「有珠山噴火関連災害医療計画に関する特別委員会」第3報

 

平成12年8月15日

委員長:浅井康文
委 員:太田宗夫,金子正光,山本保博,辺見弘,高橋章子,荒井他嘉司,丹野克俊

はじめに
 平成12年3月31日の有珠山噴火から4カ月が過ぎた.火口では水蒸気爆発が繰り返されているが,活動は終息に向かっている.一時は三自治体の1万5千人以上に及んだ避難指示は,虻田町の火口周辺を除いて解除された.有珠山噴火・現地対策本部が8月11日に閉鎖したので,現在の状況を報告する.

 伊達市に置かれていた政府の有珠山噴火現地対策本部は8月11日,最後の合同会議を開き,現地対策本部を閉鎖した.蓮見進国土総括政務次官が「火山活動が終息に向かい,政府の調整事務は終了した状況にあり,8月11日をもって解散したい」と述べ,出席者も同意した.噴火した3月31日に設置され134日目である.今後は,北海道が防災担当職員を伊達市内に常駐させて,地元自治体の復興支援に当たる.蓮見進国土総括政務次官は今後も再噴火などに備え,当面は自衛隊や消防隊の現地への緊急参集態勢は維持することを明らかにした.蓮見本部長は「一人の死亡者も出さずに対応出来たことは地元や各省庁が一体となって協力した結果.今後は東京の本部と地元の連絡を密にして,復旧・復興対策に最善を尽くしたい」と挨拶した.
堀達也北海道知事もテレビ回線で参加した.被災地となった伊達,虻田,壮瞥の一市二町の首長も出席し.壮瞥町の山中町長は「観光安全」や独自の固定資産税減免条例の制定など,地元からの積極的な動きをアピールした.
 有珠山の火山活動については,既に火山噴火予知連有珠山部会が「地殻変動などはほぼ停止した」として活動が終息に向かっている事を発表している.現地対策本部は3月31日に伊達市役所に設置され,ピークの4月下旬には厚生省,自衛隊,国土庁,気象庁など関係32機関,約280人が観測・監視や住民の避難誘導,仮設住宅の供給などの業務に従事していた.まさに4月下旬は,すべての関係者が災害対策ということで,ハイパーな状態で一丸となって仕事をした事が思い出される.
 再噴火の予兆が見られるなど緊急時の再参集態勢については,自衛隊,警察,消防などの実働部隊計2700人規模が,3時間以内に伊達市役所に隣接する伊達市体育館に集まることができる態勢を維持することが確認された.会議後,虻田町の長崎良夫町長は国の現地本部の閉鎖について「一つの区切りに過ぎない.今後の復興に向けての協力に期待している.これで国が後退したということではないと思う」と話した.しかし,虻田町では洞爺湖温泉町の除灰作業や火山周辺の住民の移転問題など懸案は山積しており,住民の不安と不満は大きい.いまだに伊達市内の仮設住宅暮らしが続いている人も多い.

 

追記

  1.  8月1日の北海道のまとめによる有珠山噴火による周辺四市町村の被害が,7月20日現在で計59億6100万円と発表された.被害調査の対象は伊達市と胆振支庁虻田,壮瞥の両町,洞爺湖の四自治体.ただ,住宅被害は現在調査中で今回は含まれておらず,被害総額は今後,さらに増えるものと思われる.北海道によると,被害額の大半を占めたには土木被害.河川や道路,砂防設備,漁港など計53ケ所が被害を受け,その工事費は計34億8790万円にのぼった.続いて下水道被害の計11億4760万円(被害個所38個所)だった.まだ調査中の住家被害では全壊や半壊,一部破損が計250棟にのぼる.このうち全壊は老人ホーム二棟を含む27棟,半壊は141棟である.
  2.  有珠山の防災対策を所管する北海道は8月8日までに,有珠山周辺を,次回の噴火で火砕流などに見舞われる危険性などに応じて区分けし,危険度の極めて高い地域は住民に移転などを求める案を,伊達市と虻田町,壮瞥町に示した.すなわち,有珠山周辺を危険性の高い順にAからDゾーンに分ける案.Aゾーンの定義は,火山周辺にあり今後も立ち入りが困難か,今回の噴火で泥流・噴石の被害が大きかったり,将来被害の恐れが大きい区域.洞爺湖温泉町が相当し,住民の15%にあたる202世帯,378人がこれに該当する.Bゾーンは,地元一市二町などが火山学者の協力で1995年に作成した「火山防災マップ」で火口が開く可能性があるとされる区域のうち,今回の噴火で噴石が届いた区域.同じく山麓噴火の可能性がある区域のうちA,B以外をCゾーンとする.さらに,Cゾーンの外側にあり,過去の噴火の被害が比較的軽かった地域をDゾーンとしている.それぞれの用途は,Aゾーンは砂防ダムなどの防災施設を作るほか,観光・学習用に災害跡を保存する区域,Bゾーンは広場や公園を造り,商業地域を残す地域,Cゾーンは公共施設や温泉ホテルなどの観光施設を残す区域で,Dゾーンは住宅や学校,病院などを配する居住区と位置づけた.Aゾーンでの居住は不可能とし,B,Cゾーンからも徐々に住宅をDゾーンに移すべきとしている.北海道は8月下旬,地元一市二町の防災担当と会議を開いて,地元の意向を聞く考えである.区分け後の土地の用途について,法的な制限が可能かどうかや,用途制限で不利益を被る地権者への保証策なども検討する方針である.
  3.  札幌医科大学医学部附属病院の対応
    4月1日より6月18日まで,一般医療救護班として活動した(表1)
  4.  札幌医科大学医学部救急集中治療部の対応
    4月1日よりの札幌医科大学の第1班医療救護班に加わり,4月5日からは大災害発生時のトリアージ対策の検討,対応等で,伊達市に常駐し,5月15日より7月3日まで避難指示地域内への短時間帰宅実施に伴う対応のため,伊達市に赴いた(表2).

最後に

 3月31日の有珠山噴火も,8月11日で134日ぶりに伊達市の災害対策本部は閉鎖された.雲仙普賢岳の火災流などのような二次災害が起こらないように願い,まだ避難しておられる住民に方の支援が継続されることを祈りたい.また今回構築した,「多数重症患者・熱傷患者発生時の広域搬送体制」が,いつでもとれるようにしなければならない.
 札幌医科大学医学部附属病院は,北海道の災害基幹病院で,他に22個所の災害拠点病院が指定されている.しかし実態は可動しておらず,この度やっと10月20日に北海道,札幌医科大学,北海道医師会の共催で,第1回北海道災害拠点病院連絡会議(仮称)が札幌で開催される予定となっている.
              

 


表1 札幌医科大学の有珠山噴火に伴う対応
 (平成12年了月4日現在:最終)
一般医療救譲班の活動状況の実績

1.派遣者数

医師

看護婦

薬剤師

事務局

適 用

207名

218名

6名

79名

510名

廷39班で79日間派遣

2.受診者数

うち入院措置数

1日平均

受診者数

820人

1,165人

1,985人

6人

1人

7人

25人

3.延べ常駐・巡回避難所数

常駐避難所数

巡回避難所数

備    考

(豊浦町A)

豊浦町

長万部町

虻田町

(長万部町)

最高9箇所担当


表2 専門家チームヘの医師派遣状況の実績

(救急集中治療部)

派遣期間

派遣者数

目  的

4.5〜5.9

廷ベ 44人

大規模災害発生時のトリアージ対策
の検討、対応等


派遣期間

派遣者数

目   的

5.15〜7.3

延べ 50人

避難指示地域内への短時間帰宅実施に伴う対応

 

日本集団災害医学会                     

有珠山噴火関連災害医療計画に関する特別委員会委員

 

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