から離れた後方病院であるため,院内の衛生状態は管理されており,衛生状態の悪化に伴う呼吸器系あるいは消化器系感染症などは皆無であった。

キーワード:国際緊急援助隊医療チーム,パプア・ニューギニア国,津波災害

INDEX

 


8.パプアニューギニア国津波災害における災害看護について


大塚  恵* 浅利  靖*2 金澤  豊*3
山本  基*4 今野 孝雄*5 小井土雄一*6

* 聖マリアンナ医科大学東横病院,*2 北里大学病院, *3 長浜赤十字病院,*4 久我山病院,
*5 我孫子聖仁会病院,*6 日本医科大学高度救命救急センター

要旨 1997年7月17日にパプアニューギニア国で発生した津波災害において,国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)の看護婦として後方病院において活動した。被災者は,家や家族や財産を失い,負傷し,人によっては片足など自分の身体の一部までも失っていた。彼等の心の傷は深く,心のケアが必要であった。現地の看護婦,ボランティア,JMTDRのメンバーが被災者を精神的にも支えており,変化がみられたケースもあった。今後さらに効果的に関わるためには,災害サイクルに応じて災害看護を展開していくことが重要である。自分たちも精神面の看護について学びを深め,心の傷がPTSDへと移行するのを防ぐためにプライマリーヘルスケアに基づき,現地の人と協力できるようにさまざまな準備をしておくことが必要である。また,海外における活動では,宗教の関わりを含んだ異文化に対する理解も重要になる。

キーワード:災害看護,心の傷,災害サイクル,異文化理解

INDEX