「有珠山噴火関連災害医療計画に関する特別委員会」第2報

 

委員長:浅井康文
委 員:太田宗夫,金子正光,山本保博,辺見 弘,高橋章子,荒井他嘉司,丹野克俊

はじめに
平成12年3月29日の緊急火山情報により有珠山麓の虻田町や壮瞥町に緊急避難指示が出され,3月31日午後1時10分に有珠山が23年ぶりに噴火した.
5月19日に実施した現地調査の結果を報告する.なお本調査には鈴木 靖評議員(北海道消防学校)の参加を求めた.
 

調査
調査場所は,伊達市合同対策本部,仮設避難所,伊達市庁舎(当初の合同対策本部),豊浦町応急仮設住宅,有珠山北側サイロ展望台よりの噴火調査,豊浦町エイペックス社員療(避難所の一部),有珠山北東湖岸地域などとした.

1.伊達市合同対策本部:伊達市庁舎から現在のプレハブの建物に移っていた.現在も厚生省,国土庁,自衛隊,自治省消防庁、運輸省、警察庁、北海道警察など,多数の機関が駐在していたが,有珠山の火山活動自体は落ち着きを見せており,避難指示が部分的に解除されるなど,一時の緊迫した雰囲気は収まってきていた(図1).

2.仮設避難所(伊達市武道館):5月19日現在,仮設避難所に居るのはすべて虻田町からの3018人の住人で,24ケ所の避難所で生活していた.伊達市武道館の避難所で生活しておられる住民は160名であった.スローガンは「有珠山噴火に敗けず皆で頑張ろう」であった.「だて歴史の杜カルチャーセンター」の駐車所には自衛隊装甲車がまだ不測の事態にそなえて集結していた.また豊浦町応急仮設住宅(図2)も見学した.
3.伊達市庁舎(当初の合同対策本部):対策本部の標識を除いて,従来の伊達市庁舎に戻っていた(図3).市庁舎の収容人数を越え約1カ月間ここで活動したため,床タイル等の破損が目立った.

4. サイロ展望台:有珠山北側に位置し,洞爺湖温泉街の対岸に位置する.NHKなどのテレビで現場の映像が送られてくる地点である.まだ多数のカメラが設置されていたが,落ち着いた雰囲気であった(図4 ).
5. 豊浦町エイペックス社員療:避難所となっており,最高で1070名の避難者がおられたが,5月19日現在で250名と減少していた.避難所では札幌医科大学医学部附属病院の医師3名,看護婦3名,事務職員1名の7人が2泊3日のローテーションで,診療を続けていた. 噴火後1カ月以上経ち,風邪,不眠,便秘に加え,PTSD(外傷後ストレス障害)の報告もあった.夜間は国道が閉鎖となるため,まだ24時間体制の医師が必要とされるとの事であった.虻田町役場の「仮設住宅及び公営住宅の入居説明」では,入居された方々については食事の配給は致しませんと掲示されおり,食事を作る事で仮設住宅に入居する事をためらう人もいるようである.
7.洞爺湖サンパレス:このホテルより温泉街が制限地域となり,通行が禁止され,警察の方が警備をしていた(図5).また湖畔のボートには粘度の高い火山灰が堆積していた(図6).

考察
現在有珠山の麓の虻田町では、5月16日から立ち入り禁止地域の洞爺湖温泉街と泉地区の一部で避難住民の一時帰宅を実施し始めた。実に48日ぶりの一時帰宅であった。両地区は金比羅噴火群から1Km余りしか離れていなく、噴石と火災サージの危険性があり、いっさいの入所を厳しく制限される地域にあたる(図7)。

今回の有珠山噴火に際しては,幸いなことに現在1名の負傷者も出ていない.予知連の見解から大規模な噴火の危険性は低くなってきている一方,避難している住民の一時帰宅が,人数,範囲とも拡大してきており,もし噴火が一時帰宅中に起きれば,被災者が出る危険性は高まる.一時帰宅の判断は現地の市町村長により下されるもので,決して現地災害対策本部の総意ではない. 過去の火山噴火関して,1991年6月3日に雲仙普賢岳噴火活動を取材しようと危険地域に入っていたマスコミ関係者や,警備にあたっていた消防団員,警察官,火山学者などが,大規模な火砕流に巻き込まれ,多数の犠牲者を出した事例がある.
今回の有珠山噴火に対して札幌医科大学医学部救急集中治療部は,重症熱傷患者・多発外傷患者多数発生の場合の道内および道外への搬送体制におけるトリアージに関わる活動を,国立病院東京災害医療センターの辺見 弘副院長,厚生省の浅沼一成課長補佐,北海道庁などとともに構築して来た.しかし道外の民間空港への自衛隊機の着陸(特に近畿地区は問題があり)解決には時間がかかるようである。そのため取り敢えず、北海道内で収まるシステム構築が前提で、引き続き全国展開を視野にいれたシステムを考えるという事になった。その後、5月2日に「有珠山噴火による多数負傷者発生時の救急医療(トリアージ)にかかる情報伝達」の机上訓練(消防,伊達日本赤十字病院,札医大救急集中治療部,日綱記念病院)が実施された。その他,災害の長期化にともなう,PTSDに対する北海道保健医療救護センターによる「心のケア」班の活動,また「歯科保健班」の活動が見られた.

おわりに
1日のみの調査であったが,今後とも引き続き調査を継続していきたい.全体的に有珠山噴火は鎮静の方向にあるが,火山近くの洞爺湖温泉地区など,避難指示が引き続く地区が現実にあり,全ての住民の方々が元どうりの生活にもどるにはまだしばらく時間がかかりそうである.現地対策のモットウ「ひとりの負傷者も出さない」はきわめて印象的であり,事実健康被害は皆無であった.(浅井記)               

日本集団災害医学会                     

有珠山噴火関連災害医療計画に関する特別委員会委員

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