日本集団災害医療研究会会誌 第3巻 第2号 要旨集
JADM abstract Vol.3 No.2 in english
東浦 洋
小川 弘子 豊岡 武士 伊藤 重雄
金田 正樹
塩崎 隆博 , 畑田 淳一
山田 憲彦 , 箱崎 幸也 , 桑原 紀之 , 辺見 弘
滝口 雅博
鵜飼 卓 , 青木 重憲
東浦 洋
国際赤十字・赤新月社連盟アジア・太平洋部長
和文要旨 なし
キーワード:国際赤十字、ジュネーブ条約と追加議定書、ピラミッド・アプローチ、緊急対策ユニット、行動規範
小川 弘子 豊岡 武士 伊藤 重雄
静岡県緊急防災支援室
要旨 1995年の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ静岡県は地震防災対策の見直しを行い,1996年4月1日,静岡県緊急防災支援室を設置した。
この組織は,大規模地震等の発災時,県下9カ所に設置される災害対策支部に室員を派遣し,支部長を補佐して,被害情報の収集・伝達と必要な災害応急対策の連絡調整等を行う。室員は,災害応急対策等を迅速かつ的確に行うために必要とされる専門的知識を持つ県,および市町村やライフライン事業者等の職員により構成している。
平常時には,緊急時の初動態勢に必要な防災知識の研鑽と通信機器等の取り扱い訓練,図上訓練の推進等による支部と市町村との様々な連携体制の確立や,防災体制の点検・充実のための支援,ライフラインの地震防災対策の強化推進等の業務を行っている。
キーワード:阪神淡路大震災、災害教育、緊急防災支援室(SPECT)、初動態勢
金田 正樹
聖マリアンナ医科大東横病院整形外科
要旨 1997年度までに修正した各自治体の地域防災計画における災害医療計画の内容について検討したが,それは決して満足するものではなかった。災害時の医療救護計画のプライオリティーが明確でなかったり,医療の指揮命令系統,情報伝達体制などが今だ確立していない自治体が多くみられた。地域防災計画の今後の課題としては医療関係者への災害医療の教育,研修そして訓練にあると思われる
キーワード:地域防災計画、災害医療計画、指揮命令、災害医療研修
4.災害時の洋上からの患者後送について
―病院船,準病院船,海上自衛隊の現状―
塩崎 隆博* 畑田 淳一**
* 海上自衛隊医官 , ** 防衛庁海上幕僚監部主席衛生官付医務衛生官
要旨 阪神淡路大震災では,陸路からの救援活動が困難を極め,海路からの救援が有効であった1)2)7)8)。そのため,災害に対する支援のあり方をめぐり,災害救助船の必要性が議論されるようになった2)。病院機能が中心である専用病院船は世界に現在8隻あるが,コストパフォーマンスを考えると,他の目的の艦船に病院機能を付加した準病院船の方が有効であり,多くの国で保有している(Table 3)。災害救助船が具備すべき要件としては,@高次医療機能を有する,Aヘリ,上陸艇等の搬送手段を有する,B通信機能を有するなどがあげられる。現在海上自衛隊の艦船でこれらの要件を満たしている艦船は“補給艦とわだ型”3隻と輸送艦“おおすみ”であり,地方自治体の防災訓練にも参加している。さらに平成10年3月就役した輸送艦“おおすみ”は,医療機能,搬送手段いずれも補給艦を上回っており,今後は本艦による災害医療のあり方について検討していく必要がある。
キーワード:病院船、準病院船(病院機能併設船)、拡大医務室併設船、輸送船おおすみ
山田 憲彦*1 箱崎 幸也*2 桑原 紀之*2 辺見 弘*3
*1 防衛庁 航空幕僚監部 、*2 自衛隊中央病院 、*3 国立病院東京災害病院
要旨 一地域の医療提供能力は,地震等による患者の急増に対応できない場合がある。地域内で対応できない重症患者に対処するシステムが必要である。医療提供能力は,病態や必要な処置によって早々に飽和され得る(例;重症熱傷)。従って,重症患者多発事態には,全国の高度医療施設を利用するシステム(全国ネット広域搬送)が必要である。重症患者の搬送は,時間的猶予が限定されるので,固定翼航空機等による迅速な搬送及び適確な情報管理が必要である。わが国の防災体制には,全国ネット広域搬送の実施に必要な,ステージング,搬送中の医療監視,厳格な情報管理,融通性に富む災害支援体制等に不備がある。本システムは,多機関共同のシステムで,危機管理体制の向上と不可分の関係がある。今後は全国ネット広域搬送の必要性の啓蒙を行うと同時に,段階的な整備を推進するのが我が国においては現実的である。実施に際しては,患者のニーズと受け入れ地域の実情に配慮すべきである。
キーワード:重症患者、ステージング、機器管理、広域搬送
滝口 雅博
弘前大学医学部附属病院救急部
要旨 北海道南西沖地震による奥尻島の津波災害の場合は,負傷者が比較的順調にヘリコプターを用いて札幌市や函館市に搬送された。一方,阪神・淡路大震災においては,震災後ヘリコプターで後方病院に搬送された患者数が少なく,かつ,災害直後の使用が少なかったことから,災害時のヘリコプターによる患者搬送体制の必要性が大きく取り上げられた。災害時のヘリコプターによる患者搬送の成否は,通常患者搬送手段としてヘリコプターが使用されているか否かに大きく左右されるものと考えられるが,災害時に患者搬送に使用可能なヘリポートの存在の有無も大きな要因の一つに挙げられる。阪神・淡路大震災後に患者を後方に送ったヘリポートのうち,1カ所から10人以上の患者を送りだしたヘリポートは,使用されたヘリポート29カ所のうち6カ所で,そこからヘリコプターで後方に搬送された214名中の177名(82.7%)の患者が送り出されていた。そして1カ所のヘリポートを近くの1,2カ所の病院が使用したに過ぎない。この事実は,市街地で発生した災害時にヘリコプターで患者搬送を行うためには,患者が多く収容される病院の直近にヘリポートが存在するのが望ましいことを示唆する。今後は病院直近に患者搬送のためのヘリポートを設置することを真剣に考えることが必要であると思われる。
キーワード:ヘリポート設置、救急ヘリコプター搬送、阪神淡路大震災、大都市災害
鵜飼 卓* , 青木 重憲**
*兵庫県立西宮病院 **大和徳洲会病院
要旨 この演習課題は,1997年7月ハワイ大学で行われたHELP'97(Health Emergencies in Large Populations)という国際赤十字委員会とハワイ大学共済のセミナーで使用されたテキストの一部を翻訳したものである。このセミナーは難民や国内被災民,自然災害による被災民など,急に多数の避難民が生じた時の保健衛生や人道援助活動を行おうとする医療人のための3週間におよぶセミナーで,本邦ではこのような教育の機会に接することは皆無である。本稿はそのセミナーのごく一部のテキストの「地域紛争からの市民の保護と援助−デルタ国サキリ/アブシャの事例−」を国際赤十字委員会ピエル・ペラン博士とハワイ大学フレデリック・バークル博士の許可をいただいて翻訳したものである。人種間紛争に基づく急激な人々の移動とそれに伴う地域保健衛生サービスへの負荷,食糧不足と栄養失調,それらに起因する社会的混乱を軽減し,効果的な人道援助を行うにはどのような情報とどんな資源が必要か,読者諸賢は,このセミナーに参加しているつもりで,設問にまで来たら先を読み進まずにじっくりとご自分の考えをまとめ,ご自分なりの答えをメモに書き留めてから次を読んでいただきたい。
キーワード:紛争被災民、緊急援助、迅速評価、救援目標、食料配給