日本集団災害医学会会誌
第5巻 第3号 要旨集 2001年1月
JADM abstract Vol.5 No.3 in english
衣笠 達也
松前 孝幸
衣笠 達也
三菱神戸病院外科
要 旨 平成11年9月30日に東海村のウラン加工施設で起きた臨界事故は,わが国だけでなく国際的にも衝撃を与え,多くの人々の注目を集めた。とりわけ作業中に事故で高線量被曝を全身性に受けた3人の作業者の医療について強い関心が寄せられた。今回の医療は,実に多くの医療機関と医療スタッフが関与して3人の被曝患者の治療のために莫大なエネルギーが注がれた。本稿ではこの高線量被曝医療について事故現場から各医療機関に至るまで,どのような考えで何が行われたのかを検証した。とくに事故が発生してから患者がそれぞれの高度専門医療機関で治療を受けるまでの医療の流れについて,“臨界事故の初期医療”として検討した。さらに事故被曝患者の臨床経過のなかで,急性放射線症候群の病態生理に関し新たな知見に出合う経験もあったので,その概略を述べた。最後に事故被曝医療のあり方,今後の課題について言及した。
キーワード:臨界事故,急性放射線症候群,造血幹細胞移植,放射線熱傷
松前 孝幸
国立水戸病院麻酔科
要 旨 1999年9月30日発生の臨界事故患者3名の初期治療を国立水戸病院が担当した。連絡,搬送の過程を振り返ってみると,問題のあった点もある。その一つとして,幸い患者には汚染もなく,大きな問題とならなかったが,現場救急車での線量測定で“汚染なし”と判定されたことがある。以後この情報が各機関に流れ,直接茨城県内で処置や搬送に関わった人々は防護服などの身を守る対応がなされなかった。しかし,被曝者の身体は中性子線により放射化しており,吐血や下痢排泄物による放射能汚染が発生した。初期の情報については,不正確なこともあるので万全の体制で事に当たる必要がある。今回は突発的な事態であり関係機関はその対応に苦慮しつつも,臨機応変に処置を試み患者を現場より放医研まで搬送しえたと考えられる。
キーワード:臨界事故,線量測定,搬送,情報