第5回日本集団災害医学会 シンポジュウム

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抄録(
一般演題1-24,25-56),シンポジウム,パネルディスカッション,緊急報告(臨界事故),特別講演


大地震発生!各機関の初期対応は?

─南関東大地震における災害医療をモデルとして─


 

基調講演 阪神淡路大震災国際的検証会議報告会から

東京大学救急部 前川和彦

 


S-1 緊急災害対策本部における広域医療搬送活動の取り組み

国土庁防災局震災対策課 課長補佐 四日市 正俊

 

1.南関東地域の大規模な震災においては、重傷患者等が大量に発生する一方、被災地内の医療機能が大きく低下する中で、被災地外の支援・協力も得ながら、広域医療搬送活動を迅速に実施しなければならない。阪神・淡路大震災においては、負傷者の搬送活動が必ずしも十分に行われなかったことから、この教訓を今後の防災行政、特に、甚大な被害が想定される南関東地域の震災対策に活かしていく必要がある。

 

2.阪神・淡路大震災の教訓等を踏まえて改訂された「南関東地域震災応急対策活動要領」及び「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」では、関係機関の連携により積極的に進めるべき応急対策の課題(医療搬送、輸送ネットワーク等)を位置付けるとともに、特に応急対策における実践的な行動計画(アクションプラン)の作成により平常時から実践的な備えを十分講じておくことが位置付けられた。これを受け、大規模震災時の医療と搬送について検討を行い、平成10年8月に中央防災会議主事会議において、「南関東地域における大規模災害時の広域医療搬送活動アクションプラン第1次申し合わせ」が行われた。

 広域医療搬送活動アクションプランは、速やかに適切な処置を講じなければ人命が損なわれるおそれのある重篤患者を救うため、「地震被害早期評価システム(EES)による推計結果をもとに、重篤患者を広域搬送する観点から、緊急(非常)災害対策本部及び関係省庁が地方公共団体レベルの取り組みを効果的に支援するための対応等を申し合わせたものである。

これにより、政府として、地震発生直後の初動段階における広域医療搬送体制の迅速な確立と、応急対策実施段階における広域医療搬送活動について、被災地方公共団体を効果的に支援することが可能となる。

 


S-2 内閣安全保障危機管理室の対応

内閣安全保障危機管理室 松本太

 


S-3 被害想定と医療情報の把握・医療資源の活用(初動期の対応)

東京都衛生局医療計画部救急災害医療課 課長 會本密男

 

◎平成9年8月のいわいる「東京都の被害想定」によれば、東京都区部を震源とする直下型地震が起こった場合、東京都全体で、約16万の負傷者が発生するとしている。そのうち、重症者は1万7千名で、しかも火災関係が受傷原因とする重症者は約7千名と想定している。

 重症者に対しては、症状に応じた設備の整った医療機関へ早急に搬送し、適切な治療を行うことが不可欠である。そのためには、医療機関の被災状況の迅速かつ的確な把握が必要である。

 東京都における医療機関の被災情報の把握については、以下の体制で行うこととしている。

  衛生局が防災行政無線を中心に情報収集を行う。

  東京消防庁が救急情報システム等で情報収集を行う。また、各署で編成される「病院調査班」が管内の救急告示医療機関の情報収集を行う。

  衛生局が、区市町付及び都医師会の協力を得て収集する。

 

 このようにして、各関係機関の協力のもと、都内の支援の必要な医療機関または支援が可能な医療機関の情報把握に努め、発災初動期の限られた医療資源(人的・物的両面)をパランスよく配分し、的確な医療救護活動の支援を行っていく。

 しかし、前述したように被害想定からの重症患者数は、都内医療機関の対応能力の範囲内であるとは断定はできない。とくに、火災関係からの重症者(おそらく熟傷)の数と現在の都内の対応能力はギヤップがあると考えられる。

 これらの対応能力ギヤップを早急に解消するためには、都内だけでなく、全国の医療機関情報が必要になる。重症患者を被災地から都内の被災地外へ、さらに他府県へと搬送し、全国規模での医療資源の有効活用を図らねばならない。

東京都は、平成12年3月より、「広域災害・救急医療情報システム」を導入し、災害時における全国規模の医療情報の発信・収集が可能となる。今後は、このシステムについての訓練計画および運用方法を各関係機関と検討し、災害発生時には(全国どこで起きても)全国規模での医療資源の活用を考慮した、災害時医療救護活動の実践につなげていく。

 


S-4 緊急消防援助隊について

自治省消防庁救急救助課 鷺坂長美

 

 平成7年1月の阪神・淡路大震災で、全国41都道府県、451消防本部、延べ32,000人以上の消防職員による消防の広域応援活動が実施された。しかしながら、その被害は、死者が6,300人を超えるという戦後最大のもので災害時の消防活動に多くの教訓を残すこととなった。

 その中で、とりわけ災害初期において、災害情報等を早期に収集し、人命救助活動などを行う応援部隊が早急に出動する必要性が痛感された。そこで、地震などの大規模災害時における全国の消防機関による迅速な援助体制として、平成7年6月に緊急消防援助隊が整備された。

 緊急消防援助隊は、大規模災害時等において消防庁長官の要請により出動する。消防組織法では、大規模災害時等において、消防庁長官は、都道府県知事の要請により他の都道府県知事に対し災害発生市町村の消防応援のため必要な措置をとることを求めることができるとされているが、これに加え、平成7年10月の組織法の改正により、消防庁長官は都道府県知事の要請を待たないで被災地以外の都道府県知事や直接市町村長に対し、応援のための措置を求めることができることとされている。

 緊急消防援助隊は、救助部隊、救急部隊のほか、先行調査や現地消防本部の指揮支援を行う指揮支援部隊や応援部隊が被災地で活動するために必要な食料などの補給業務を行う後方支援部隊等が編成に加えられている。

 緊急消防援助隊の部隊編成については、指揮支援部隊、救助部隊、救急部隊、後方支援部隊などの消防庁登録部隊376隊(交代要員を含め、約4,000人規模)。消化部隊、特殊部隊の県外応援可能部隊891隊(交代要員を含め約13,000人規模)である。

 これまで、緊急消防援助隊は、平成8年12月に新潟県、長野県の県境付近で発生した蒲原沢土石流災害で、東京消防庁、名古屋市消防局の救助部隊が、平成10年9月には岩手県内陸部岩手山付近の地震で仙台市消防局、東京消防庁の指揮支援部隊が出動している。 また、訓練についても、平成7年に98消防本部、1,500人の隊員による全国合同訓練が行われ、その後も各地域ブロックごとに合同訓練が行われている。

 


S-5 大地震発生時における消防の救助活動

東京消防庁参事(救急担当) 水崎 保男

 

1  被害状況の早期把握

消防機関は、地震発生直後から、火災・救助・救急事象に対する活動を同時に展開しなければならない。そのためには、速やかに被害の状況を把握し、消防活動に反映することが大切である。東京消防庁では、主に次のような情報収集手段で初期の段階から効率的な消防活動ができる体制をとっている。

・ 地震計ネットワーク       ・地震被害予測システム

・ 延焼シミュレーションシステム  ・ヘリコプターテレビ電送システム

・ 消防衛星通信システム      ・高所監視カメラ

・ 広域災害医療情報システム(平成12年3月1日から運用開始予定)

2  地震時における救急活動

 東京に震度5強以上の地震が発生した場合は、勤務時間外の全消防職員・団員が参集し、組織の総力を挙げて対応することとしている。このうち、救急活動の概要は次の通りである。

(初期の段階)

・各消防署単位による活動(救急車の出場、仮救護所の設置、消防団・ボランティアによる応急手当と搬送等)

・ 医療機関の情報把握、医療機関や地区医師会等との連携

・ 都・区市町村が設置する医療救護所・医療救護班との連携

(中期以降) 

・消防方面(9方面)単位又は全都的な救急部隊の運用

・ 緊急消防援助隊(全国消防応援組織)の救急部隊の受け入れ

・ 重症・重篤患者の転院搬送・ヘリコプター等による広域搬送

なお、今後一層望まれることは、搬送先となる医療機関のハード・ソフト両面にわたる震災対策と救助・救急現場での医療班との連携である。

3  地域の自主防災活動

 阪神・淡路大震災では、住民が各地区でめざましい活躍をした。例えば、家屋の下敷きなどから救助された人の内、約8割弱の人は、家族や近所の人に救助されたという調査結果がある。

 発災直後における被害軽減のための活動は、被災者である住民のマンパワーに期待するところ大である。このため、平素から防災・救急に関する知識・技術の習得(訓練)と資器材の備えが必要である。

 


S-6 広域災害・救急医療情報システムを活用した災害医療対策

厚生省健康政策局指導課課長補佐 土居弘幸

 

1.災害発生の情報ネットワーク

 

災害発生!!!

(1) 災害発生時には、予め都道府県が指定した複数の責任者が、各々の判断で災害発生のメッセージを情報システムを活用し、全国に伝える。

(2) 災害発生のメッセージがNTTバックアップセンターに送られると、予め登録された関係者を呼び出し、人工音声で災害発生を伝える。さらに、広域災害医療情報ネットワークのホームページが、自動的に災害発生の表示となる。災害・救急医療情報ネットワーク内では、災害発生が表示される。

(3) 災害拠点病院及び端末を有する医療機関は、傷病者数、搬送が必要な傷病者数、不足している医薬品などの情報を速やかに入力する。これらの情報は自動的にNTTバックアップセンターに送られ保存される。他の都道府県は、バックアップ・センターにアクセスすることによって、災害の情報を得ることができる。また、これらの災害情報は、広域災害医療情報ネットワークのホームページにも自動的に掲載される(病院別情報の他に、二次医療圏別、都道府県全体の情報が一覧表で集計)。

(4) 災害発生の報告を受けた者は、どの都道府県の、どの市町村で災害が発生しているか、及び医療機関の被害状況、必要物資状況を一覧表で確認ができ、災害地域全体の集計値も把握が可能。

(5) 各都道府県の災害拠点病院及び端末を有する医療機関は、協力可能な応需情報(医療班、医薬品等資機材、入院受け入れ数等)を速やかに入力する。

(6) これらの情報に基づき、現地対策本部は、関係機関と連携し、患者搬送、医薬品の供給、医療関係者の派遣などを行う。

 


S-7 自衛隊の南関東大震災災害派遣と広域搬送

自衛隊中央病院、陸上自衛隊第1師団司令部*

桑原紀之、赤沼雅彦、箱崎幸也、白濱龍興、国富道人*

 

 自衛隊の災害派遣は、公共性, 緊急性, 非代替性がその派遣基準とされ、内容は人命救助, 被災者救援等の応急救援と応急復旧とされている。その派遣要領は、自衛隊法により都道府県知事等からの要請によるものと、緊急を要する場合の自主派遣、防衛庁施設近傍の災害に対する近傍災害派遣とされている。

 南関東地域に大規模震災が発生した場合、発震後直ちに情報収集活動を開始し(30分以内に待機ヘリコプターによる偵察及び映像伝送開始)、関係各機関に連絡班を派遣し、被災状況の把握や意志の疎通を図ると共に、東京都では第1師団(司令部:練馬)下の部隊が即時に救援活動を実施する。

@地域担任:東京都は第1師団、神奈川県は第1教育団の後に第12師団、千葉県は第1空挺団、埼玉県は第31普通科連隊が災害対処にあたる。担

A人員及び増援:災害規模に応じて第一次から三次までの増援体制が定められている。関東甲信越の災害対応総要員は、陸上自衛隊で約21,000名, 海/航空自衛隊で各々約5,000名である。陸自の第一次増援では約11,000名(関東近郊師団、全国の航空隊及び各方面の後方支援連隊衛生隊等)が、二次増援では36,000名(全国)が計画され、各々の増援部隊の投入地域も計画されている。

B装備:大規模災害人命救助活動を目的とした器材(エンジンカッターや探索用ファイバースコープ等)をコンテナ内に格納した人命救助セットが、全国では47セット(関東地区:16セット、)が配置されている。

C広域搬送:航空自衛隊を中心に検討されている。現状では、固定翼機の発着場までの患者搬送や発着場からの搬送体制の問題等があり、救急患者搬送とは異なった大量傷者搬送の観点からのさらなる検討が必要である。

災害派遣計画に沿って、実際の災害時に自衛隊の災害派遣活動を円滑に実施するためには、災害応急対策の第一次的責任を有する地方公共団体と自衛隊との平素からの連携強化が重要である。さらに、災害時都道府県庁等の災害対策本部内に防衛庁職員の連絡員等の配置が急務と考える。

 


S-8 東京都医師会の災害時初期救急医療対応

東京都医師会 木村佑介

 

 東京都医師会は、指定地方公共機関として災害時の(防災機関として)責務を担っている立場から、東京都衛生局・東京消防庁・自衛隊・警察・日本赤十字社、さらに阪神淡路大震災以後、東京都医師会と同じ指定地方公共機関となった東京都歯科医師会・東京都薬剤師会とも協調してその対応を考え具現化して来たところである。

 その根幹となったものは「東京都地域防災計画」(平成8年修正)で、その中に情報の収集・伝達・初動医療体制・搬送・後方医療体制を定めている。(直下型を含めた南関東大震災に対しては、東京都衛生局医療計画部災害医療課長の會本氏より東京都医師会を含めた東京都としての対応の発表があるのでここでは省略する。)

 これらのことを踏まえ、現場での具体的な動きを示したものが東京都衛生局等が作成した災害に対する各種のマニュアル(計16種)で、このマニュアルに基づく講演会・訓練・講習会も数多く開催してきた。災害時初期救急医療体制(初動体制)としては、東京都医師会傘下の48医師会より2班ずつ直轄医療救護班96班を編成、さらに都立病院・保健所・区市町村等を合わせ、合計2,452班の医療救護班を災害現場救護所や避難所に派遣することにしている。

 発災から3日後は、主に避難所での対応となる。また、現場救護所での救急医療を考えた資機材を分類しまとめた現場携行用セット(医師、看護婦、その他の3種類)を作成し、災害時後方医療施設60病院に設置、さらに各医師会に配布の予定である。

 特に、初動期で大事なことは現場でのトリアージで、これに関してはトリアージタッグを全国に先駆けて作成した。東京都の特徴としては、トリアージ実施者として医師とともに救命救急士の名前を入れてある。これは、東京都は全救急隊(救急車)に救命救急士が同乗しており、発災時には医師よりも先に救急隊が現場に到着するという現実に則した考え方によるものである。トリアージに関する研修テキスト医療救護班用・医療機関用があり、トリアージ講習会も計81回(7,501名)を数えた。最近では、被災地内での活動には限界があり、また、そこの医療資源を温存し新しい患者(被災者)に対応するために重傷者を遠方に搬送する(広域搬送)ことが考えられている。

詳細は、シンポジウムの中で議論したい。

 


S-9 医療ボランティアの一組織としてのAMDAの医療展開

市立札幌病院救命救急センター1)、聖隷三方原病院2)

早川達也1)、岡田真人2)

 

 災害時には、相対的にマンパワー不足となる被災地内診療・医療機関等の復旧の支援者として、医療ボランティアを必要とすることがある。

 AMDA及び全日本病院協会(以下、全日病)は、平成7年の阪神大震災救援プロジェクト実施の後、平成8年2月に、災害時の被災地内の全日本病院協会(以下全日病)所属医療機関の支援を目的とする地域防災民間緊急医療ネットワークを発足させ、国内の災害発生時に、被災地内全日病所属病院への医療ボランティアの派遣を中心とする支援活動を行なうこととしている。また、並行して医療ボランティアの派遣による被災地内の災害拠点病院支援、医療救護所支援活動を行うことを想定している。

 南関東大地震を想定したシミュレーションとしては、平成8年の東京都足立区合同総合防災訓練参加以来、医療ボランティア派遣による災害拠点病院支援及び医療救護所支援を目的として東京都及び近隣地域における防災訓練に参加してきた。

 また平成10年以降は、静岡県総合防災訓練の参加に際し、医療チームの広域派遣を想定し、自衛隊による医療団空輸訓練に参加してきた。

 これらのシミュレーションを通して、AMDA医療ボランティアの展開方法としては、医療ボランティアの搬送に際して、被災地遠隔地からは空路が、近隣地域からは陸路、特に二輪車の使用が効果的であることが確認できた。

 具体的に、南関東大地震を想定した場合、AMDAとしての組織的対応は、静岡県からの医療ボランティアの空路派遣により開始されることになろう。並行して、被災地近隣地域からは、陸路による医療ボランティアの自発的展開が行われることが予想される。これらAMDA医療ボランティアの被災地内に於ける具体的な活動拠点は、被災状況によって流動的である。

これらを踏まえ、被災地内に於ける支援活動に際しては、AMDAをはじめとする医療ボランティアのより効率的な運用のために、被災地行政機関による調整が重要と考えられる。さらに、医療機関の支援に際しては、医療ボランティアの円滑な受け入れを行うために、予め防災訓練への参加を行なうなどして、医療機関による医療ボランティアの受け入れ方策の具体策を求めることが必要であろう。

 


S-10 基幹災害拠点病院としての役割

国立病院東京災害医療センター

大友康裕、辺見 弘,本間正人,徳永尊彦,井上潤一,加藤 宏,松島俊介,荒井他嘉司

同,臨床研究部

友保洋三,原口義座

 

 「阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会」の報告を受け,厚生省による「災害拠点病院の整備」が進められてきた。平成11年7月時点の指定状況は,全国で基幹50,地域470である。

 当院は,広域災害に対応する災害医療の東日本における基幹施設として,平成7年7月に開院した。関係省庁の防災施設が機能的に配置され,広域災害時の人員,物資の緊急中継集積拠点となる「立川広域防災基地」の中に位置し,ハード面でも,通常の耐震構造の1.2倍の強度・自家発電器(1000kVA)2器・災害時優先電話回線11本・3系統の無線・地下貯水槽に1200tの備蓄と井戸2本・屋上へリポートなどが整備されており,ハード面関しては,充実しているといえる。また平時の390床から広域災害時には病床数を900まで拡大するスペースも確保されている。

 しかし,発災後数分以内の職員の参集可能数は,隣接する職員宿舎から即時召集しても,医師33,看護婦87,薬剤師4,放射線技師4,検査技師3,事務官7程度であり,さらに手術室の数,余剰人工呼吸器の数,血液透析器の数などがボトルネックとなり,災害急性期に対応可能な患者数は発災直後で,重症(赤タッグ)6,中等症(黄)25,発災24時間後でも,重症18,中等症100程度が限界であり,それ以上の患者に対応する場合には,治療の質を大きく落とし,本来救命可能な患者をあきらめる「切り捨て」の医療とせざるを得ない。

 厚生省の調査では,東京都内60の災害拠点病院で発災24時間以内に受け入れ可能な(救命することを前提とした)重篤患者数は,合計で359名(拠点病院の被害程度によってさらに減少)であり,国土庁の試算による南関東大震災発生時(夏の正午,マグニチュード6.9)に想定されている,重篤患者発生数560名(東京都内)を,受け入れることは不可能である。被災重症患者を見捨てることなく,救命するには,患者広域搬送は不可欠条件であることはいうまでもない。

 災害拠点病院の後方搬送要請患者数や不足医薬品数および被災地外の受け入れ可能患者数を,一目で把握することを可能とする広域災害救急医療情報システム(厚生省)が整備されても,これを搬送・移送する手段が確立されていなければ有効な対策を講じることは出来ない。自衛隊・消防・警察・海上保安庁などの諸機関の実効ある連携の構築が急務であると考える。また基幹拠点病院に課せられた,もう一つの重要な任務は,災害医療に関する都道府県を越えた調整である。医療のエキスパートとしての立場から,県における災害時医療対策に深く関与するとともに,県をまたがる広域対応検討の際も,当該県の基幹拠点病院間の連携を平時より確立しておくことが,発災時に実効ある災害医療体制を構築する上で,不可欠であると考える。