日本集団災害医学会会誌 

 第5巻 第1号  要旨集 2000年8月

JADM abstract Vol.5 No.1 in english


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1.広範囲災害における連絡−情報管理の方法−

Victoria Garshnek, M.S.,Ph.D. and Frederick M. Burkle,Jr.,M.D.,M.P.H.

2.東海村放射線高線量被曝事故における緊急被爆医療ネットワークの役割

田中 秀治 、 和田 貴子 、 山口 芳裕 、 島崎 修次
前川 和彦 、 佐々木康人 、 明石 真言 、 浅野 茂隆
山田 芳嗣 、 三澤 和秀 、 長山 人見

3.2000年有珠山噴火における,重症患者多数発生時の救急医療の確保について

浅井 康文  伊藤  靖  丹野 克俊  辺見  弘

4.救命救急用プレフィルドシリンジの災害医療現場における有用性について

−アンケート調査から−

小井土雄一  二宮 宣文  山本 保博

5.現実に即した設定を行った空港災害対応訓練の成果

―平成10年度丘珠空港消火救難合同訓練から―

早川 達也  石田美由紀  松原  泉  國安 信吉

6.ニカラグア共和国ハリケーン災害

―救援期から復興期にかかる時期の医療援助活動―

高木 史江  近藤 久禎  杉本 勝彦

7.日赤医療チームによるトルコ地震救援活動報告

−看護婦の立場から−

東  智子  織田 照実  苫米地則子

8.日本赤十字社医療チームの台湾地震被災者救援活動報告

井  清司  松金 秀暢  村田 美和  有働 知子
村岡  隆  斎藤  栄   加藤 昭浩   深沢  仁

 


1.広範囲災害における連絡−情報管理の方法−

Victoria Garshnek, M.S.,Ph.D. and Frederick M. Burkle,Jr.,M.D.,M.P.H.*

Global Human Futures Research Associates
*1Senior Scientist and Visiting Professor
The Johns Hopkins Schools of Medicine and Hygiene and Public Health, Baltimore, Maryland, USA

要 旨 災害や人道的危機などで経験されてきたすべての問題のなかで,最も深刻なものは,連絡が不可能になり,また重要な情報(たとえば初期の災害の評価や特別な手段の要請など)に対しての不適切な接触に集約する。災害対策を行う団体は,緊急対応や技術の発展と歩みを共にしてこなかったことが明らかである。災害援助はしばしば遅れたり,不適当であったりその効果が認められなかったりする。しかしながら,過去の30年間,人道援助や災害時の連絡手段の応用や情報工学は未来への可能性に対しての入り口を提供してきていることを示している。電話による情報交換や情報工学の急速な発展により,より多くのそれらへの参加や,経費の削減,より効果的なこれらの道具の応用手段を手に入れることになり,21世紀における災害管理は大きな変化をもたらすことになる。新しい情報交換の道具(無線や低軌道衛星,あるいはインターネット)は,最初のひとつの組織内からより多くの組織間のアプローチへと,また個人の使用からより組織化された判断決定の群へのアプローチへと情報の反応を作り直すことが可能となる。専門的な組織,造形化,WWWあるいは縮写化のような情報工学は−mitigationに対する反応(適切な方法を用いて正確な情報を交換することにより社会的重要性を軽減させ)から災害を予防する(予測,模擬,と情報工学を用いて)−強力な危機管理の重要性を変換させる可能性をもっている。しかしながら,なされるべき事柄はたくさんあり,災害管理の分野だけでは多くのことは行えない。情報の共有化と連携のこの新たな時代に,世界は基金の設立,隊の構築や,問題解決,効果の判定をするためのより大きな展開を可能とするようにより統一化されてきている。偉大な挑戦は,−災害管理と科学の分野が共に働き,すべての国家に有利になるような有意義な結果を導き出すための新たな知識と技術的な道具を適用するのを助けるために―それ自身を国際的な科学技術の世界に差し出すことになる。

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2.東海村放射線高線量被曝事故における緊急被爆医療ネットワークの役割

 

田中 秀治 、 和田 貴子 、 山口 芳裕 、島崎 修次
前川 和彦* 、 佐々木康人*1 、 明石 真言*1 、 浅野 茂隆*2
山田 芳嗣*3 、 三澤 和秀*2 、 長山 人見*2

杏林大学医学部 、 *東京大学救急医学 、 *1放射線医学総合研究所
*2東京大学医科学研究所 、 *3東京大学分院麻酔科

 

要 旨 背景:1999年9月30日、茨城県東海村にある株式会社JCOのウラン加工工場において、3人の従業員が高線量の中性子線に被爆した。受傷後2時間後に国立水戸病院を受診、高線量被爆による急性放射線症の発生が予見されたため、初期治療ののち約5時間後に放射線医学総合研究所(放医研)に搬送された。3人の被ばく線推定線量として,O氏 17GyEq, S氏 10GyEq, Y氏 2.5GyEq程度であると仮定された。放医研を中心とした専門医治療グループすなわち,緊急被ばく医療ネットワークが招集され,短時間で専門治療医師団が治療を開始した。最も高い線量を被ばくしたO氏とS氏は,急速に全身の浮腫,発熱,下痢などの急性放射線症と思われる症状を呈し,関係者の懸命な集中治療の甲斐なく死亡した。最も低い線量を被ばくしたY氏については,軽度の骨髄抑制をみたものの,放医研において,無菌室で骨髄抑制時期の治療を受け,骨髄機能の回復を確認した後,一般病室において治療し退院となった。考案:今回の事故を経験し放射線事故における緊急被ばく医療体制の整備の遅れが痛感された。国の対応の遅れに比べ放医研を中心とした任意の専門医集団である緊急時被ばく医療ネットワークが迅速に機能し,円滑に3人の患者に対する高度の医療を行うことができた。緊急被ばく医療ネットワーク会議は公的な権限や効力を持つものではない。しかし,高度な被ばく患者の治療は高度な医療技術や先端的医療とくに,熱傷管理を含む集中医療が重要となるため,医師治療グループは救急/集中冶療医,血液骨髄移植医,熱傷専門医,放射線専門医から構成されるべきで,施設としても,無菌で線量評価が迅速に行え,かつ高レベルの集中治療室や熱傷治療室が必須である。今後,患者救命のため各分野の専門医の連携体制の強化と施設の効果的かつ効率的充実が急務であると考えられた。

キーワード:急性放射線症,核事故,災害

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3.2000年有珠山噴火における,重症患者多数発生時の救急医療の確保について

 

浅井 康文 、伊藤 靖 、丹野 克俊 、辺見 弘*

札幌医科大学救急集中治療部
*国立病院災害医療センター

要 旨 2000年3月31日午後1時10分に有珠山が23年ぶりに噴火した。有珠山噴火直後に現地入りした際に,「有珠山噴火における,重症患者多数発生時の道内および道外への救急医療の確保について」検討した。1991年の雲仙普賢岳での多数重症熱傷患者発生の教訓より,そのような場合に備えて後方医療機関の確保を行った。札幌医科大学医学部救急集中治療部が調整し,重症熱傷患者は道内では10例まで対応可能で,10例以上の場合,厚生省を介して全国の医療機関に要請するシステムの案を作成した。しかし道外の民間空港への自衛隊機の着陸解決には時間がかかるようである。そのため,とりあえず北海道内で収まるシステム構築を行い,引き続き全国展開を視野に入れたシステムを考慮している。

キーワード:有珠山噴火,熱傷患者,トリアージ,広域搬送

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4.救命救急用プレフィルドシリンジの災害医療現場における有用性について

−アンケート調査から−

 

小井土雄一 , 二宮 宣文 , 山本 保博

日本医科大学高度救命救急センター

要 旨 救命救急の際に用いることの多い薬剤をあらかじめ充填した救急用プレフィルドシリンジ(以下PFS)の試作品を入手し,阪神・淡路大震災を経験した関西地区の救命救急センター等5施設46名の協力を得て,災害医療現場におけるPFSの有用性を検証するためにアンケート調査を行った。震災時の救護経験を有する医師を中心にPFSの操作方法を説明し,模擬的試用の後にアンケートを行った。アンプルを用いた方法は被災時の体験を基にし,PFSは被災時に用いることを想定した回答を得た。その結果,PFSでは,細菌汚染・ガラス片や異物の混入の可能性,投薬準備の煩雑さ,けがの危険性がないこと,迅速性・携帯性に優れ,備蓄医薬品としての可能性がある等,PFSは災害医療における不安や問題点を減少させるものであり,災害の医療現場において有用性が期待されるシステムであることが明らかとなった。今後,このような製品が広く浸透していくことが望まれる。

キーワード:プレフィルドシリンジ,阪神・淡路大震災,災害医療

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5.現実に即した設定を行った空港災害対応訓練の成果

―平成10年度丘珠空港消火救難合同訓練から―

 

早川 達也  石田美由紀  松原  泉  國安 信吉*

市立札幌病院救命救急センター

要 旨 札幌市内の丘珠空港における消火救難合同訓練において,関係各機関の出動要請から現場到着までの実際の時間を考慮した現場到着時間設定と,迫真の演技とメイクアップを施した模擬患者を設定することにより,より現実的な災害環境のもとで多数傷病者対応訓練を行った。現実に即した設定を行った結果,従来のシナリオに沿った訓練では不明瞭であった医療救護活動における関係各機関の役割が明らかとなったほか,情報伝達等自衛隊と消防機関の連携について課題が残った。

キーワード:丘珠空港,航空機事故,訓練,模擬患者

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6.ニカラグア共和国ハリケーン災害

―救援期から復興期にかかる時期の医療援助活動―

 

高木 史江  近藤 久禎*  杉本 勝彦*1

東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学
*日本医科大学救急医学 , *1昭和大学医学部救急医学

要 旨 1998年10月下旬に発生した大型ハリケーン・ミッチによって生じたニカラグア共和国の洪水災害に対し,11月14日から22日の期間,国際緊急援助隊医療チームは救援活動を行った。首都マナグアのヌエバ・ビダ地区,グラナダ県のマラカトーヤ地区とテパロン地区の3地域で1,120人に対して診療活動と調査活動を行った。受診者は小児 (14歳以下55.0%)と成人女性 (15歳以上34.5%)が多かった。疾病では約4割が呼吸器疾患が約4割と最も多く,下痢・消化器疾患,皮膚疾患がそれに続き,外傷は約1%であった。われわれが活動した地域では重篤で緊急性のある被災者は認められなかった。主たる活動内容は救援期から復興期に移行する時期の感染症の監視および治療であった。この時期の医療援助活動では,途上国における急性呼吸器感染症や下痢症に対する適切な対処や,被災前の現地の背景事情や保健活動を考慮することが必要である。

キーワード:災害援助,ハリケーン災害,国際緊急援助隊医療チーム

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7.日赤医療チームによるトルコ地震救援活動報告−看護婦の立場から−

 

東  智子  織田 照実*  苫米地則子*

熊本赤十字病院看護婦長 , 日本赤十字社医療センター看護係長

要 旨 トルコ共和国で発生した大規模地震に対し日本赤十字社は医療救援チームを派遣,発災後3日目より活動を開始した。活動場所は震源地イズミット郊外のウズンチフリック町,トルコ赤新月社が運営する仮設診療所であった。約1カ月の活動期間中,医師6名,看護婦5名,管理要員4名の計15名が派遣され,医療援助を行った被災者数は延べ1,700人に上った。看護スタッフの業務には直接的な医療行為の他,診療所の整備,医薬品の確保,医療物品の管理,診療システムの確立,連絡調整,情報収集等があり,広範囲に渡る活動が要求された。海外での緊急災害医療援助には,迅速な活動開始,効果的な活動成果を得るための方法論,が必要である。今回の活動で残された課題を検討することにより,災害医療がさらに発展していくことを期待している。

キーワード:トルコ地震,日赤医療チーム,災害救援活動,看護婦

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8.日本赤十字社医療チームの台湾地震被災者救援活動報告

 

井  清司  松金 秀暢  村田 美和  有働 知子
村岡  隆  斎藤  栄*  加藤 昭浩*  深沢  仁*1

熊本赤十字病院救急部 , *日本赤十字社 , *1日本赤十字社山梨県支部

要 旨 日本赤十字社は,1999年9月21日に発生した台湾地震の15時間後に,医療チームを現地に向け派遣した。現地での一週間の救護活動を報告し,阪神大震災と比較して災害早期の全体的な救援状況を述べる。活動の前半は被災現場でレスキュー隊とともに救援活動する方針とし,山奥の集落や地滑り現場などに出動する機会があったが生存者の救出には至らなかった。後半は,学校や公民館などで避難民の巡回診療を行った。災害早期の全体的な救援状況は,@現地医療チームの迅速な対応,A道路や橋が崩壊しているにも関らず応急工事や間道で車両を通行させて,物資の搬送供給が速やかであった,B組織的で活発なヘリコプターによる搬送,C多数の国際救助隊の活動,など注目すべきことが多かった。

キーワード:台湾地震,日本赤十字社,災害医療,検索救助医療

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