第5回日本集団災害医学会 一般演題25-56

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抄録(
一般演題1-24,25-56),シンポジウム,パネルディスカッション,緊急報告(臨界事故),特別講演


25. 医師を対象にしたトリアージ訓練とその評価

久留米大学救急医学

加来信雄

 

阪神・淡路大震災後、全国各地で災害危機管理の見直しと救護訓練が盛んに行われている。この災害時の救護訓練は、航空機事故やビル火災などの災害現場を模擬化したり、模擬負傷者に仮装を凝らして臨場感を高めたものが多い。

福岡県においても、平成8年から大規模災害を想定した救護訓練を計画した。この訓練は、災害の初動対応は医師によるものとし、トリアージの客観的評価と反復訓練の効果が得られることを目的とした。この救護訓練モデルを用いて、平成8年から4年間にわたって福岡県下の4ブロックを北九州、筑後、福岡、筑豊地区の順に回り訓練を行った。

1. 資料と方法

(1) モデル症例:種々の臨床症状、バイタルサインからなる30症例を統一資料とした。なお、重症度の割り付けは、赤タッグ11例、黄タッグ9例、緑タッグ6例、黒タッグ4例である。負傷者モデルには、市民ボランティアおよび看護学校学生になってもらった。

(2) 方法:トリアージを始める前に、トリアージの持つ意義、内容、手法などを小講義しておき、机上でプレテストをした後に、実地訓練を3回行った。

2. 結果:年別のトリアージ結果は次のようである。

(1) 年別トリアージの正解率(2)年別トリアージの赤タッグの誤答率

 

3. 考察および結論

本研究は統一モデル症例を用い、1年毎に福岡県下の4ブロックを回り、同一手法で行ったものである。阪神・淡路大震災から5年が経ち、災害認識の劣化が伝えられているが、randermized の地域設定で、年毎に正解率が上昇していることから、認識度はむしろ高まっているといえる。トリアージ訓練で回数を重ねることによって正解率は上昇し、赤タッグの誤答率が低下していることから、習熟度からみると3回程度の反復訓練が必要である。医師によるトリアージの総合評価として、正解率は74.7%であった。

 

 


26. 「アクションカード」を用いた緊急医療体制作り

麻生飯塚病院

山畑 佳篤,篠田 朋子,鮎川 勝彦

 

1)緒言 災害時、もしくは大規模事故発生時には一時に多数の患者が医療機関を受診するため、平常の診療体制では対応することが難しく、人員と病院機能の効率的な運用が求められる。この目的のためさまざまなマニュアル作りが行われているが、われわれは現場コントロールの新しい手段として「アクションカード」を作成した。

2)方法 まず基本案として、院外発生の災害で病院機能が正常に使える、という設定で計画した。トリアージエリア、重症エリア、中等症エリア、軽症エリアを設定し、必要な人員配置を策定した。各エリアの各役割ごとに、その役割と職務内容(=アクション)が分かるように記載された「アクションカード」を作成し、緊急招集により集まった人々がどの部署に配置されても、カードの配布により効率的に行動でき、計画全体が運営できるようにした。この『アクションカード』を用いて机上シュミレーションを行い評価した。

3)結果 シュミレーションの参加者には事前に内容については情報を与えなかったが、全体として人員の適切な配置と効率的な運営は達成できた。シュミレーション後には参加者から新たなカードの設定が提起されたり、カードの内容についての意見が活発に出された。

4)考察 「アクションカード」を用いた緊急医療体制のメリットは

 -緊急時に各スタッフが自分の職務と目的を的確に把握し働くことができる

 -事前訓練に参加していない人員でも、スムーズにスタッフとして組み入れられる

 -限られた人的資源、医療資源を重複することなく効率的に運用することができる

点である。当初、カードには各役割の職務内容のみを記載したが、シュミレーション参加者からは全体計画の中での自分の役割が理解できたほうが効率的に働ける、との意見が多くあり、各カードに全体の人員配置図を添付することとした。

このように意見のフィードパックが容易である点、またシュミレーションを通じて災害時計画の院内への浸透ができ、各参加者に計画作成への参加意識が形成される点などのメリットも認識された。

5)結論 「アクションカード」は内容が具体的であり、作成過程で院内への浸透も図れるため、緊急医療体制作りに有用であると考えられる。

 

 


27. 災害救護実習におけるトリアージ机上シュミレーションの試み

日本赤十字武蔵野短期大学 小原真理子                  

ノルメカエイシア     中野 京子

 

はじめに

赤十字は基本理念である人道に基き、国内・国外で災害救護活動することが大きな使命となっている。本学では、カリキュラム改訂に伴い、広く災害救護活動の面から災害看護の役割を理解させる為に、2年次の必修授業科目として災害救護論(60時間、2単位)を設置し、更に3年次は災害救護実習(35時間、0.5 単位)を導入した。本実習は、災害救護活動に必要な基本的知識・技術・心構えを育成することを目的に、1)災害医療用キットやスライドを用いたトリアージ机上シュミレーション、2)テント設営、担架、応用救急法等の救護技術の練習、3)模擬患者を用いたトリアージの実演、4)総合演習 の4つから構成した。段階的な実習を通して、学生が救護技術のみならず、救護活動する上での判断や意思決定等について学ぶことを期待している。今回は、災害医療用シュミレーションキットと負傷者のスライドを用いて、学生のレベルに合う様に状況設定した上で、実施したトリアージ机上シュミレーションの教育効果を検証する。

 

研究方法

1)研究対象、及び研究期間:今年度4-11月に実習した本学の3年生87名。  1グループ18名、1日7時間の5日間(35時間)実習した。

2)トリアージ机上シュミレーションの方法                 

a.実習1日目の午後、3時間で実施した。               

 b.導入として、学習目標と災害現場の状況設定を説明した。

 c.マグネット式の災害医療用シュミレーションキットを用い、災害現場と救護活動チームの全体像をボードに示し、学生の興味を図った。

 d.負傷者のスライドと手元の資料で制限時間内にトリアージを実施した。 

 e.トリアージの結果とその理由について発表した。

3)トリアージの正解率、実習終了後アンケート結果について、今年度6月、国際看護交流協会の災害看護研修で同様な内容を受講した現任看護婦34名の結果と比較する。 

4)実習自己評価表により到達度を把握する。

 

結果

結果については、当日報告する。

 

考察

トリアージ机上シュミレーションの教育効果、及び机上シュミレーションがトリアージの実演や総合演習に波及効果があることが確認できた。

 

 


28. 災害救護活動時における看護婦各自の役割認識と行動分析

横須賀共済病院 看護部  

近藤 美知子 玉谷 あき子

 

【目的】

 今回、広域災害による大量負傷者受入れを想定した救護活動場面において、担当部署別での看護婦各自の役割認識と行動について検討した。その結果、現状の問題と今後の課題を明確にすることができたので報告する。

【方法】

 災害想定は、平日の16時45分に発生した横須賀市を震源とする震度7の直下型地震M7.2で、市内の人的被害の発生に伴い外来模擬患者は、災害現場30名、周辺住民20名とした。訓練内容は、殺到する負傷者の誘導から治療までの経過を各役割担当別に受入れと管理について各自の判断で行動することとした。調査対象は、重症・中等症・軽症の各治療班、仮設病棟班、搬送班に配置された看護婦24名で、訓練終了後、自覚した役割担当毎にリーダー・メンバー・その他と3種類に区分しアンケート調査を施行した。その内容は、1.必要物品の準備と確認2.事前の打合せ3.診療前のトリアージ4.診療補助業務の遂行5.指示系統6.報告・連絡7.チーム間の連携の7項目から役割認識と行動内容を分析した。

【結論】

各自の役割認識では、リーダーが2名、メンバーが14名、特に意識しなかったその他は8名であった。役割認識別の行動では、リーダーは事前の打合せ、メンバーへの指示と報告・連絡を意識した行動がみられたが、最初から役割を意識して行動していないことを自ら指摘していた。メンバーは、事前の打合せとリーダーへの報告・連絡はいずれも最低値を示していたが、診療前のトリアージと診療補助業務の遂行を意識した行動がみられた。役割遂行上の問題として、行動が解らないことやリーダーが誰か不明であること等指摘していた。その他は事前の打合せはほとんどなく、全体に低値を示していた。役割遂行上の問題として、行動が解らないことやリーダーが誰か不明であること、チーム間の協力不足を指摘していた。

広域災害では、災害現場や病院周辺の住民など多数の負傷者の殺到が予測される。その中で、重症度の選別をしながら、適切な誘導から治療まで迅速に行動することが求められる。今回、リーダーとしての役割認識とリーダーシップの不足から、チーム間の連携と各自の役割発揮不足に大きく影響していることが明確になった。平時より、キャリアに基づいた役割期待に対する自覚を促すための動機づけが必要である。今後の課題は、院内継続教育の一環として災害看護教育の確立を検討していく必要がある。

 

 


29.  災害訓練の新しい試み

国立病院東京災害医療センター

井上潤一,辺見 弘,大友康裕,本間正人,徳永尊彦,加藤 宏,松島俊介,

友保洋三,荒井他嘉司

 

【はじめに】当センターは,日本の災害医療の基幹病院として災害拠点病院及び国立病院のスタッフに対して年に計4回の災害医療従事者研修会を行うとともに,毎年1月と9月に院内災害訓練を実施し,全職員に対するトレーニングを行っている。1月の訓練は主に当センター職員を対象とした訓練であるのに対し,9月の訓練は他国立病院からの応援医療チームをまじえ地震災害を想定した訓練を行っている。

 昨年9月に行った訓練では,過去の訓練の問題点を見直し,発災直後の初動訓練に重点をおき,訓練のための準備を全く行わない状態で,各部門が短時間に立ち上げられることを目標とした。また模擬患者についても,より現実的にすべく工夫を加えて行った。今回,この訓練の概要について報告し,今後の災害対策のあり方について考察する。

【目的と方法】今までの訓練の問題点は 1.前日設営であった(災害時に予め設営されていることはない) 2.新設病棟に入院させていた(発災後新設病棟を開く余裕なし) 3.情報の混乱をきたしていた。そこで今回の訓練では 1.新設部門の立ち上げ

@当日設営を短時間で行うA人員の参集,配置を円滑に行う 2.既存病棟内で増床・患者受け入れを行う─各病棟10床の増床(合計90床)と患者受け入れ 3.院内情報を正確かつ迅速に伝達する @情報センターを開設し,情報の集中を図る A人員登録・配置調整 B新規入院患者・退院患者の把握。  以上を目標とした。

 模擬患者については,多人数にメイキャップを施すことは不可能であり,もともと健常者であるので,バイタルサイン測定は意味がないため,自分の状態や症状を演技するとともに,中等症以上の各患者にチェッカー役の医師を付け,訓練参加者側がとったバイタルサイン,行った検査に対してこのチェッカーが結果を答え,次の判断を訓練参加者に促す形で,最終的に手術や病棟入院までの治療一式が終了するまで行った。

【結果・考察】初動4部門(トリアージセンター・救護所・中等症処置待機室・重症処置所)の立ち上げは,ほぼ問題なく行うことができた。その要因として,人員の参集場所を事前に徹底することで,短時間にマンパワーの集約と再配置が行えたこと,必要な資器材を平時からその部門が開設される場所の近くに保管することで資器材の調達・配備が短時間でできたことが上げられる。また情報センターを設置することで,生命線となる各種情報を一元的に把握することができ,院内活動に非常に有効であった。ただし情報センターを運営するには,かなりのマンパワーが要ることも判明し,今後はいかに少人数で情報センターを運営できるかがポイントとなる。模擬患者/チェッカー法については,従来訓練参加に消極的であった医師にも役割を付与することで,訓練への参加意識を高めることができた。

 

 


30.  99年11月の武蔵野赤十字病院における災害救護訓練について

武蔵野赤十字病院

栗栖 茜、長谷川裕一、小山田恒子、斉藤恭子、小峰健二、原田 進、高桑大介

 

平成11年11月27日、多摩地域を震源とする大規模地震を想定して当院および日 本赤十字社東京都支部との合同災害救護訓練を参加人員1200名規模でおこなった。

    

●今回の訓練の特色

 *問題点を浮き彫りにでき、発災時に役に立つ訓練
 *本部、トリアージ班、軽症班、重症班、病棟班、緊急点検班など平時から定めてある組織の活動の検証
 *各組織は訓練開始直後にプロブレムリストを開封し、はじめて状況を知る
 *患者役のメイクアップと迫真の演技
 *ヘリコプター3機による後方搬送訓練
 *遺体安置所における遺族への対応訓練、遺体の検案訓練の初めての実施

●訓練の問題点、成果

 *情報の伝達の混乱
 *殺到する外部からのけが人による大混乱(とりわけ軽症班、重症班)
 *他機関との有機的な連携の不足
 *発災時に近い状況を体験できた
 *情報をすべて本部に集中すると、混乱に輪をかける。担当部署において問題 解決を図りうる組織を今後つくりあげていく必要がある。 

今回の訓練で大震災発災時に実際に役に立つ訓練のプロトタイプをつくること ができた。

 

 


31. 大規模災害救護訓練における被災地内病院からのヘリ後送の実施

武蔵野赤十字病院救命救急センター

 須崎紳一郎、勝見 敦、志賀尚子、諸江雄太、中村 敏、廣瀬敦視

同 防災委員会

栗栖 茜、高桑大介

 

大災害時には重症傷病者は、少なくとも発災日内に被災域外へevacuationする必要がある。災害医の間では異存なく認識されているこの緊急ヘリ後送の必要性も、しかし我が国の防災対策全体を見渡せば、強調されるどころか今もって等閑視されているとしか思われず、阪神大震災で払った多大な犠牲に対して慚愧に堪えない。今回我々は当病院にて実施した大規模災害救護訓練に於いて、実際に屋上から3機のヘリコプターを動員した重症者ヘリ搬送を訓練の柱の一つとして実施したので報告したい。

当院は災害拠点病院・東京都災害時後方医療施設であり再整備された耐震構造病棟屋上緊急離発着場(9階相当、直通エレベーター3基、床面耐荷重8.5t)を有し、日常の救急搬送に供している。病院屋上は他者が侵入せず管理が容易で移送救急車の介在が不要であるが、一方で搬入出にはエレベーターを用いるため、地震発災直後における使用想定は安直とも懸念されたので、さらに「エレベーターは使用不能になった」との状況想定を置いて、階段による1階から屋上まで模擬患者担送訓練も加えた。

想定発災8時間後(Phase1)の訓練中、救急車による陸上移送を図りつつ、更に「診療能力を上回る傷病者の来院に対して地上搬送も困難で追い付かない」と判断。午前10時、東京消防庁、救急ヘリ病院ネットワークに対して災害域外医療施設への重症者ヘリ搬送を要請、屋上とエレベーターが使用可能であることを確認して待機した。

午前10時50分より20分間隔に調整し計3機の搬送を計画。1番機として厚生省ドクターヘリ試験事業ヘリが試験配備中の東海大学(神奈川県伊勢原市)より医師2名、看護婦1名とともにMD 902機で、ついで東京消防庁より多摩航空センター(東京都立川市)から救急救命士を同乗させてAS365N2機で、最後に救急ヘリ病院ネットワーク(朝日航洋)AS355F2機が東京ヘリポート(東京都江東区)より相次いで飛来着陸、各機に模擬重症患者1名および後2者については院内救急部医師1名を添乗させ搬出した。

この時点で、救急車での搬出が滞ったために訓練重症者診療域は大混乱していたが、他方ヘリ搬送はいずれも障害なく、ヘリ着陸から収容・離陸までは約3分と迅速かつ円滑に実施された。飛来間隔20分で余裕は十分であり、交錯の恐れはなかった。

3例目において行われた非常階段による担送も、軽量ストレッチャーを用いることにより可能で、医師ら4人による階段担送所要時間は6分半であった。

 

 


32. 病院における災害訓練の評価

日本医科大学救急医学教室

島田靖 近藤久禎  犬塚祥   益子邦洋

小井土雄一 二宮宣文  山本保博

 

日本医科大学千葉北総病院では開院以来毎年災害訓練を実施している。平成9年院内に災害対策事務局を設置、その活動の一環として平成10年より災害訓練の見直しを行ってきた。従来の訓練ではシナリオの設定、事後評価の方法、効果に疑問が持たれており、平成10年災害訓練より災害対策事務局の主導による訓練を実施、平成11年にはその反省の下改善点を加え施行された。病院災害訓練の評価、発展方法につき考察した。

地震による集団災害患者受入れを想定した災害訓練を実施した。平成10年より以下の点で新しい試みを行った。1. 職員、看護学生による模擬患者を設定し、救急隊による被災地でのトリアージ、来院時の医師によるトリアージを実施。病名を伏せることで臨場感を演出した。2. 災害カルテに各診療段階での時間経過を記載させた。3. 訓練参加者以外の災害医学に通じた審判員を設置、客観的評価を加えた。4. 参加者アンケートによる事後評価を加えた。

平成11年の訓練では、前年の反省点を踏まえ以下のような変更を行った。1.模擬患者の指導の徹底、メイク、演技をリアルにした。また、病態に応じたレントゲン写真などを用意、検査結果の受け渡しを現実に即したものとした。2.災害カルテの改良を加えた。診療の時間経過については模擬患者が記載することとした。

評価方法としては、トリアージの正確性、検査、診断、治療の妥当性、診療時間に重点をおき、全体の流れについては審判員、アンケートを基に評価、発展させた。訓練結果を見ると、記録の不備、無駄な検査、処置、診療時間が目立った。トリアージミスは15%、診療開始から治療方針決定までの所要時間は約15分であった。2年目においても大きな改善は無かった。

 記録の不備と医師の意識の低さが最大の問題点であると思われた。記録上、特に時間経過の漏れが訓練の評価上問題であった。一方、災害時診療への理解不足、訓練参加に対する意識の低さは医師において顕著に見られた。

実際の災害時の混乱においては訓練時と比して、診断、診療の正確性の低下、記録の不備増加が予想される。より現実的なシステムとカルテ等のハード、訓練における臨場感が必要であろう。今回、模擬患者を設定、メイク、演技を加えることで臨場感が得られ、2年に渡り同じ患者セットを使用し、データをより詳細にした。将来的にはまとまった数の患者セットをデータベース化して汎用性のある災害訓練用キットとすることができると思われる。こうしたフォーマットの利用により訓練の客観的評価が得られると思われる。

 

 


33. 災害訓練を有意義なものにする工夫

国立大阪病院 救命救急センター1)、同 院長2)、同 看護部長3)、同 付属看護学校4)
兵庫県立西宮病院 院長5)

植田俊夫1)、井上通敏2)、林 享1)、内藤正子3)、高橋佐智子4)、鵜飼 卓5)

 

【目的】災害訓練を有意義なものにする工夫の意義を検証すること。【対象】国立大阪病院で1999年11月6日(土曜日)実施の災害訓練を対象とした。実施した工夫:1.災害対応経験がなくとも実行できるSTART式トリアージ手技を採用。2.訓練前に主要診療科医局会、救命センタナース勉強会等でSTART式トリアージ手技と区分誤診が起こり得るクラッシュ症候群の小講義を実施。3.看護部を中心に参加者に既存災害対応マニュアル熟読を勧告。4.看護学生を除く参加職員全員により、訓練直前に訓練災害想定と同様想定で机上シュミレーションを実施。司会者の鵜飼が、土曜日当直と同じ職種・人数構成で選抜された二チームに逐次質門し、参加者は聴講。5.訓練シナリオは少数の関係者にだけ配付し、大半には当日に災害想定概要を説明。6.過去3年間は全参加者に事前に役割を知らせたが、シュミレーション当直職員一チーム16人に模擬当直者の役割を、参加者中の4人にトリアージ後収容ゾーン責任者の役割を事前に与えるに止めた。発災後4次に分かれ登院設定の参加者には、登院後に暫定災害対策本部から役割を付与。7.患者には模擬血液や特殊物品により外傷メークアップを施行。8.患者病状を書く看板方式は採用せず、トリアージ実施者が一定の動作をすれば、呼吸数・爪床色調復元秒数・意識状態を患者か付添家族が答えた。9.患者・家族・安否確認役学生には真剣に演技できるよう精神面の指導を実施。10.物品調達場所である外来は施錠しておいた。11.訓練終了直後に学生を含む参加者全員で反省会を行った。【方法】訓練終了後2週以内に実施したアンケート調査結果を評価した【結果】1.安全確保要員・準備スタッフ等約50人を含む職員200人弱、看護学生90人、総勢300人弱が参加した。2.アンケートは職員64枚(32%)、看謨学生90枚(100%)を回収。3.職員結果:訓練評価イ;有意義55(86%)・理由;問題点が把握できた28,患者役・情況設定がリアル22,災害対応必要性を自覚18,災害イメージが作れた12,実際的であると思った11、ロ;条件付き有意義2(3%)・理由;医師参加少ないl,その他1,ハ;有意義認めず0,ニ;その他4(6%),ホ;無回答3(5%).学生結果:釧練評価イ有意義76(84%)・理由問題点が把握できた65,災害対応必要性を自覚29,災害イメージが作れた27、患者役・情況設定がリアル17,実際的であると思った7,ロ;条件付き有意義7(8%)・理由;医師・ナース笑う者あり7,医師参力少ない2,ハ;有意義認めず0,ニ;その他3(3%),ホ;無回答2(2%).【結論】看板方式を採用せず、外傷メークアップや一定の精神的指導を実施した模擬患者・家族役がリアルな演技を行える情況を演出すれば、訓練全体が真剣なものとなる.同時に、病院側はSTART式リアージ手技を採用し、参加者全員の役割をあらかじめきめることなく、平時人員配置に近似した模擬当直体制下に既存災害対応マニュアル通りに行動すれば、参加者がマニュアル内容評価を含め災害対応時の問題点の把握や、災害対応の必要性を認識する機会を得ることができる。

 

 


34. 浜松市における広域災害訓練の現状と課題

県西部浜松医療セシター、浜松市医師会、浜松医大

内村正幸、吉野篤人、新村日出男、斎藤守、長嶋孝昌、仁科雅良

 

広域災害に対する救護活動は日頃の訓練が重要である.静岡県では1992年東海地震に対する被害想定に基尽く負傷者の救護体制マニュアルが作成され、これに従った救護訓練を実施してきた。一方、浜松市では1995年発生した、阪神.淡路大震災時の救護活動を参考として、従来の統一訓練に加え、医師会を中心とした、開業医、勤務医の合同救護訓練を実施してきた。その方法は、-市内応急救護所(市内43箇所)への出動訓練.-応急救護所の器材点検。3 トリアージ訓練.-救護所と救急病院の連携。-ヘリコプターによる重傷者の搬送訓練及び遠隔地からの応援救護訓練.(豊橋、静岡、飯田地区との連携訓練)-災害死者に対する検死訓練(浜松医大法医学と合同)等である.1998年度参加医師259名、歯科医師68名、薬剤師81名、看護婦l8名となっている.最も大きな課題は参加医師の確保と拡大であって例年異なる企画をする事にある。

 

 


35. 国立大学病院における院外派遣医療チームの導入

信州大学医学部附属病院救急部・集中治療部

奥寺 敬、寺田 克、黒田秀雄、笠間 進

 

【はじめに】救急医療体制基本問題検討会報告書(平成9年)において救急医療の個別課題として、大規模災害時のヘリコプターの有効活用のために、積極的にヘリコプターを活用した広域救急患者搬送体制の運用の必要性が指摘されている。また、災害拠点病院の指定要件として災害発生時における医療救護班の派遣、ヘリコプター搬送における同乗医師の派遣等が示されている。我々は、17年間に及ぶ松本広域ドクターカーの運用経験をもとに移植医療に係るヘリコプターを用いた長距離患者搬送への協力あどをを契機として、平成11年度より「信州大学医学部附属病院緊急派遣チーム」を導入した。

 

【経  緯】信州大学は、県内唯一の国立大学として高度先進医療を推進しつつ松本広域圏の第三次救急医療患者の収容を行っている。従って、大学附属病院よりの医師派遣は、従来より継続運用している松本広域ドクターカーシステムの搭乗医が主であった。本ドクターカーは平成6年の「松本サリン事件」においても医師を現地に派遣し、トリアージと患者搬送を行っている。一方、近年になり、移植医療目的の患者搬送が急増し、そのなかにヘリコプター搬送が含まれることより救急部として支援を行ってきたが、平成10年の我が国初の生体部分肺移植症例の岡山への緊急搬送を契機とし、関連機関との協議を進め体制整備を進めてきた。

 

【概  要】平成11年より、防災訓練や本学附属病院からの緊急患者搬送など医師の院外派遣を一元的に病院長指示により救急部で支援することとなりユニホームを作成した。本年すでに2回開催されている地域の防災訓練や心臓移植登録患者の状態悪化による緊急ヘリコプター搬送を本チームとして担当した。

 

【ま と め】国立大学の組織は、医師の院外派遣については従来より消極的であったが、学内の協力体制と独立行政法人化の検討など社会情勢の変化により医師の院外派遣の合意が形成された。今後の国立大学の方向性を考える上で重要なステップであると考える。

 

 


36.  防災ボランティアと医療班の連携に関する問題提起

    日本赤十字社東京都支部の防災訓練アンケートより

日本赤十字社医療センター   今井 家子

日本赤十字武蔵野短期大学   小原真理子

 

1. はじめに

 1989年に、アメリカのサンフランシスコで起きたロマプリータ地震の救護活動でのボランティアの活躍をきっかけに、日本でも防災ボランティアの必要性が議論され始めた。日本赤十字社(以下日赤とする)は1991年に答申を出し、その中で防災ボランティアの位置付け、研修・登録などが必要と提言している。その後防災ボランティアの研修が開始された。1997年に阪神・淡路大震災の経験と反省から新たに通知が出された。その中で災害時にはボランティアと一体になった活動ができるよう、日赤の職員へ防災ボランティア体制の周知と意識の醸成を図ることが不可欠と述べている。日赤東京都支部では災害時に活動する、救護ボランティアの研修・登録をすすめている。そして1998年の総合防災訓練では救護ボランティアと医療救護班が協働し救護活動をした。この訓練に連携の実体、連携に関する問題点を明らかにするために参与観察、アンケート調査を実施したのでその結果を報告する。

2. 方法:

1)参与観察:訓練中に、救護ボランティアと医療班が連携ができたか。実体を  参与観察した。

2)アンケート調査:訓練終了後、日赤東京都支部職員と共同で作成した質問用  紙を用い、救護ボランティア12名、医師・看護婦17名、主事(事務職・救護  班サポート要員 )45名に調査をした。

3)参加観察:訓練後の救護ボランティアの反省会に参加し、医療班との連携に  関する意見情報を得た。

3. 結果:参与観察ではボランティアへの業務分担を話し合う事もなく訓練を開始した。救護所内で救護ボランティアに任せてよい事も看護婦が実施していた。アンケート調査では医療班からはボランティアと連携がとれた、全くとれなかったと意見がまちまちだった。ボランティアからは医療班とのコミュニケーション不足という意見があった。反省会では医療班は救護ボランティアの使い方をわかっていない。だれに指示をもらえば良いのかわからなかった、等の意見があった。

考察:医療班が救護ボランティアの存在、能力や役割を理解していない。医療班とボランティアの連携が不十分。今後互いが理解し合える研修が必要。

 

 


37.  救命救急用プレフィルドシリンジの災害医療現場における有用性についての検討

―アンケート調査から―

日本医科大学 救急医学教室

小井土雄一、二宮宣文、近藤久禎、島田靖、山本保博

 

今回、われわれは救急用プレフィルドシリンジ製剤(以下PFS)の試作品を入手し、阪神・淡路大震災を経験した関西地区の救命救急センター、救急部等5施設の協力を得て、災害医療現場におけるPFSの有用性についてアンケート調査を行い、検討を加えたので報告する。

 

【方法】実際に震災時の救護経験を有する医師を中心に、災害の現場で使用頻度の高い薬剤を予めプラスチックシリンジに充填したPFSの操作方法を説明し、試用した後にアンケート調査を行った。アンケート調査は、被災時にPFSを使用することを想定し、アンプルを用いた現行法との比較検討を行った。

【結果及び考察】調査は5施設に依頼し、46名より回答を得た。その結果、PFSでは、細菌汚染・ガラス片や異物の混入の可能性、投薬準備の煩雑さ、けがの危険性がないこと、迅速性・携帯性に優れ、備蓄医薬品としての可能性がある、など災害の医療現場においてその有用性が期待されるシステムであることが明らかとなった。また、震災を経験した医師からは、震災時には、薬剤と針とシリンジの保管場所が離れていたため不便を生じた事、混乱状況のため資材等の所在を掴むのに時間を要した等の回答があり、薬剤とシリンジが一体化したPFSは、迅速に準備が可能であり、災害時に有効であると考えられた。一方、救急薬剤をセットで準備していた施設では、不便さを感じなかったとの回答もあり、セット化の必要性が示唆された。今回入手したPFSがプラスチック製であり、アンプル・バイアルに比べ破損しにくい点を考慮すると災害時の備蓄医薬品としても耐衝撃性に優れており有用性が高いことが示唆された。以上のことから、PFSは災害医療における不安や問題点を減少させるものであり、災害医療の現場において期待されるシステムであることが明らかとなった。今後、このような製品が広く浸透していくことが望まれる。

 

 


38. 熊本県公的病院会災害ネットワークにおける医療救護班研修会

熊本赤十字病院 宮田 昭、井 清司、本田久美子、松金秀暢

日本赤十字社熊本県支部 木下 修、島田真二、渡辺 完、宮本健二

 

熊本県では平成8年10月、県下の36公的病院が災害時に備えて救護班を編成し、熊本赤十字病院を基幹病院として互いに協力支援を行うとする協定を日本赤十字社熊本県支部との間に締結した(熊本県公的病院会災害ネットワーク)。この協定に基づき、平成10年9月に第1回の、本年11月に第2回の公的病院救護班研修会が各施設の医師・看護婦・主事(連絡調整員)から成る救護班約90名を集めて二日間にわたって行われた。研修は1日目を講義と討論、2日目を実技に分け、基礎的事項の習得を主な目的とした。研修会の内容については日本赤十字社の救護班要員研修会のカリキュラムとテキストを基にして、厚生省主催の災害医療従事者研修会とその資料も参考にした。

第1日:全体会で@災害とタイムスケールAトリアージB救護班の編成と管理運営についての講義を行い、ついで職種別の講習会とした。医師部会では@班長としての医師の役割A災害現場における諸問題B報告とメディア対応などについて、看護婦部会では@看護婦の役割A包帯法の基礎と実技など、主事部会では@医療機材の整備A情報収集B連絡調整などについて各職種の要員が日赤熊本県支部と赤十字病院の担当者から講習を受けた。その後再度全体で基礎的規律訓練、担架搬送訓練の実技訓練を行った。

第2日:参加者を3グループに分け、交代で救護班役・模擬患者役となりトリアージ訓練を行った。訓練は救護所の設営、トリアージゾーンの設定、傷病者のトリアージ、応急処置、搬送依頼、取り扱い患者の集計、災害対策本部への報告までを一連の流れとして体験してもらうように行った。最後にトリアージ訓練についての質疑応答を行った。

【結果】@救護班各職種が災害現場でのそれぞれの基本的役割を講習と実技で認識できた。A公的病院の災害時における社会的責任が自覚できた。B今後、災害時に重症患者が大量に発生した場合、本ネットワークを通じて県下の病院群で如何に分担収容すべきかのコンセンサスを作る必要がある。

 

 


39.  熊本県公的病院会災害ネットワークによる熊本県不知火町松合地区

における台風18号被害に対する災害救護活動

熊本赤十字病院 宮田 昭、西 玲子、高島和歌子、中川正行、松金秀暢

日本赤十字社熊本県支部 富田徹也

 

本年9月24日に九州に上陸し、日本列島を縦断した台風18号は全国に大きな損害をもたらしたが、とりわけ熊本県不知火町松合地区は高潮のため死者12名を出すなどの人的、物的被害を蒙った。これに対して熊本赤十字病院では、台風上陸当日より同地区に対する医療救護活動を開始し、さらに発災5日目からは熊本県下36公的病院で構成する公的病院会が同災害ネットワーク(平成10年から活動開始)による医療救護班を発動して救護活動にあたり、効果的な救護活動を展開できたので報告する。

【救護班の構成】 派遣された救護班は11班であり、医師14名、看護婦19名、薬剤師5名、主事(調整員)19名であった。救護班の構成は医師1名、看護婦2名、主事3名を基本に状況により変更を加えた。使用した装備は、救急車1または2台、医薬品等(日本赤十字社標準医療救護セットその他)、無線機、トランシーバーなどであった。

【結果】熊本赤十字病院より9月24日より10月3日まで救護班1班を連日派遣し、10月1日より3日までは災害ネットワーク救護班1班と合同で救護活動を行った。10月3日をもって活動を終了し地域医療機関にハンドオーバーした。取り扱い患者数は237名、その他患者移送1件、遺体収容1件であった。患者構成は典型的な局地型、急性型の自然災害の被災形式であり、発災直後は外傷が主体で、その後急速に内科的疾患が主になった。疾患では後片付け作業中のガラス切創、釘踏み、虫咬傷が多く、また不眠・高血圧症等心的外傷後の精神身体疾患を多く認めた。

【考察】@急性型の自然災害時は被災現場の情報入手が困難であり、現場の詳細な情報を待っていては救護班派遣のタイミングを失することが過去の経験より知られている。今回の災害では人的被害が発生している由の報道により救護班の派遣を決定し、1時間で出発、1時間45分で現場に到着し、迅速な救護活動を開始できた。 A公的病院会災害ネットワークの発動により被災地域の公的医療機関の救護班が派遣され、日赤救護班と連携した救護活動が展開でき、さらに地域医療機関へのスムーズなハンドオーバーが可能であった。 B今後は災害等に於ける特殊疾患、給食相互支援にも本ネットワークが拡大することが期待される。

 

 


40.  災害救助犬の活動について

日本レスキュー協会 大山直高、松崎 直人、松崎 正人

兵庫医科大学救急部 吉永和正

 

 日本レスキュー協会は1995年9月1日に阪神・淡路大震災を機に設立されました。以後、国内外を問わず災害地域への災害救助犬の派遣による支援・救助活動を行っておりま

す。平成7年10月ペルー中西部沖地震、平成8年11月ペルー、ナスカ地震、12月長野小谷村土石流、平成9年7月鹿児島県出水市土石流、平成10年1月三重県多度山土石流、9月高知県安芸郡馬路村土砂崩壊、平成11年6月広島県安佐北区土砂崩れ、8月トルコ大地震、10月台湾大地震、11月トルコ・ボルー大地震に出動し、生存者の発見及びご遺体の確認をしております。

 しかし、この期間の活動を通じていくつかの問題点が明かとなってきました。まず第1は、海外派遣における運送費用です。災害救助犬及び隊員の航空運賃は非常に高額です。

今回のトルコ・ボルー大地震の際には航空会社の支援がありましたが、これは例外で、通常航空運賃だけでかなりの費用が必要となります。日本レスキュー協会は、活動資金を全て街頭における募金活動・募金箱・賛助会員費の寄付金にてまかない、活動を続けております。しかしながら、高額な活動費用のため、派遣できる災害救助犬の頭数、隊員の数が限られております。より早く、より多くの災害救助犬を災害現場へ派遣するためには経済的基盤の強化が必要と考えています。

 第2は検疫の問題です。国内の狂犬病予防法によって、帰国後の犬の検疫に約2週間近くかかります。台湾、イギリス、オーストラリアなどの島国への派遣の際は検疫が有りませんが、その他の地域へ派遣する場合、帰国後の検疫が必要となります。災害救助犬の長期の拘束は派遣判断をするときの逡巡材料となる可能性があります。この点は今後の改善が望まれます。

 第3は、国内での救助活動における地方行政機関との連携の問題です。海外派遣時には、各国の安全・危機管理に対する対応の違いはあるものの、救助目的の為、入国手続きの簡素化など、レスキューチームに対する支援・連携の意志が感じられます。しかし残念ながら、国内での活動におきましては、連携が上手くできていないというのが現状です。一部の地方行政機関とは災害協定を結んでいますが、未だ十分とは言えません。国内での迅速な活動開始のためには自治体との連携の整備が今後の課題といえます。

 阪神・淡路大震災を経験し、また多くの災害現場を直接目で見て、支援の必要性を実感しております。被災地の方々の代弁者といたしまして、現地での様子・支援の必要性をご報告したいと思います。

 

 


41 災害時こころのケア・トレーニング・システム構築に向けての提案

京都大学 情報学研究科

三谷智子 林春男

 

 災害時に被災者の精神的、心の支えとなった人は、家族、親類、友人、近所の人であり、災害時のこころのケアは既存の人間関係に依存していると報告されている。しかし、人間関係資源が希薄になった高齢者では、被災地内外のこころのケアボランティアをはじめとする専門家に辛さを打ち明けたり、相談をする割合が増えている。

 災害が起こると、「こころのケアが必要」と言われるものの、こころのケアについてははっきりとした定義付けすらないのが現状である。「災害時こころのケアシステム」においては、災害時のこころのケアを、非災害時のこころのケアとの比較の中で明かにし、その特異性に注目しながら、被災者を援助するためのツールを作成することを目標としている。

 災害に遭遇した人は誰でも影響を受けて当然である。災害時のこころのケアとは『災害に遭わなければ、普通に自分の責任と役割を果たすことができる人が、突然の災害によって人生の多くのものを失った時に、自分に残された資源を活用して、前向きに立ち直るための支援をする』ことである。たいていの人は話しを聞いてもらうだけで、あるいは自分の反応が「当たり前の反応で、異常ではない。」と誰かに言ってもらうだけで、安心し、立ち直ることができる。しかし、非常に大きな喪失を経験し、こころの傷が深くて専門家の治療が必要な人には、適切な資源への紹介が必要になる。

 災害時のこころのケアを行う者は、被災者の当たり前の心理をよく知るのみでなく、被災者が必要とする復興のための情報を知り、これを提供できなくてはならない。そのためには、防災体制の組織的側面を知り、被災者がどこに行けば、どのような援助を得ることができるかの情報が必要となる。

 また、援助者自身が災害業務の中で深く傷つき、ストレスフルな状況にあることから、援助者自身をサポートするための知識も必要である。

以上のことを考慮し、今回提案する「災害時のこころのケア・トレーニング・システム」では、-被災者の心理、援助者の心理、実際の実践的経験や知識が掲載され、-防災体制の中でのこころのケアの位置付けが理解でき、-援助者自身のケアやボランティアの活用、教育とトレーニングというマネジメントレベルの内容が記載されたものを、-Webの特性を活かし、検索が容易で内容の更新が暫時可能な形で提供できると考える。

 

 


42   1999年8月トルコ地震災害被災民の急性ストレス障害について

―国際緊急援助隊第1次医療チームの診療患者の集計より―

北里大学医学部救命救急医学*1、大阪府立中河内救命救急センター*2、国立国際医療センター*3、大阪府立千里救命救急センター*4、長浜赤十字病院*5、筑波メディカルセンター病院*6、榊原記念病院*7、昨雲会飯塚病院*8

浅利靖*1、当麻美樹*2、金井要*3、若狭真美*4、田村豊光*3、金澤豊*5、青木正志*6、清水真由美*3、吉岡留美*7、荒井尚之*8、中田敬司、山岸勉

 

1999年8月17日にトルコ西部で発生した地震に対して派遣された国際緊急援助隊第一次医療チーム(JMTDR-1)は、8月20日から28日まで医療活動を行い、延べ804名の被災者の診療を行った。この診療活動中、震災後のストレスによる症状を訴える被災民が多くみられた。そこで、トルコ地震災害後の急性ストレス障害の特徴を明らかにすることを目的として以下の検討を行った。

【対象および方法】対象は発災4日目から12日目までの9日間にJMTDR-1が診療した804名の被災民のうち、診療した医師が身体的な疾患、器質的な疾患はない、ストレスによる精神的な症状と判断し、その旨をカルテに記載した127名(全診療患者中の15.8%)とした。この被災者の症状を身体面、思考面、心理面、行動面に分類し急性ストレス障害(ASD)の症状について検討した。

【結果】ASDを呈した被災者は男性45例、女性82例と女性に多くみられた。平均年齢は35.7歳(SD18.8歳)で、年齢分布は21-30、31-40、41-50歳が23、28、19名と多く、20-50歳で70名と全体の55.1%となった。生活場所、家族の安否についての記載は、104例81.9%、103例81.1%にみられ、このうちテント生活者は89例85.6%、家族内死亡は17例19.8%であった。来院時期は、発災6、7、8日目に18、18、31名と多くこの3日間でASD患者全体の52.8%となった。症状では、身体面の症状を訴える被災者が多く延べ症状339例のうち280例(82.6%)が身体面の症状であった。次に恐怖感、無力感、不安感などの心理面の症状が46例(13.6%)、落着きがない、喧嘩っ早いなどの行動面の症状が11例、記憶力の低下などの思考面の症状が2例であった。症状の中では、睡眠障害54例が最も多く全体の42.5%でみられた。他には食欲低下28例22.0%、悪心26例20.4%、めまい25例19.7%、恐怖感21例16.5%、頭痛21例16.5%、腹痛20例15.7%、無力感15例11.8%、動悸14例11.0%であった。また一人の患者が訴えた症状は、1症状が20例、2症状47例、3症状34例、4症状16例、5症状7例、6症状以上3例であった。

【結論】トルコ地震災害でのASDは女性、20-50歳、発災後1週間前後に多くみられた。症状では身体面の症状、とくに睡眠障害、食欲低下、悪心、めまいが多く、一人の被災者で2、3個の症状を訴えることが多かった。

 

 


43  災害慢性期の精神的ケアの必要性

トルコ北西部地震被災地の医療活動をとおして

飯塚病院救急部

篠田朋子 鮎川勝彦

 

【はじめに】1999年8月17日に起こったトルコ北西部大震災において約17,000人の死者と約50万人の避難民が出た。震災4週間後の被災者キャンプにおいて5日間医療活動をする機会を得た。医療活動をとおして災害慢性期における被災者の問題点を検討した。

【方法】NGOであるJET(日本緊急援助チーム)の第7次トルコ地震緊急援助班に参加した。通訳とともにイスタンブール対岸のヤロバ市を訪れ、市内最大級の被災者キャンプ(避難民約6,500人)にある医療テントでトルコ人チームおよび韓国の医療NGOチームとともに5日間医療活動を行った。被災者の疾病の種類やストレスの原因について分析した。

【結果】疾患の種類としては、高血圧、喘息、糖尿病、甲状腺腫などの疾患が多く、増悪傾向にあった。小児では下痢や発熱が多く、衛生環境に問題があると考えられた。また診療所に来る患者の大部分は、頭痛、上腹部不快感、背部痛、不眠など疲労やストレスから生じていると思われる症状を訴えていた。キャンプ内は食料配給、衛生設備、保安等が比較的整備されていたが、震災に対するストレスは予想以上に大きかった。小規模の余震を契機に心筋梗塞、痙攣、切迫早産などが生じていた。また、屋内に長時間滞在することへの恐怖心が社会の機能的回復を遅らせている一つの原因と考えられた。

【結論】(1)トルコ北西部地震での慢性期医療活動を5日間経験した。(2)大地震が心的外傷となり、社会の機能的回復を遅らせている原因の一つと考えられた。(3)ストレス環境からの避難が必要な患者を選別し移送することが、大切であると考えられた

 

 


44 台湾地震が被災者に与えた心理的、生理的影響について

豊中渡辺病院  

多田 章美

 災害時にうけた心理的影響は生理的レベルにまで達する広範囲なものである。急性期の約1ヶ月に出現した症状を心的外傷後ストレス反応PTSRとされている。今回台湾で診療活動をすすめていくうちPTSRと思われる症状が多い事に気づいた。診療のあい間をぬい、発災10日目よりPTSRの調査をはじめた。

【方法】
 9月30日-10月3日  日本医療チーム診療所の受診者を対象に、きき取り調査をした。調査場所の中寮は、台湾の中でも被害の大きい地域の一つで、住民は精神保健上、最も問題を抱えやすいグループに入る人々であった。調査書はフォローできる専門家がいない事から、健康調査の一貫として、心理的質問を組み込んだ内容とした。

【結果】
 自宅が全壊、半壊した人は85%、テント暮ししている人91%、体の不調を訴える人52%、地震は恐かった思い出したくない人78%、地震は恐かった思い出したくない人には食欲、排泄物障害が多く見られた。身体的急性ストレス反応の出現した人50%、身体的急性ストレス反応の出現した人50%であった。自宅が崩壊した人としなかった人の回答に有意差はなかった。

【考察】
 専門家による早期の精神的介入が必要である。このような調査結果が、災害医療チームの活動にどのように反映されるのか今後の課題である。

 

 


45 日本における山岳遭難の現状

聖マリアンナ医科大学東横病院整形外科

金田 正樹

 

現在の日本における登山者人口は850万人と言われている。

最近の登山者の傾向として従来の伝統的登山を行う者に加え、観光の延長としての登山とも言えるハイキング、トレッキングを行う幅広い年齢層にわたって登山を楽しむ人々が増えている。特に中高年登山者の増加は著しく、夏山から海外高所登山までその領域を広げる傾向にある。

この年齢層の増加と共にに遭難件数も年々増加し、H10年度は遭難発生件数は1077件、遭難者数1341人中中高年者は1023人(76.3%)を占め、死者総数251名中、中高者は209名(83.3%)であった。近年、旅行会社が企画するツァー登山で数十人以上の集団で山登りをすることが増え、天候の急変などで一度に多くの死傷者を出す遭難が多発している。

今回は、現在の日本における山岳遭難の実態と原因、対策について述べる。

 

 


46 Y2K問題(2000年問題)に対する救急外来の準備

名古屋第一赤十字病院 救急部

花木芳洋、小島俊行、堀田壽郎

 

名古屋第一赤十字病院は救命救急センターには指定されていないが、名古屋市北西部に位置する基幹病院のひとつで、地域災害拠点病院に指定されている。Y2K問題の対策について副院長を座長とする委員会が設置され、議論されてきた。我々はこの委員会の小委員会において、2000年1月1日に病院外で引き起こされうる事故により災害医療レベルの混乱が救急外来で引き起こされることを想定し、危機管理マニュアルを作成した。その概要を紹介する。

 次のような勉強会を設定した。1:災害医療一般について理解を深め、志気を高めるためにトリアージ訓練(10月20日:2時間)。2:通常、各々の業務を行っている勤務者が一同に会してY2K体制を確認する勉強会(11月18日:1時間30分)。Phase 2、3の体制に対して、当日のメンバー構成、指揮命令系、各自の役割分担などを認識する。3:これらの事項の実行確認のためのシミュレーション訓練(12月3日:2時間)。Phase 1よりPhase 2への移行を中心に勉強会の内容を確認する。

 Y2K問題は災害とはいえ、時期が特殊で(外来は休診で、病床の稼働率は70%前後と低いことが予測される)、通常の危機管理よりもゆとりのある計画が可能と考えられた。病院長を本部長とする災害対策本部の下に救急対策本部を設ける。幾つかの段階に応じて応援が可能なように院内及び院外待機者を予め指名する。年末までに中央玄関、待合室付近においてトリアージエリアを設置し、整然とした動線を確保できるようなレイアウトを準備する。

 Phase 1;通常の年末年始の勤務体制より人員の増加、補強を準備する。Phase 2;さらに人員の増強を行う。従来の救急外来、救急専用病床を合わせて拡大救急外来として運用する。予め、12月31日午前9時以後、この病床への入室を取りやめ、全収容患者を午後5時までに転棟させておき、救急外来として使用できるように準備する。Phase 3;非常事態と認識し職員全体の体制をとる。手術室、ICUなどについても充分な稼働が可能なことを確認後、中央玄関を開け、中央待合室近傍にトリアージエリアを設け、トリアージを行う。中等症、重症傷病者はPhase 2で使用していた拡大救急外来(重症ゾーン)で引き続き診療する。軽症者は中央待合室に隣接する整形外科外来(軽症ゾーン)で診療する。臨時の救護所は可能な限り使用せず、病棟の空床(例年の年末年始は病床稼働率は70%前後)を活用する。救急対策本部の指揮下に、傷病者に対応するチーム、家族、行政、マスコミなど傷病者以外に対応するチーム、トリアージチーム、中等症、重症ゾーンチーム、軽症ゾーンチーム、搬送チームなどを設け、そのチーム毎に責任者を定める。

災害拠点病院の教育訓練の一部としてY2K問題を機会に院内で準備を行った。これらの積み重ねが今後の多数の傷病者受入に役立つと考えられる。

 

 


47 Y2K災害計画を振り返って

日本医科大学救急医学教室、高度救命救急センター、厚生科学特別研究班

川井 真、二宮宣文、小井土雄一、熊本一朗、辺見 弘、浅井康文、石原 哲、

甲斐達朗、杉本勝彦、二宮宣文、山本保博

 

Y2K問題は、一般災害とは異なり、発生の日時が予想できることに加えて、種類の異なる複数の災害が同時多発あるいは広範囲に発生する可能性がある。また一般災害では、発生日時が特定できないため発生時の対応が遅れることがしばしばであるが、Y2K問題は、発生日時があらかじめ特定できるため、問題発生後の初動時の対応計画をあらかじめ十分組み立てることが可能であることが大きな特徴である。特に医療においては、単独の医療機関における患者や在宅療養中の患者に対する健康被害の発生が予想されるだけでなく、多数の医療機関等において同時に発生する可能性、さらには医療分野以外の2000年問題に伴う災害が発生し医療機関の患者対応等に影響及ぼする可能性があり地域全体を視野に入れた災計画が必要である。このため我々は、昨年、地域における危機管理計画策定の手引きおよび救命救急センター及び災害拠点病院における訓練マニュアルを作成した。今回、振り返ってどのような効果があったかを検討報告する。

 

 


48 当院における災害時急性血液浄化法の体制

国立病院東京災害医療センター 泌尿器科

渡辺賀寿雄、鈴木康太、益山恒夫、檜垣昌夫、大友康裕、友保洋三、辺見 弘,荒井他嘉司

現在三多摩腎疾患治療医会では東京都衛生局医療計画部、日本透析医学会と共同で三多摩地区の慢性透析患者の災害対策として三多摩地区ネットワークを平成9年に構築し、災害時における透析患者への支援システムおよび具体的活動内容について日々検討している。そして災害訓練など行い、問題点.こついて討議している。その三多摩地区災害時透析ネットワークで当院は、北多摩酉部地区での唯一の後方医療施酸と位置ずけられている。北多摩西部地区とは、立川市、昭島市、国分寺市、国立市、東大和市、武蔵村山市であリ14維持透析施設が存在しています。しかしながら当院は災害時には、本来の役目である高度な救急医療が必要な患者に対する急性血液浄化法を行う必要がある。したがって災害医療のなかで挫滅症候群や救急医療における急性血液浄化法と災害時における血液透析医療への対応をパランスよく行うことが災害時での大きな課題である。また当院は耐震構造建物であり、電気設備・給水設備・通信設備には余裕あるが、機器(血液透析機器4台/血液透析濾過機器9台)、必要物品・スタッフに余裕がないのが現状である。今後院内問題点を早期に検討し、当院が能率よく機能するために三多摩地区災害時透析ネットワークや広域災害救急医療システムを十分に活用できるように検討を重ねる必要がある。

 

 


49 広域災害・救急医療システム運用法の再考

愛媛大学医学部救急医学

越智元郎、白川洋一

 

広域災害・救急医療システムの運用方法の問題点について分析し、考察する。

【1.災害対応のための広域災害・救急医療情報システム】

本システムは1996年度から5年計画で全都道府県への整備を目指している。しかしまだ関係者に十分認知されてはおらず、災害対応に生かしうるか危ぶまれる。

1) 未導入都道府県の問題: 導入都道府県は1999年度末で29に過ぎず、現状では大災害時に未導入県からの情報発信は期待できない。これに対する対策は、

 イ. 未導入県の主要機関にインターネットを介して本システムの非公開ページにアクセスする権限を与え、他の施設などの情報も含めて入力してもらう。

 ロ.未導入県からの被災情報、あるいは応援都道府県としての情報を、被災地外のいずれかの担当者が受け取り、システムへ代行入力をする。

2) 情報入力の重要性と災害通信訓練について: 災害時に情報入力ための人手を割くべきことの重要性を十分に浸透させる。また「災害モード」に切り替える手順や入力方法、閲覧方法などについて災害通信訓練を通じて関係者の理解を深める。

3) 広域災害救急医療システム・ホームページ: 大災害時に市民やNGO、報道機関などに対して、どのような災害情報が提供されるかを、明瞭に示しておく。また「災害医療ライブラリー」といった名称で、災害医療関係者の自己啓発のための情報を豊富に収載し、また公的機関の災害準備に関する情報公開の場とする。

4) メーリングリストおよび電子会議室: 非災害時から関係者の情報交換や相互啓発、人的交流などに用いる。災害医学あるいは(災害)医療情報学の立場からの参加も重要である。交流の核となるメンバーを積極的に育てることが成功の鍵である。

【2.救急医療情報システム】

日常の救急医療を扱う救急医療情報システムは多くの地域で 200以上の端末を動かし、閉鎖型ネットワークを形成している。しかしこれらが有用な情報ネットワークとして機能している地域は少ない。また医療機関の空床状況、手術の可否などの表示には、実質的な情報はほとんど入力されていないという。このような状況にあって、救急医療情報システムの存在意義を考えると、以下のような対策が必要になろう。

1) 救急医療情報システムの導入やバージョンアップを通じて、救急関連機関へのインターネット基盤の整備をはかる、2) 医療機関の空床情報、診療可否情報の入力を市民に対する義務としてとらえる、3) ホームページを通じて市民へ救急医療情報提供を提供する、4) 消防本部、救急医療機関、救急医療対策協議会などの情報公開の場とする、5) 地域の救急対応能力を監視するためのデータを得る、などである。

 

 


50 神奈川県災害拠点病院勉強会報告-災害時情報伝達手段の検討-

神奈川県災害拠点病院勉強会

新藤正輝、秋山典彦、梅原実、加賀雅恵、須田嵩、山口孝治

 

 神奈川県では災害拠点病院における連携の強化、災害医療教育の推進、医療救護訓練実施の支援等を目的に、1999年4月より災害拠点病院勉強会を2ヶ月ごとに開催している。現在まで広域災害発生時における情報伝達システムのうち、主に災害拠点病院と県の医療救護本部との間の情報伝達方法につき検討してきたので報告する。

対象・方法:神奈川県災害拠点病院28施設を対象に参加を呼びかけ、平均参加施設19病院、参加者69名で行われた。広域災害発生時には速やかに各拠点病院から県の医療救護本部に対して被災状況を報告することになっており、現在隔月に訓練が行われている。その情報伝達法として、電話、FAX、MCA無線、広域災害・救急医療情報システム(WHEMS:神奈川県では2000年4月導入予定)等が挙げられる。これら情報伝達機器の設置場所-耐震(耐免)構造内設置か? 24時間対応可能か?災害時優先電話回線としての登録状況、短時間内に集中して報告した場合の輻湊の問題、MCA無線による報告様式の問題等につき検討した。

結果:災害時連絡用として申し出のあった電話回線のうち、設置場所として耐震(耐免)構造内、24時間対応可能、優先電話回線登録の3つの条件をみたすものは、電話で7病院(25%)、FAXで2病院(7.1%)であった。MCA無線機が耐震構造内に設置され防災担当者が対応可能な施設は10病院(47.6%)であった。優先電話回線は発信専用とし24時間対応可能な耐震(耐免)構造内に新たに設置すること、着信専用の複数の回線を登録し直すことが提起された。輻湊の問題は当初から懸念されていたが、実際のFAXによる訓練では送信に手間取った結果送信終了と勘違いし遅れた例もみられた。MCA無線による情報伝達時間は1分と限られており、短時間内の報告にはチェックリスト作成が必要であることが提案された。また、県内の拠点病院をいくつかの地域に分け、近隣拠点病院ネットワーク化する提案もなされた。

結論:災害時の情報伝達の方法として種々のシステムが存在するが、設置場所等の基本的な問題点を含め明らかになると共にその解決法が災害拠点病院勉強会で討論され有益であった。災害発生時には1県内にとどまらず近接する都道府県の協力が必要であること、医療施設のみならず消防、警察、自衛隊等の協力も必要であることから、今後これらの組織も参加した災害拠点病院連絡協議会の発足が期待される。

 

 


51 LDRPSによる災害対応マニュアル管理について

国立病院東京災害医療センター

堀内義仁、大友康裕、広瀬脩二,伊坂正明,藤本幸宏,友保洋三、辺見 弘、荒井他嘉司

 

LDRPS(Living Disaster Recovery Planning System)は震災などの大災害時に業務の中断や停止を最小限にとどめ復旧するために、企業・団体向けに開発されたコンピュータソフトウェアである。当院ではこのソフトウェアを使用し、災害マニュアル管理に応用することを試みている。既存のマニュアルをシステム化し、個々の職員の役割、必要物品などをデータベース化することにより、平常時の確実かつフレキシブルなマニュアル管理が、また災害時には迅速にニーズに応じた必要な情報を得ることができる。このシステムをRUNやインターネットでつなげば情報は共有化され、全国的なネットワークで災害に対応することも可能となる。学会では本システムの簡単な内容の紹介と実際の活用方法についてのプレゼンテーションを行いたい。

 

 


52   2002年日韓共催サッカーワールドカップにおける

集団災害医療体制確立の提案

横浜市立大学医学部 救命救急センター

武蔵野赤十字病院 救命救急センター* 日本医科大学 救急医学教室**

森村尚登 勝見 敦* 橘田要一 森脇義弘 内田敬二 安瀬正紀 小井土雄一**

山本保博** 杉山 貢

 

【背景】今世紀初頭、パリにおけるFIFA(国際サッカー連盟)第一回会議で立案され、1930年にウルグアイで第一回大会が開催されたサッカーワールドカップ大会は、来る2002年にその歴史上初めて極東の地で17回目の開催を迎える。サッカーは世界中の国々において最も身近に浸透しているスポーツの一つであり、その頂点たる世界大会に位置するワールドカップ大会は参加国数、観客動員、熱狂度において世界最大規模のスポーツ国際大会である。その熱狂ぶりゆえに大会中の集団災害発生の歴史は少なくなく、近年大会開催国はその危機管理体制の確立を図ってきた。しかしサッカーの浸透が欧州や南米諸国に比較して遅れた日本において開催国としての危機管理体制、特に集団災害を中心とした救急医療体制の必要性に対する認識は薄く、開催まで二年半となった現在でも未だ十分に議論されていない。【目的・方法】FIFAの記録を中心に近年の各国のサッカー国際大会における集団災害事例を調査しその特徴を検討する。また近年の主要各国における大会中の集団災害医療体制の実際も併せて検討する。 【結果】国際試合中の死傷者発生の記録は、1902年のイングランド対スコットランド戦での25人死亡、517人負傷の報告以後特に1950年代以降は数年に一度の割合でみとめられ、近年では前回大会予選におけるグアテマラ対コスタリカ戦での80人死亡の報告がある。災害発生の直接の契機はレフリージャッジによるものが多く、また一部観客の異常行動に起因する場合もみとめられた。災害機転のほとんどは、狭い出入口への多人数の殺到ないしスタジアム内外の施設の倒壊であった。また前回フランス大会ではすでに大会二年前の時点で「サッカーワールドカップ開催中の医療体制計画」を完成させており、対応を詳細に検討した上で大会に臨んでいる。【結語】世界最大規模の大会であるという認識の希薄さ、歴史が示す集団災害発生の可能性、さらに大会史上初めての二ヶ国共催、20都市にわたる開催地の多さといずれにおいても集団災害対応に関する不安材料は多い。以上より、サッカーワールドカップ開催に向けて全国的な集団災害医療体制ネットワークの確立への検討が必要であると思われる。

 

 


53  震災後の診療機能の回復手順に関する研究

広島国際大学、甲南病院

河口 豊、内藤 秀宗、松山 文治

 

目的:震災直後(1-2日)の病院(診療)責任者が緊急に判断する際に役立つ、自院の診療機能レベルを速やかに評価するための手順とチェックリストの作成を目的とする.

方法:発表者の他に山田鈴子(六甲アイランド病院)、菊池正幸(鐘紡記念病院)、川端和彦(同)、野田義輝(神鋼病院)、杉野芳光(東芝メデイカルサービス)が参加した研究班を構成し、災害拠点病院へのアンケート調査および既存資料を検討して進めた.

結果:概要を以下に示す.

1.災害拠点病院へのアンケート調査/1999年1月に災害拠点病院504を対象として調査を行い、230病院から回答を得た.その結果、災害拠点病院といえども震災に対する備えの水準は大きな開きがある.例えば防災マニュアルを作成していたのは31%に過ぎず、トリアージを行う場所や初期治療の場、応急入院の場を特定している病院は、各々59%、67%、48%であった.また防災マニュアルは一般的に予防的な点に比重が大きく、発災後、特に直後の対応には役に立ちにくいといえる.

2.診療評価のための手順検討/阪神・淡路大震災の経験から、発災後から48時間以内に行うべき行動を整理し、また発災の時刻による条件整理を行った.そして時間経過に伴い、管理責任者、部門担当者、必要な情報、その対策を一覧にした.さらに震災直後の被害状況総括表、診療機能評価総括表、急性期傷病の治療手段一覧表、緊急治療機能評価マトリックス、各部門被害状況報告書を作成し、短時間の診療機能の回復判断が可能にした.

考察:31%とはいえ既に多くの防災マニュアルが作成されており、厚生省もガイドラインを配布しているが、本研究はそれらが本格的に活動するまでの初期活動での診療機能評価である.そのため、情報の範囲などは簡略化しているが、限られた職員数でしかも短時間に自院の状況を把握するには細部までの情報は不要であり、最初期の緊急医療活動の実施判断に必要な情報はこの程度で十分と考える.全体の流れを構造的に捉え、治療手段や最小限必要な材料のチェックリストとしても使えるが検証はできていない.そこで防災訓練などでこの診療機能の回復手順の方法をつかい、評価を受けることが必要と考える.

結論:震災後の診療機能の回復手順として、直後から2日くらいまでのために緊急医療活動の実施判断に必要な診療機能評価表などを作成した.病院にとって有用と考えるが、防災訓練などで使用することで、今後さらに検証していく必要があると考える.

本研究は平成10年度厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)を受けた.

 

 


54 茨城県東海村臨界事故に対する日本赤十字社の医療救護活動

名古屋第二赤十字病院 鈴木伸行 大脇睦彦  

赤十字医療センター 槙島敏治 日本赤十字本社 堀乙彦 市橋 和彦

 

はじめに

茨城県東海村のウラン燃料加工施設で起きた臨界事故は、作業員や住民ら少なくとも69人が被ばくし、住民31万人が退避するという日本の原子力史上最悪の事故となった。

内外の関係機関の危機管理、防災対策が不完全ななか、日本赤十字社は茨城県支部を中心に地域住民に対して健康相談、被ばく線量の測定などの医療救護活動を行ったのでその概要を述べ、出動救護班の現場での問題点を報告する。

事故概要

本年9月30日午前10時30分ごろ、東海村の核燃料加工会社で放射性が漏れる事故が発生した。事故発生後、住民らへの放射能の影響を避けるため、工場から350m以内の住民を村内のコミュニティーセンターなどに避難させるとともに、半径10km以内の9市町村の住民に屋内退避を勧告した。

救護活動

この事故により、茨城県那珂郡東海村及び那珂町に災害救助法が適用され、日本赤十字社茨城県支部は本社と連絡を取りつつ、また放射線被ばく者医療に実績のある広島県赤十字原爆病院、長崎原爆病院の医療救護班の協力を得て医療救護を行った。

1)被ばくに関する健康相談の実施

10月1日から屋内退避地区の住民に対して水戸赤十字看護専門学校で体外被ばく線量の測定や放射線被ばくに関する健康相談所を開設した。体外被ばく線量の測定は、茨城県立中央病院の職員と協力して行われた。

2)医療救護班の派遣

10月1日から5日まで、水戸赤十字病院及び猿島赤十字病院より、地域の公民館やコミュニティーセンターで放射線障害に関しての健康相談所を開設し、健康相談を行った。また、茨城県支部の要請に応じて、長崎原爆病院、広島赤十字原爆病院からそれぞれ医療救護班が出動し、医療救護所を設営してのべ9個班により14,604名の受付を行った。

まとめ

日本赤十字社は、災害発生時に直ちに初動対応がとれるよう日頃から準備と訓練を行っているが、災害の想定は自然災害に限定されていたといっても過言ではない。この数年、人的災害への備えが提言されていたものの現実的な対応は進んでおらず、放射線被ばく災害への備えは全くなかった。また、日本赤十字社は2つの原爆病院を有しているが、それらは原子爆弾による放射線障害の慢性期治療を行う施設であり、急性期障害への対応は全くなされていない。そんな中、日本赤十字社茨城県支部長と同広島県・長崎県支部長の合議のもと、事故発生の翌日からのべ9個班の医療救護班を出動させ退避住民に対して放射線被ばく線量測定及び被ばくに関する健康相談を展開した。

演者らは、東海村臨界事故に対する日本赤十字社の医療救護活動を報告し、そこで直面した内外の問題点について提示したい。

 

 


55 東海村臨界事故に対する日本医療救援機構(MeRU)の活動

MeRU(特定非営利活動法人 日本医療救援機構)

坂野晶司、鎌田裕十朗、執行友成、岩永都貴恵、石原 哲

 

平成11年9月30日午前10時35分頃に茨城県東海村のウラン工場で発生した日本初の臨界事故は、また日本の災害医療がはじめて対峙した本格的な核災害でもあった。

われわれ日本医療救援機構は、平成11年に認証を受けたNPO法人であるが、今回の東海村での臨界事故が国内で始めての災害医療活動となった。10月1日未明に茨城県庁に到着した。暫時待機後、1日午後に正式な県からの出動要請があり、翌2日午前から事故現場(JCO東海事業所)より約3kmの距離にある那珂町にて検診活動を開始した。検診は体外からの放射線量の測定と、必要を認めた者に対する医師による診察を行った。午後からは県の要請により、場所を事故現場より約10kmの距離にある瓜連町に移し、活動を継続した。

3日には地元医師会の支援体制も整い、徐々にオペレーションを移行させ、同日夕刻には撤収した。

この間の検診活動において、3,968名の測定を行い、うち90名の診察を行った(下表)が、幸いにも異常のある例は発見されなかった。

今回の事例では、国内、しかも関東での事故で、ライフラインや通信に影響のない災害であったため、スムースな活動ができたと思われる。

反面、過去に例のない臨界事故であり、中性子の影響の評価方法や情報提供等に反省の余地があった。今回の活動の概略を紹介し、反省点及び今後の同種の災害の場合への提言を行いたい。

 

 


56 兵庫県における核事故への緊急医療対応アンケート調査

神戸大学 都市安全研究センター 都市安全医学研究分野

小城 崇弘,前川 宗隆,大星 直樹,鎌江 伊三夫

 

平成11年9月30日に茨城県で生じた我が国初の臨界該事故は原子力関係機関のみならず医療関係機関へも様々な課題を投げかけた。この種類の事故が原発銀座と呼ばれる敦賀湾にて生じた場合、現地より高速道路を利用して数万人規模の被災者が神戸市,や阪神間諸都市に避難する可能性がある。こうした可能性を考えるに、被災者の受け皿となりうる高速道路終点に位置する神戸市とその近郊の基幹病院の核事故に対する受け入れ体制の調査は必須と思われた。

今回、我々はこうした事故が生じる可能性を前提として、神戸市近郊の基幹病院における、核事故被災者治療の医療リソースに関するアンケート調査を実施した。

調査内容は、緊急時治療としての重症熱傷患者や汎血球減少症患者の治療可能数、予防医学的な治療としてのヨード剤の備蓄状祝、放射性物質により汚染された患者の取り扱いに関する問題点など多岐に渡る。

その結果の解析から得られた当該地域での対応体制の含む問題点を明らかにする。


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